039
「玉城はいるか〜〜!?」
休み時間、隣のクラスから沢村と降谷がやってきた。珍しい二人の来客に、玉城だけじゃなくクラス中が、止めるのも忘れて注目した。
「おっ!いたいた!」
沢村は玉城を見つけると笑顔でやってきて、玉城はそんな沢村を不思議そうに見た。
「…なにその大量のハイチュウ?」
玉城の視線は沢村の手に提げられているコンビニの袋に注がれていた。
「これか?キャップへの献上品だ!」
「キャップ?」
「我らがキャプテン御幸一也だ!」
玉城は他人事のように装って目を瞬き、ふうん、と言った。
「それで…何?」
「そうそう!これから御幸先輩のとこに行くんだけど、玉城も一緒に来てくれ!」
「え…なんで?」
ちょっと動揺を滲ませる玉城。俺もにわかに緊張した。沢村も降谷も、御幸先輩と玉城が付き合ってることは知らないはず…だよな?ちらりと小湊を見ると、小湊もちょっと緊張した顔で俺を見ていた。やっぱり…小湊が言ってないってことは知らないはず。っていうか、沢村に話したらその日のうちに学校中に広まりそうだし…言うわけない。
「だって御幸先輩、玉城のファンだし!」
「…ファン?」
予想外の言葉に玉城はきょとんと呟いた。
「おう。いつもいつも玉城ちゃん玉城ちゃん…携帯の待ち受けも玉城だし、毎月雑誌も買ってるし!っていうか買ってるの俺らだけどな!パシリで!」
「え……。」
玉城の顔がほんのり赤く染まった。知らなかったんだ…野球部内じゃ結構有名だけど…。
「御幸先輩、今日から東京選抜で宿敵稲実グラウンドに殴り込みに行くんだよ!大ファンの玉城から一言応援貰ったら絶対…」
「…行かない」
「え!?」
頬杖をついてそっぽを向いた玉城に慌てる沢村。
「な…なぜ!?この通り!お願いします勝利の女神様!!」
「や…やめてよ。行かないってば。」
机に手をついて頭を下げる沢村に困惑する玉城。教室中の注目を浴びて、更に困った様子で苦い顔をする。仲裁に入ってなんとか沢村たちには諦めてもらおう、と俺が席を立った時、降谷が静かに言った。
「御幸先輩のこと、嫌いなの?」
玉城は降谷を見上げ、ばつが悪そうに口を噤む。
下手に接触して、噂が立つのを避けているだけなのに…苦しいのは玉城なのに。だけどどうしようもない。沢村たちは悪くないし…。
「ごめん降谷、沢村。玉城、今日は忙しいんだよ。」
俺が玉城の席に行って言うと、鷹野も慌てて駆け寄ってきた。
「…そうそう!そうなの。ねっ光、そろそろ行かなきゃ。」
鷹野に腕を引かれ、玉城は立ち上がる。
そうか〜、と残念そうにしながら、沢村も降谷もちょっと腑に落ちない様子で玉城と鷹野を見送った。
***
「御幸先輩…」
夕食時、東京先発の顔合わせから帰ってきた御幸先輩の隣に沢村が行って、トレーを置きながら神妙な顔で言った。
「やばいっすよ…」
「何が?」
きょとんとしてお茶を飲む御幸先輩に、沢村はあくまで真剣に言った。
「アンタ玉城に何したんだ!嫌われすぎだろ!」
「は?」
顔を引きつらせる御幸先輩、ぽかんとしながらも沢村を睨む倉持先輩。ぎょっとして思わず顔を見合わせる俺と小湊…。
「今日降谷と玉城のとこに行ったんすよ!一緒に御幸先輩に激励を送ってほしいって!」
「何してくれちゃってんのお前ら…」
「そしたら行かないの一点張りで!キャップが熱心な玉城ファンだと伝えてもダメでした!」
「え…何言ったの?」
「そりゃー携帯の待ち受けのこととか雑誌毎月買ってる事とか毎日毎日玉城のこと…」
「……。」
御幸先輩の顔が真っ赤に…!!げ、激レアだ…!
「それでもダメなんて相当嫌われてますよ!やっぱ普段の行いのせいか!!しかし俺は知ってます 御幸一也という漢の本当の魅力を!ここはデキる漢っぷりをアピールしていきましょう!!我らが野球部を率いる主将 御幸一也の姿を見れば玉城だって見直してくれますよ!!」
「うるせえ黙って食え」
「そもそもいつも思ってたけど声のかけ方がなってない!あれじゃーただのナンパっすよ!!御幸一也は実は硬派で熱い漢だというところからアピールしていきましょう!なんなら俺が一肌脱ぎやしょうか!!」
「ヤメロお前は絶対に首を突っ込んでくるな」
み、御幸先輩が困ってる…!ここは事情を知ってる俺が何とかしないと…!
「さ、さわむ…」
「沢村先輩。」
俺の声を遮って沢村を呼んだのは、奥村だった。
「もうやめてくれませんか…聞くに堪えません。」
「な…何が?」
「光の名前を軽々しく連呼しないでください。」
静かにそう言い放った奥村に、沢村も周りの奴らも一瞬言葉を失って唖然とした。
「ひ…光って?」
「なぜ呼び捨て?」
ざわつく野次馬が見守る中、奥村に睨まれた沢村が口を開く。
「ど…どうした狼小僧!あっ!まさかお前も玉城ファンか!?」
「違います。」
奥村はぴしゃりと言って、ちらりと御幸先輩も睨む。
「…光のことをそんな低俗な話題に出さないでください。」
「え…!?」
困惑する沢村を余所に、奥村はそれだけ言うと、苦しそうにご飯を口に運び始めた。
「え…何!?どゆこと!?」
「……。」
「つーかお前は呼び捨てにしてるじゃねーか!なんなんだ貴様は」
沢村を無視して食事を続ける奥村。むぐぐと後輩を睨む沢村。
「沢村、奥村と玉城は親戚なんだよ。」
「え!?」
俺が説明すると、沢村だけじゃなく野球部員の中にも数名驚いた人がいた。前にちょっと騒ぎになったけど…まだ知らない人がいたらしい。
「マジで!?」
「いいからさっさと飯食え。今日お前投げるんじゃねーのかよ」
「あ!そうだった!!」
御幸先輩に急かされて、沢村はやっと席に着いた。奥村の介入は予想外だったけど…意外にもいい意味で沢村の興味を逸らせたみたいでよかった。俺が下手に御幸先輩を庇っても怪しくなっちゃうし…。
「東条。」
隣の信二に肘で小突かれて、俺は白米を飲みこんだ。
「ん?」
「お前は最近どうなんだよ、玉城さんと」
「あ、あ〜…」
「あ〜じゃねぇよ。1年くらいずっと言ってるけどよ、さっさと告れよマジで!」
そうだった…。信二にまだ言ってないんだよね…。言いふらすタイプじゃないけど、信二って結構顔に出るから…ちょっと不安で。だけどこういうことがあるたび、あぁ早く言っておけばよかった、と毎回後悔が滲む。玉城には、俺が大丈夫と思う人には言っても良いよ、と言われてるけど…小湊に話したのも事後報告だったし、万が一でも噂になったりしたらやっぱまずいんだろうし、あまり言いふらしたくない気持ちもある。でもな〜…信二には言っておくべきかな…。本気で俺の応援してくれてるしなー…。
「夏前に告れ!夏始まったらなかなか会えねーんだから」
「いや〜…」
「なんで及び腰だよ。お前ならいけるって!」
「……。」
「何でそんなに自信がねーのか本気でわかんねー。絶対両想いなのによ。」
違うんだよな〜…。
「…信二、ちょっとこの後…話したいことが…。」
「え?」
「…自販機行こう。」
「別にいいけど…?」
不思議そうな顔で承諾する信二に、俺はそっと胸の中で決意を固めた。
「…で、話したいことって?」
「うん…」
信二はベンチでファンタを飲みながら訊き、俺もファンタを買って信二の隣に座った。
「玉城さんのこと?」
「そ、そうだけど…」
俺は念のため辺りを見渡して、近くに誰もいないことを確認した。
「なんだよ。」
「実は…」
「…もしかしてもう告ったとか?」
「ち、違う違う!」
慌てて手を振る俺に、じゃあなんだよ、と顔を顰める信二。
「あのさ…誰にも言わないでほしいんだけど…」
「なんだよもったいつけて…」
「玉城…さ、」
「…?あぁ」
「御幸先輩と、付き合ってるんだよ。」
信二は口を半開きにしたまま微動だにせず俺を見つめ、その手からするりと缶が滑り落ちた。
「うわっ!!」
地面に叩きつけられ、俺と信二の足元に甘い液体をまき散らした缶。信二は慌てて砂だらけのそれを拾って、苦々しい顔で俺を見た。
「うーわ…わりぃ…」
「平気平気、お風呂入る前でよかった。」
「……。」
まだ動揺の滲む顔で中身を植木に捨て、空き缶をゴミ箱に入れて、信二はベンチに戻ってきた。
「…ってか……マジ?」
「マジだよ。」
大きく頷くと、信二は信じられないものを見る顔で俺を見た。
「お前…じゃあお前は?」
「え?俺?」
「え、だって…好きだったんじゃ…」
「うーん…」
確かにまだ苦い気持ちはある。だけど…
「多分…好きだったよ。でも、俺がはっきり気持ちを固めるよりも前に、御幸先輩は迷わず玉城に行ってた。だから…仕方ないって思ってるよ。」
「……。」
「どっちかっていうと、すっきりした気分だし。別に落ち込んでもないから。」
そう、あの二人ということに、どこか納得している自分がいる。
信二は俺の晴れやかな顔を見て、そうか、と呟いた。
「え〜…つーか…普通にビビるんだけど…。じゃあ御幸先輩、ずっと周りに隠してるってことかよ…」
「そうなんだよ。ずっとフラれ続けてるっていうのは嘘。」
「すげーな…」
信二はしみじみと呟いた。
「で…いつから付き合ってんの?」
「たしか…去年の秋大後くらいかららしいよ。」
「マジで!?じゃあ半年…くらいか?うわ、マジですげーな…」
「ねぇ、すごいよね。」
「つかすげぇビッグカップルじゃん。それで隠し通してるっていうのがまた…」
「ビッグカップルだからこそ、だろうね。」
「ああそうか…」
信二は納得したように頷いたものの、まだ頭の中を整理するかのように黙り込んだ。
「…一応今のところ、俺が知ってる限り、俺と、信二と…鷹野と卯月と…あと高津がそのこと知ってるんだけど…」
「…はぁ!?なんで高津が知ってるんだよ!?」
「偶然見たらしいよ。」
「何を?」
「……ふたりが…キスしてるとこ」
「……えっ」
顔をひきつらせた信二は、ちょっと顔を赤くして背けた。
「マジか…」
「驚いただろうね。あとは御幸先輩が誰に話してるかはわからないけど…倉持先輩かゾノ先輩あたりには話してるかもしれない。」
「へー…」
ちょっと興奮の滲む表情で相槌を打つ信二。わかるな〜…あの有名な二人が付き合っているという事実を知っている、たった数名の中に自分がいるという事実。御幸先輩もだけど、玉城なんて全国規模での超有名芸能人。きっとマスコミとかにバレたらヤバイやつだ。スキャンダルのど真ん中…。
「あー…信二に話しちゃった」
「な、なんだよそれ。別に誰にも言わねぇよ!」
「あ、うん、そこは心配してないけど…」
「…?」
「やっぱ…誰かに言うのって結構体力を消耗するって言うかさ。ああ現実なんだなって…」
「東条お前…」
不意に信二が神妙な顔になって俺を見た。
「やっぱ…玉城さんのこと…」
俺は精いっぱい口角を上げて笑った。
「信二、それはもう、禁句だよ。」
***
「玉城〜〜!!」
翌日。元気よくC組にやってきたB組の沢村と降谷、そして止めようとしたらしい信二を見て、玉城はちょっと引き気味に眉を寄せた。
「うおっ、た、確かにちょっと狼小僧に似てる…かも」
「狼小僧?」
また眉を顰める玉城。
「奥村のことだよ。」
俺がそう言うと、玉城はきょとんと眼を瞬いた。
「…なんで光舟が狼小僧?何か嘘ついたの?」
「いやそういうことじゃないんだけど…」
「それより玉城!!」
話しをぶった切って、沢村はスマホの画面を玉城の眼前に突き付けた。
「これを見ろ!!」
「え…?」
それは御幸先輩のインタビュー記事だった。東京選抜に選ばれたときのものだ。
「どうだ!?すごいだろ!?」
「…え、なんなの?」
「天才御幸一也!プロも注目する将来有望の男!強気のリードに盗塁殺しのレーザービーム!ついでになかなかの男前!」
「……。」
「オフショットではお茶目な一面もあるぞ!ほらこれ罰ゲームで監督のモノマネしたときの動画!」
「それは見せない方がいいんじゃない?」
「え?なんでだよ!」
ぼそりと止める降谷に反論する沢村、いい加減にしろ!と沢村をどつく信二。
玉城は静かに三人を眺めて、ぽつりと言った。
「何が言いたいの?」
玉城と御幸先輩の関係を知っている信二だけが硬直し、沢村と降谷はようやく玉城が耳を傾けてくれると思って勢いづいた。
「俺ら玉城に御幸先輩のいいところを知ってもらおうと思って!」
「え…?なんで?」
「御幸先輩が可哀そうだから…」
「違うだろ降谷!ただ玉城が御幸先輩のこと誤解してるから!」
「……。」
「あんな性格サイアクの腹黒ヤローだけど根は悪い人じゃないんだよ!」
「褒めてるの?それ…」
「降谷お前は黙ってろ!」
「お前らいい加減にしろよ!玉城さんに迷惑かけんな!教室帰るぞ!」
「待てカネマール〜〜!まだ肝心なことが…」
信二が引き摺って行こうとするのを、沢村と降谷は抵抗した。
「いいよ…」
すると玉城が呟いて、沢村も降谷も、信二も動きを止めた。
「知ってるから…優しい人だって」
「……。」
「……。」
「……。」
どこか優しい微笑を口元に浮かべて呟いた玉城を前に、沢村、降谷、信二の3人は動揺して硬直した。
「いや…優しくは…」
「ソコ否定すんのかよ!何しに来たんだよお前」
思わずつぶやいた沢村を信二がどついて、もういいだろ行くぞ!とふたりを引き摺って行った。
***
「良かったっすね御幸先輩!」
その日の夕食時、どや顔で現れた沢村を、すでに嫌な予感を察知したような顔で御幸先輩が見上げた。
「…今日は何?」
「玉城のことっすよ!この俺が一肌脱ぎやした!」
「ちょっと待って、僕も行ったよ」
「お前はほとんど何も言ってないだろ!つーか邪魔しかしてねぇ!」
「そんなことないし…」
争い始める主力投手二人に御幸先輩は顔をひきつらせた。
「…何をやらかしたの?」
「やらかしてねー!逆っすよ!この俺がばっちりアンタのイイトコを玉城にプレゼンしてきたんで!きっと今頃玉城の中でキャップの株は急上昇!感謝してくださいよ!わはははは!」
「はぁ…?」
「この調子で明日もキャップの武勇伝を熱く来やすんで!大船に乗ったつもりで待っててください!このキューピッド沢村が必ずやキャップと女神をいい雰囲気に…」
「いや、やめて。」
「何ビビってんすか?アンタらしくない!顔だけはいいんですからもっと自信を持って!」
「失礼な奴だな」
「沢村ァ!」
御幸先輩の向かいに座っている倉持先輩が怒号を上げて、沢村はすくみ上った。
「ごちゃごちゃうるせーぞ、さっさと食え!」
「……。」
その圧におされ、沢村は借りてきた猫のように大人しく着席した。ついでに降谷も隣に座った。
その時御幸先輩の携帯が鳴って、御幸先輩は携帯を少し弄ると、すぐにポケットに仕舞った。…メールらしい。
「沢村、降谷。食い終わったら5分付き合え。」
「え…」
突然の御幸先輩からの誘いに戸惑う沢村と降谷。
「倉持もいい?」
「…いいけど」
「東条と小湊も、いいか?」
突然こっちにも振られ、俺と小湊は一瞬目を丸くして顔を見合わせた。
「は、はい!」
「はい!」
返事をしてから、俺はその面子に心当たりを思い出した。
「あ…御幸先輩!信二もいいですか。」
そう言うと、御幸先輩は意図を悟ったようで、あぁ、と頷いた。
***
御幸先輩は5号室にみんなを集めた。浅田はまだ食堂だから、ここにいるのは呼ばれたメンバーだけだ。
「東条はもう察しがついてると思うけど…」
御幸先輩はそう前置きをして、信二を見た。
「金丸も知ってるってことでいいんだよな?」
「は…、はい。」
信二が頷くと、御幸先輩は口角を上げる。
「いや〜結構もう広まってんなぁ」
「何がだよ!何の話か全然わかんねーんすけどこっちは!」
「キレんなよ。」
沢村を宥め、御幸先輩は胡坐をかいた。
「さっき許可とったから沢村と降谷にも教えるけど…」
「許可?」
なんのことやらと目を瞬く沢村と降谷に、御幸先輩は言った。
「俺と玉城、もう付き合ってるから。」
沢村と降谷は目を瞬いて――
「…いやいやいや!何言ってんだ!さすがに苦しいっすよその嘘は!」
「……。」
思い切りバカにする沢村、疑わし気に御幸先輩を睨む降谷。笑い飛ばす御幸先輩。すると…
「ほんとだよ。」
倉持先輩がそう言って、ふたりは表情を固めた。
「…え!?」
「去年の秋大後かららしいぜ。ここにいるやつは全員知ってる」
「え…え!?」
取り乱して俺たちを見渡す沢村と降谷。
「は…春っちに東条にカネマールまで!?お前ら知ってて俺を嘲笑っていたのかぁぁ〜〜〜!!」
「なんでそうなるんだよ!つーか俺もつい最近だよ、知ったのは…」
信二が沢村を黙らせて、御幸先輩はにんまり笑った。
「つーわけで、お前らがやってることは完全に余計なお世話なわけ。わかった?」
「うぐぐ…。」
「まぁどっちにしろ迷惑だから余計なことすんな!」
わははは、と笑って、御幸先輩は堂々と言い放った。
「俺は欲しいもんは自力で手に入れるからさ。」
「……。」
「……。」
沢村と降谷が唖然とした、その時――
「いて!」
倉持先輩が御幸先輩を蹴飛ばした。
「え…なんで…」
「なんか腹立つ」
フンと鼻を鳴らして腕を組んだ倉持先輩に、御幸先輩は、え〜、と苦笑した。
「そういうわけだから、わかってると思うけど、誰にも言うなよ。」
「え…」
「アイツ芸能人だからさ。わかるだろ?大騒ぎになるってこと」
「……。」
「お前らに話したのはいい加減ウザかったから。いいな?だ・れ・に・も、言うんじゃねーぞ。特に沢村!」
御幸先輩が念押しするように言うと、沢村は肩を竦めて固まった。うっかり口を滑らせてしまいそうだという自覚はあるらしい…。
「悪いけどお前ら、こいつらが何かしでかしたらフォロー頼むな。」
「は、はい。」
俺たち三人を見渡して御幸先輩は言って、じゃあ、と立ち上がり、倉持先輩と部屋を出て行った。
休み時間、隣のクラスから沢村と降谷がやってきた。珍しい二人の来客に、玉城だけじゃなくクラス中が、止めるのも忘れて注目した。
「おっ!いたいた!」
沢村は玉城を見つけると笑顔でやってきて、玉城はそんな沢村を不思議そうに見た。
「…なにその大量のハイチュウ?」
玉城の視線は沢村の手に提げられているコンビニの袋に注がれていた。
「これか?キャップへの献上品だ!」
「キャップ?」
「我らがキャプテン御幸一也だ!」
玉城は他人事のように装って目を瞬き、ふうん、と言った。
「それで…何?」
「そうそう!これから御幸先輩のとこに行くんだけど、玉城も一緒に来てくれ!」
「え…なんで?」
ちょっと動揺を滲ませる玉城。俺もにわかに緊張した。沢村も降谷も、御幸先輩と玉城が付き合ってることは知らないはず…だよな?ちらりと小湊を見ると、小湊もちょっと緊張した顔で俺を見ていた。やっぱり…小湊が言ってないってことは知らないはず。っていうか、沢村に話したらその日のうちに学校中に広まりそうだし…言うわけない。
「だって御幸先輩、玉城のファンだし!」
「…ファン?」
予想外の言葉に玉城はきょとんと呟いた。
「おう。いつもいつも玉城ちゃん玉城ちゃん…携帯の待ち受けも玉城だし、毎月雑誌も買ってるし!っていうか買ってるの俺らだけどな!パシリで!」
「え……。」
玉城の顔がほんのり赤く染まった。知らなかったんだ…野球部内じゃ結構有名だけど…。
「御幸先輩、今日から東京選抜で宿敵稲実グラウンドに殴り込みに行くんだよ!大ファンの玉城から一言応援貰ったら絶対…」
「…行かない」
「え!?」
頬杖をついてそっぽを向いた玉城に慌てる沢村。
「な…なぜ!?この通り!お願いします勝利の女神様!!」
「や…やめてよ。行かないってば。」
机に手をついて頭を下げる沢村に困惑する玉城。教室中の注目を浴びて、更に困った様子で苦い顔をする。仲裁に入ってなんとか沢村たちには諦めてもらおう、と俺が席を立った時、降谷が静かに言った。
「御幸先輩のこと、嫌いなの?」
玉城は降谷を見上げ、ばつが悪そうに口を噤む。
下手に接触して、噂が立つのを避けているだけなのに…苦しいのは玉城なのに。だけどどうしようもない。沢村たちは悪くないし…。
「ごめん降谷、沢村。玉城、今日は忙しいんだよ。」
俺が玉城の席に行って言うと、鷹野も慌てて駆け寄ってきた。
「…そうそう!そうなの。ねっ光、そろそろ行かなきゃ。」
鷹野に腕を引かれ、玉城は立ち上がる。
そうか〜、と残念そうにしながら、沢村も降谷もちょっと腑に落ちない様子で玉城と鷹野を見送った。
***
「御幸先輩…」
夕食時、東京先発の顔合わせから帰ってきた御幸先輩の隣に沢村が行って、トレーを置きながら神妙な顔で言った。
「やばいっすよ…」
「何が?」
きょとんとしてお茶を飲む御幸先輩に、沢村はあくまで真剣に言った。
「アンタ玉城に何したんだ!嫌われすぎだろ!」
「は?」
顔を引きつらせる御幸先輩、ぽかんとしながらも沢村を睨む倉持先輩。ぎょっとして思わず顔を見合わせる俺と小湊…。
「今日降谷と玉城のとこに行ったんすよ!一緒に御幸先輩に激励を送ってほしいって!」
「何してくれちゃってんのお前ら…」
「そしたら行かないの一点張りで!キャップが熱心な玉城ファンだと伝えてもダメでした!」
「え…何言ったの?」
「そりゃー携帯の待ち受けのこととか雑誌毎月買ってる事とか毎日毎日玉城のこと…」
「……。」
御幸先輩の顔が真っ赤に…!!げ、激レアだ…!
「それでもダメなんて相当嫌われてますよ!やっぱ普段の行いのせいか!!しかし俺は知ってます 御幸一也という漢の本当の魅力を!ここはデキる漢っぷりをアピールしていきましょう!!我らが野球部を率いる主将 御幸一也の姿を見れば玉城だって見直してくれますよ!!」
「うるせえ黙って食え」
「そもそもいつも思ってたけど声のかけ方がなってない!あれじゃーただのナンパっすよ!!御幸一也は実は硬派で熱い漢だというところからアピールしていきましょう!なんなら俺が一肌脱ぎやしょうか!!」
「ヤメロお前は絶対に首を突っ込んでくるな」
み、御幸先輩が困ってる…!ここは事情を知ってる俺が何とかしないと…!
「さ、さわむ…」
「沢村先輩。」
俺の声を遮って沢村を呼んだのは、奥村だった。
「もうやめてくれませんか…聞くに堪えません。」
「な…何が?」
「光の名前を軽々しく連呼しないでください。」
静かにそう言い放った奥村に、沢村も周りの奴らも一瞬言葉を失って唖然とした。
「ひ…光って?」
「なぜ呼び捨て?」
ざわつく野次馬が見守る中、奥村に睨まれた沢村が口を開く。
「ど…どうした狼小僧!あっ!まさかお前も玉城ファンか!?」
「違います。」
奥村はぴしゃりと言って、ちらりと御幸先輩も睨む。
「…光のことをそんな低俗な話題に出さないでください。」
「え…!?」
困惑する沢村を余所に、奥村はそれだけ言うと、苦しそうにご飯を口に運び始めた。
「え…何!?どゆこと!?」
「……。」
「つーかお前は呼び捨てにしてるじゃねーか!なんなんだ貴様は」
沢村を無視して食事を続ける奥村。むぐぐと後輩を睨む沢村。
「沢村、奥村と玉城は親戚なんだよ。」
「え!?」
俺が説明すると、沢村だけじゃなく野球部員の中にも数名驚いた人がいた。前にちょっと騒ぎになったけど…まだ知らない人がいたらしい。
「マジで!?」
「いいからさっさと飯食え。今日お前投げるんじゃねーのかよ」
「あ!そうだった!!」
御幸先輩に急かされて、沢村はやっと席に着いた。奥村の介入は予想外だったけど…意外にもいい意味で沢村の興味を逸らせたみたいでよかった。俺が下手に御幸先輩を庇っても怪しくなっちゃうし…。
「東条。」
隣の信二に肘で小突かれて、俺は白米を飲みこんだ。
「ん?」
「お前は最近どうなんだよ、玉城さんと」
「あ、あ〜…」
「あ〜じゃねぇよ。1年くらいずっと言ってるけどよ、さっさと告れよマジで!」
そうだった…。信二にまだ言ってないんだよね…。言いふらすタイプじゃないけど、信二って結構顔に出るから…ちょっと不安で。だけどこういうことがあるたび、あぁ早く言っておけばよかった、と毎回後悔が滲む。玉城には、俺が大丈夫と思う人には言っても良いよ、と言われてるけど…小湊に話したのも事後報告だったし、万が一でも噂になったりしたらやっぱまずいんだろうし、あまり言いふらしたくない気持ちもある。でもな〜…信二には言っておくべきかな…。本気で俺の応援してくれてるしなー…。
「夏前に告れ!夏始まったらなかなか会えねーんだから」
「いや〜…」
「なんで及び腰だよ。お前ならいけるって!」
「……。」
「何でそんなに自信がねーのか本気でわかんねー。絶対両想いなのによ。」
違うんだよな〜…。
「…信二、ちょっとこの後…話したいことが…。」
「え?」
「…自販機行こう。」
「別にいいけど…?」
不思議そうな顔で承諾する信二に、俺はそっと胸の中で決意を固めた。
「…で、話したいことって?」
「うん…」
信二はベンチでファンタを飲みながら訊き、俺もファンタを買って信二の隣に座った。
「玉城さんのこと?」
「そ、そうだけど…」
俺は念のため辺りを見渡して、近くに誰もいないことを確認した。
「なんだよ。」
「実は…」
「…もしかしてもう告ったとか?」
「ち、違う違う!」
慌てて手を振る俺に、じゃあなんだよ、と顔を顰める信二。
「あのさ…誰にも言わないでほしいんだけど…」
「なんだよもったいつけて…」
「玉城…さ、」
「…?あぁ」
「御幸先輩と、付き合ってるんだよ。」
信二は口を半開きにしたまま微動だにせず俺を見つめ、その手からするりと缶が滑り落ちた。
「うわっ!!」
地面に叩きつけられ、俺と信二の足元に甘い液体をまき散らした缶。信二は慌てて砂だらけのそれを拾って、苦々しい顔で俺を見た。
「うーわ…わりぃ…」
「平気平気、お風呂入る前でよかった。」
「……。」
まだ動揺の滲む顔で中身を植木に捨て、空き缶をゴミ箱に入れて、信二はベンチに戻ってきた。
「…ってか……マジ?」
「マジだよ。」
大きく頷くと、信二は信じられないものを見る顔で俺を見た。
「お前…じゃあお前は?」
「え?俺?」
「え、だって…好きだったんじゃ…」
「うーん…」
確かにまだ苦い気持ちはある。だけど…
「多分…好きだったよ。でも、俺がはっきり気持ちを固めるよりも前に、御幸先輩は迷わず玉城に行ってた。だから…仕方ないって思ってるよ。」
「……。」
「どっちかっていうと、すっきりした気分だし。別に落ち込んでもないから。」
そう、あの二人ということに、どこか納得している自分がいる。
信二は俺の晴れやかな顔を見て、そうか、と呟いた。
「え〜…つーか…普通にビビるんだけど…。じゃあ御幸先輩、ずっと周りに隠してるってことかよ…」
「そうなんだよ。ずっとフラれ続けてるっていうのは嘘。」
「すげーな…」
信二はしみじみと呟いた。
「で…いつから付き合ってんの?」
「たしか…去年の秋大後くらいかららしいよ。」
「マジで!?じゃあ半年…くらいか?うわ、マジですげーな…」
「ねぇ、すごいよね。」
「つかすげぇビッグカップルじゃん。それで隠し通してるっていうのがまた…」
「ビッグカップルだからこそ、だろうね。」
「ああそうか…」
信二は納得したように頷いたものの、まだ頭の中を整理するかのように黙り込んだ。
「…一応今のところ、俺が知ってる限り、俺と、信二と…鷹野と卯月と…あと高津がそのこと知ってるんだけど…」
「…はぁ!?なんで高津が知ってるんだよ!?」
「偶然見たらしいよ。」
「何を?」
「……ふたりが…キスしてるとこ」
「……えっ」
顔をひきつらせた信二は、ちょっと顔を赤くして背けた。
「マジか…」
「驚いただろうね。あとは御幸先輩が誰に話してるかはわからないけど…倉持先輩かゾノ先輩あたりには話してるかもしれない。」
「へー…」
ちょっと興奮の滲む表情で相槌を打つ信二。わかるな〜…あの有名な二人が付き合っているという事実を知っている、たった数名の中に自分がいるという事実。御幸先輩もだけど、玉城なんて全国規模での超有名芸能人。きっとマスコミとかにバレたらヤバイやつだ。スキャンダルのど真ん中…。
「あー…信二に話しちゃった」
「な、なんだよそれ。別に誰にも言わねぇよ!」
「あ、うん、そこは心配してないけど…」
「…?」
「やっぱ…誰かに言うのって結構体力を消耗するって言うかさ。ああ現実なんだなって…」
「東条お前…」
不意に信二が神妙な顔になって俺を見た。
「やっぱ…玉城さんのこと…」
俺は精いっぱい口角を上げて笑った。
「信二、それはもう、禁句だよ。」
***
「玉城〜〜!!」
翌日。元気よくC組にやってきたB組の沢村と降谷、そして止めようとしたらしい信二を見て、玉城はちょっと引き気味に眉を寄せた。
「うおっ、た、確かにちょっと狼小僧に似てる…かも」
「狼小僧?」
また眉を顰める玉城。
「奥村のことだよ。」
俺がそう言うと、玉城はきょとんと眼を瞬いた。
「…なんで光舟が狼小僧?何か嘘ついたの?」
「いやそういうことじゃないんだけど…」
「それより玉城!!」
話しをぶった切って、沢村はスマホの画面を玉城の眼前に突き付けた。
「これを見ろ!!」
「え…?」
それは御幸先輩のインタビュー記事だった。東京選抜に選ばれたときのものだ。
「どうだ!?すごいだろ!?」
「…え、なんなの?」
「天才御幸一也!プロも注目する将来有望の男!強気のリードに盗塁殺しのレーザービーム!ついでになかなかの男前!」
「……。」
「オフショットではお茶目な一面もあるぞ!ほらこれ罰ゲームで監督のモノマネしたときの動画!」
「それは見せない方がいいんじゃない?」
「え?なんでだよ!」
ぼそりと止める降谷に反論する沢村、いい加減にしろ!と沢村をどつく信二。
玉城は静かに三人を眺めて、ぽつりと言った。
「何が言いたいの?」
玉城と御幸先輩の関係を知っている信二だけが硬直し、沢村と降谷はようやく玉城が耳を傾けてくれると思って勢いづいた。
「俺ら玉城に御幸先輩のいいところを知ってもらおうと思って!」
「え…?なんで?」
「御幸先輩が可哀そうだから…」
「違うだろ降谷!ただ玉城が御幸先輩のこと誤解してるから!」
「……。」
「あんな性格サイアクの腹黒ヤローだけど根は悪い人じゃないんだよ!」
「褒めてるの?それ…」
「降谷お前は黙ってろ!」
「お前らいい加減にしろよ!玉城さんに迷惑かけんな!教室帰るぞ!」
「待てカネマール〜〜!まだ肝心なことが…」
信二が引き摺って行こうとするのを、沢村と降谷は抵抗した。
「いいよ…」
すると玉城が呟いて、沢村も降谷も、信二も動きを止めた。
「知ってるから…優しい人だって」
「……。」
「……。」
「……。」
どこか優しい微笑を口元に浮かべて呟いた玉城を前に、沢村、降谷、信二の3人は動揺して硬直した。
「いや…優しくは…」
「ソコ否定すんのかよ!何しに来たんだよお前」
思わずつぶやいた沢村を信二がどついて、もういいだろ行くぞ!とふたりを引き摺って行った。
***
「良かったっすね御幸先輩!」
その日の夕食時、どや顔で現れた沢村を、すでに嫌な予感を察知したような顔で御幸先輩が見上げた。
「…今日は何?」
「玉城のことっすよ!この俺が一肌脱ぎやした!」
「ちょっと待って、僕も行ったよ」
「お前はほとんど何も言ってないだろ!つーか邪魔しかしてねぇ!」
「そんなことないし…」
争い始める主力投手二人に御幸先輩は顔をひきつらせた。
「…何をやらかしたの?」
「やらかしてねー!逆っすよ!この俺がばっちりアンタのイイトコを玉城にプレゼンしてきたんで!きっと今頃玉城の中でキャップの株は急上昇!感謝してくださいよ!わはははは!」
「はぁ…?」
「この調子で明日もキャップの武勇伝を熱く来やすんで!大船に乗ったつもりで待っててください!このキューピッド沢村が必ずやキャップと女神をいい雰囲気に…」
「いや、やめて。」
「何ビビってんすか?アンタらしくない!顔だけはいいんですからもっと自信を持って!」
「失礼な奴だな」
「沢村ァ!」
御幸先輩の向かいに座っている倉持先輩が怒号を上げて、沢村はすくみ上った。
「ごちゃごちゃうるせーぞ、さっさと食え!」
「……。」
その圧におされ、沢村は借りてきた猫のように大人しく着席した。ついでに降谷も隣に座った。
その時御幸先輩の携帯が鳴って、御幸先輩は携帯を少し弄ると、すぐにポケットに仕舞った。…メールらしい。
「沢村、降谷。食い終わったら5分付き合え。」
「え…」
突然の御幸先輩からの誘いに戸惑う沢村と降谷。
「倉持もいい?」
「…いいけど」
「東条と小湊も、いいか?」
突然こっちにも振られ、俺と小湊は一瞬目を丸くして顔を見合わせた。
「は、はい!」
「はい!」
返事をしてから、俺はその面子に心当たりを思い出した。
「あ…御幸先輩!信二もいいですか。」
そう言うと、御幸先輩は意図を悟ったようで、あぁ、と頷いた。
***
御幸先輩は5号室にみんなを集めた。浅田はまだ食堂だから、ここにいるのは呼ばれたメンバーだけだ。
「東条はもう察しがついてると思うけど…」
御幸先輩はそう前置きをして、信二を見た。
「金丸も知ってるってことでいいんだよな?」
「は…、はい。」
信二が頷くと、御幸先輩は口角を上げる。
「いや〜結構もう広まってんなぁ」
「何がだよ!何の話か全然わかんねーんすけどこっちは!」
「キレんなよ。」
沢村を宥め、御幸先輩は胡坐をかいた。
「さっき許可とったから沢村と降谷にも教えるけど…」
「許可?」
なんのことやらと目を瞬く沢村と降谷に、御幸先輩は言った。
「俺と玉城、もう付き合ってるから。」
沢村と降谷は目を瞬いて――
「…いやいやいや!何言ってんだ!さすがに苦しいっすよその嘘は!」
「……。」
思い切りバカにする沢村、疑わし気に御幸先輩を睨む降谷。笑い飛ばす御幸先輩。すると…
「ほんとだよ。」
倉持先輩がそう言って、ふたりは表情を固めた。
「…え!?」
「去年の秋大後かららしいぜ。ここにいるやつは全員知ってる」
「え…え!?」
取り乱して俺たちを見渡す沢村と降谷。
「は…春っちに東条にカネマールまで!?お前ら知ってて俺を嘲笑っていたのかぁぁ〜〜〜!!」
「なんでそうなるんだよ!つーか俺もつい最近だよ、知ったのは…」
信二が沢村を黙らせて、御幸先輩はにんまり笑った。
「つーわけで、お前らがやってることは完全に余計なお世話なわけ。わかった?」
「うぐぐ…。」
「まぁどっちにしろ迷惑だから余計なことすんな!」
わははは、と笑って、御幸先輩は堂々と言い放った。
「俺は欲しいもんは自力で手に入れるからさ。」
「……。」
「……。」
沢村と降谷が唖然とした、その時――
「いて!」
倉持先輩が御幸先輩を蹴飛ばした。
「え…なんで…」
「なんか腹立つ」
フンと鼻を鳴らして腕を組んだ倉持先輩に、御幸先輩は、え〜、と苦笑した。
「そういうわけだから、わかってると思うけど、誰にも言うなよ。」
「え…」
「アイツ芸能人だからさ。わかるだろ?大騒ぎになるってこと」
「……。」
「お前らに話したのはいい加減ウザかったから。いいな?だ・れ・に・も、言うんじゃねーぞ。特に沢村!」
御幸先輩が念押しするように言うと、沢村は肩を竦めて固まった。うっかり口を滑らせてしまいそうだという自覚はあるらしい…。
「悪いけどお前ら、こいつらが何かしでかしたらフォロー頼むな。」
「は、はい。」
俺たち三人を見渡して御幸先輩は言って、じゃあ、と立ち上がり、倉持先輩と部屋を出て行った。