006
「よしコレも若菜に送るぞ」
「おい!いい加減に…」
「タメ口ィ!!」
「いってぇ!!!」
倉持に携帯を奪われ弄ばれている沢村を見て、俺はふとポケットから自分の携帯を取り出す。
…電話こねえぇぇ。結構ハズカシーこと言ったよな俺…。もしかして引かれた?お前なんか眼中にねーよって感じ?そういや玉城男嫌いだし…。いやでもなんだかんだ夏休み入ってから毎試合応援に来てくれてるから、ちょっとは脈ありかと思ったんだけどなー…。
ヴーッヴーッ、と突然手の中で携帯が鳴った。え…まさか…!
番号は…登録されてない番号…。や、やっぱり…玉城か!?ほ、ほんとに電話してくれるなんて!
誰にも気づかれぬようにこっそりと5号室を出て、走って人気のない場所を探しながら電話に出た。
「も…もしもし!」
『…もしもし』
女の子の声…玉城だ…!
やべえ…緊張してきた…。
「…玉城?」
『はい』
倉庫の裏に回り込み、花壇のふちに座った。ここなら誰も来ないだろう。
「はは…ホントに電話してくれたんだ」
『……。』
「いやー、もう今日は来ねーと思ってたから…びっくりした…」
照れ隠しにそう呟くと、静かな声が返ってきた。
『遅くなって…すみません』
「え、いや…」
『さっき…成宮さんから電話が来ちゃって』
「え…」
…え!!?
『それで、ちょっと遅くなっちゃいました。』
「な…成宮と電話してたの?」
『はい。』
はいって…はいって!!
けど…電話するななんて言う資格は、俺にはない…。彼女でもないし。
「あいつ…何言ってた?」
『え…?…特に…今何してるのとか、明日応援に来てねとか…』
「……。」
う…モヤモヤする。いや、ムカムカする。
『あ…。』
「ん…どした?」
電話の向こうで何か物音がする。鍵の音みたいな…硬い音だ。
『…すみません、お父さんが帰ってきたから…』
「あ…、そう、わ、わかった」
…親に電話聞かれたくないのかな?
『先輩、明日、頑張ってください。』
「……。」
『じゃ…おやすみなさい。』
プツン、と電話が切れた。な…なんか、こんな素直に応援されたの初めてだから、驚いて…反応できないまま電話が切れてしまった。
ほ…ほんとに玉城だったんだよな?あのつれない…いつもほとんど無視する玉城…。だけど…
――…明日、頑張ってください。
じんわりと胸の奥に温かいものが広がる。何の変哲もない言葉…なのに、なんかすげぇ…ドキドキする。
「…っと」
いけねーいけねー。忘れないうちに今の番号登録しとかねーと…。玉城光…その名前が電話帳に並び、つい口元が緩んだ。
さて、明日に備えてもう寝るかな。おっと…沢村と降谷が夜更かししねーように、ちょっと5号室寄ってくか。
5号室に戻り、ドアを開けると――それまで部屋の外まで聞こえていた喧騒が一気に静まり、部屋にいた奴らの視線を一斉に浴びた。
「え…、な、なんすか?」
思わず引きつる笑顔で言う。しまった…なんか、来ない方が良かったかも…。倉持がゆらりと立ち上がり、俺に近づく。
「御幸お前…ドコ行ってた?」
「え…ちょっと外の空気を吸いに」
「嘘吐け!電話が鳴った途端コッソリ抜け出しやがって!気付いてねーとでも思ったか!」
う…うわ〜〜バレてたか…。
「もしかして玉城さん?」
亮さんがニコニコ上機嫌に尋ねる。
「いや…親ですよ」
「ふうん?」
はぐらかすと、亮さんは意味ありげに鼻を鳴らした。
「あやし〜。」
「……。」
ギクリとする。このヒト鋭いからな…。
「でも玉城さんからじゃないってことは…あんだけ引き下がったのに結局電話貰えなかったってコト?」
「え…」
「一度目は油性ペンで手に電話番号書いて…2度目は番号書いたメモ渡したんでしょ?」
「……。」
「必死じゃん(笑)」
な…なぜそれを…。ハッ!亮さんが知ってるってことは…。
くるり、と小湊弟を見ると、ぎくりとして首をぶんぶん横に振った。続けて沢村を見ると…きょとん、と俺を見つめている。そして倉持を見ると…面白そうにニヤニヤして…
「お前か!!」
「秘密にしろなんて言われてねーし。ヒャハハ」
「哲、写メ撮っとけよ。こんな御幸レアだよ、レア。」
「うむ」
「ちょっ…哲さん!」
パシャー、とカメラの音が響く。く…くそ…不覚…!
「決勝前に女子から電話貰ってんじゃねーぞ御幸ィィ!!」
「じ…純さん 痛いっす…」
「甲子園に連れてく約束かオラァ〜〜!!」
「ま…マンガ読みすぎ…」
「でも成宮も玉城さんのこと狙ってるよね。」
「あんだとコラァ!!御幸テメー稲実に青道の女子掻っ攫われるんじゃねーぞ!?アァ!?」
「……。」
な、なんだこれ…。
「玉城さん、球場に応援に来るたびにナンパされてない?」
「まーあの子はちょっとビックリするくらい美人だよな…」
「ゲーノー界いけるよな」
「もうスカウトされてんじゃね?」
「玉城さんが目立ちすぎるからあれだけど、いつも一緒にいるコたちも結構可愛いよね。」
「あー、背の高いショートヘアの女子と…」
「小柄で可愛い系の女子な。」
「名前なんて言うの?春市知ってる?」
「え…」
ウトウトする降谷を揺さぶり起こしていた小湊弟が振り返った。
「あ…鷹野さんと卯月さん?」
「何組?何部?」
「部活は知らないけど…A組だよ。玉城さんとか東条君と同じ…」
「おーい誰か東条呼んで来い!」
そしてほどなくして5号室にはせ参じる東条。と、ついでに金丸。
「あの…話って?」
ちょっと困惑をにじませて先輩達を見渡す東条。
「玉城さんといつも一緒にいる女子たちいるじゃん?」
「あぁ…鷹野と卯月ですか?」
「詳しく教えてよ。」
なぜ?と顔ににじませながら、東条は頬を掻いた。
「えっと…鷹野はクラス委員長でバレーボール部…運動神経がめちゃくちゃ良くて、スポーツ推薦で来たらしいです。で、卯月は副委員長で…軽音楽部でバンド組んでギターとボーカルやってるって言ってました。ふたりとも同じ中学出身で、その頃から仲良かったみたいです。」
「へー、詳しいじゃん」
「ま、まあ、クラスで結構目立つので」
ふ〜ん、と呟く亮さん。また何か企んでるんじゃ…。
「それで?」
「え?」
「やっぱ東条的には玉城さん推しなわけ?」
「え…」
見る見るうちに真っ赤になる顔。わかりやすい図星だ…
「は〜〜皆面食いだね。どいつもこいつも玉城さん…」
「なっ…!」「い、いや!」「俺は…!」
「……。」
思わず声を上げた東条、俺、…倉持。部屋の中が静まり返り、急に亮さんが腹を抱えて噴出した。
「ぶふっ…馬鹿正直だなお前ら」
「……!!」
「つーか倉持もかよ。お前多分名前も覚えられてないと思うよ。」
「……!!!!!」
「よーしこん中でだれが玉城さんを落とせるか賭けようぜ」
「俺東条に1票」
「俺も〜」
「俺は成宮」
「お前他校に賭けんなよ!あ、俺も東条」
「皆東条かよ!…しょーがねえ俺は御幸でいいよ」
「倉持誰もいないの?まぁ無理もないか…」
こ…この人たちは〜〜…!!
「あ…あの…」
東条がおずおずと手を挙げた。
「玉城…こういう噂、ホント苦手みたいで…」
「……。」
「あの…俺は全然弄られていいんで!でも本人は…そっとしていてあげてほしいっていうか…」
「……。」
「お…お願いします!」
「……。」
東条が頭を下げると、先輩たちが無言で顔を見合わせた。
「…俺やっぱ東条に変える〜」
「あ、待て俺も!」
「おい、賭けになんねーよ!」
「……。」
「……。」
「……。」
かくして、夜は更けていった。
***
そして迎えた決勝戦当日――。
球場に着きバスを降りると、応援に来てくれた生徒たちやOBに囲まれる。
「頑張れよ〜!!」
「結城ーー!!」
「伊佐敷〜〜!!!」
「甲子園行けよ〜〜〜!!!」
甲子園…。今日勝てば、甲子園。チャンスは目の前だ――。
「あ、玉城さん。」
え。
亮さんの呟きに思わず周りを見渡した。……ドコだ?
「プッ…」
「……。」
ちょっと噴き出す亮さん。まさか…。
「御幸お前、わかりやすすぎ(笑)」
「……。」
「そんな騙されやすくて捕手が務まるの?」
「……。」
だ…騙された…。
けど…ここまで毎試合応援に来てくれてたんだ。今日も来てくれてるはず…だよな?
モヤモヤしながら球場の入り口に行き、ついつい辺りを見渡す。玉城…来てねーのかな?もう中にいる?それともまだ来てないだけ…?
「キョロキョロすんな!1年より落ち着きねーぞお前!」
「…わりぃ」
倉持に蹴飛ばされて我に返った。ヤバイな俺…玉城のこと考えすぎ…。…今は試合に集中!
そう思った矢先、一人の青道生の女子生徒に目が留まった。あの後ろ姿…。つーか、話してる相手も…
成宮と話している、すらりと整った立ち姿の女子。明るい亜麻色の長い髪、真っ白な肌。あれは――
「玉城!」
呼びかけながらずんずん近づいていくと、玉城と成宮がこっちを見た。俺は成宮を無視し、玉城の腕を掴む。…ほそっ。
「…青道はこっち!」
「え…?」
腕を引っ張って連れていこうとすると、ぐっ、と引っ張られた。振り向くと、成宮が玉城の腕を掴んでいた。
「……。」
「……。」
無言で睨みあう。試合前に一言でもコイツと話すつもりはないし、成宮もそれは同じようだ。
「あの…」
すると玉城が口を開いた。
「離してください…恥ずかしいので」
「……。」
「……。」
俺も成宮も無言のまま手を離した。
「光ちゃん!」
成宮がちょっと俺を睨み、玉城に言う。
「昨日電話で言ったこと…考えといてね!」
「……。」
「じゃね!」
それだけ言うと、成宮は走って行ってしまった。…昨日電話で言ったこと…?ま…まさかあいつ、もう告白して…
「御幸先輩。」
「…え!?」
「皆行っちゃいますよ。いいんですか?」
「あ!!…行くぞ!」
よくない!玉城の背中を促し、軽い駆け足で皆の後を追う。
「なんで私まで?」
「応援席行くんだろ?うちの応援団の近く座っとけよ。」
「……。」
「つーかお前今日一人?いつもの友達は?」
「ふたりとも今日は部活で…ちょっと遅れてくるんです」
ふーん…それでも一足先に来てくれたのか…。
「つーかお前青道生だろ!試合前に敵と仲良くするなよ」
「別に仲良くなんて…」
「じゃあ何話してたんだよ」
「…先輩いつも成宮さんのこと気にしてますよね…仲悪いんですか?」
「……。」
この…鈍感!!気にしてんのは成宮じゃなくてお前だよ!
「あ〜も〜いいわ…ホレあの水色のTシャツの集団のあとついてけ!こっちのベンチのすぐそばに行くから」
「はい…」
玉城の背中を押して野球部の後をついて行くように促すと、玉城はちょっと俺を振り返った。
「じゃあ…頑張ってください」
「あ…、お、おう」
くるりと踵を返して歩いていく玉城。まただ…なんか、ドキドキして…。玉城に言われた言葉ってだけで、なんかすごく、胸が締め付けられる…。
この試合に勝ったら…。甲子園に行けたら…。
俺…玉城に…――。
「おい!いい加減に…」
「タメ口ィ!!」
「いってぇ!!!」
倉持に携帯を奪われ弄ばれている沢村を見て、俺はふとポケットから自分の携帯を取り出す。
…電話こねえぇぇ。結構ハズカシーこと言ったよな俺…。もしかして引かれた?お前なんか眼中にねーよって感じ?そういや玉城男嫌いだし…。いやでもなんだかんだ夏休み入ってから毎試合応援に来てくれてるから、ちょっとは脈ありかと思ったんだけどなー…。
ヴーッヴーッ、と突然手の中で携帯が鳴った。え…まさか…!
番号は…登録されてない番号…。や、やっぱり…玉城か!?ほ、ほんとに電話してくれるなんて!
誰にも気づかれぬようにこっそりと5号室を出て、走って人気のない場所を探しながら電話に出た。
「も…もしもし!」
『…もしもし』
女の子の声…玉城だ…!
やべえ…緊張してきた…。
「…玉城?」
『はい』
倉庫の裏に回り込み、花壇のふちに座った。ここなら誰も来ないだろう。
「はは…ホントに電話してくれたんだ」
『……。』
「いやー、もう今日は来ねーと思ってたから…びっくりした…」
照れ隠しにそう呟くと、静かな声が返ってきた。
『遅くなって…すみません』
「え、いや…」
『さっき…成宮さんから電話が来ちゃって』
「え…」
…え!!?
『それで、ちょっと遅くなっちゃいました。』
「な…成宮と電話してたの?」
『はい。』
はいって…はいって!!
けど…電話するななんて言う資格は、俺にはない…。彼女でもないし。
「あいつ…何言ってた?」
『え…?…特に…今何してるのとか、明日応援に来てねとか…』
「……。」
う…モヤモヤする。いや、ムカムカする。
『あ…。』
「ん…どした?」
電話の向こうで何か物音がする。鍵の音みたいな…硬い音だ。
『…すみません、お父さんが帰ってきたから…』
「あ…、そう、わ、わかった」
…親に電話聞かれたくないのかな?
『先輩、明日、頑張ってください。』
「……。」
『じゃ…おやすみなさい。』
プツン、と電話が切れた。な…なんか、こんな素直に応援されたの初めてだから、驚いて…反応できないまま電話が切れてしまった。
ほ…ほんとに玉城だったんだよな?あのつれない…いつもほとんど無視する玉城…。だけど…
――…明日、頑張ってください。
じんわりと胸の奥に温かいものが広がる。何の変哲もない言葉…なのに、なんかすげぇ…ドキドキする。
「…っと」
いけねーいけねー。忘れないうちに今の番号登録しとかねーと…。玉城光…その名前が電話帳に並び、つい口元が緩んだ。
さて、明日に備えてもう寝るかな。おっと…沢村と降谷が夜更かししねーように、ちょっと5号室寄ってくか。
5号室に戻り、ドアを開けると――それまで部屋の外まで聞こえていた喧騒が一気に静まり、部屋にいた奴らの視線を一斉に浴びた。
「え…、な、なんすか?」
思わず引きつる笑顔で言う。しまった…なんか、来ない方が良かったかも…。倉持がゆらりと立ち上がり、俺に近づく。
「御幸お前…ドコ行ってた?」
「え…ちょっと外の空気を吸いに」
「嘘吐け!電話が鳴った途端コッソリ抜け出しやがって!気付いてねーとでも思ったか!」
う…うわ〜〜バレてたか…。
「もしかして玉城さん?」
亮さんがニコニコ上機嫌に尋ねる。
「いや…親ですよ」
「ふうん?」
はぐらかすと、亮さんは意味ありげに鼻を鳴らした。
「あやし〜。」
「……。」
ギクリとする。このヒト鋭いからな…。
「でも玉城さんからじゃないってことは…あんだけ引き下がったのに結局電話貰えなかったってコト?」
「え…」
「一度目は油性ペンで手に電話番号書いて…2度目は番号書いたメモ渡したんでしょ?」
「……。」
「必死じゃん(笑)」
な…なぜそれを…。ハッ!亮さんが知ってるってことは…。
くるり、と小湊弟を見ると、ぎくりとして首をぶんぶん横に振った。続けて沢村を見ると…きょとん、と俺を見つめている。そして倉持を見ると…面白そうにニヤニヤして…
「お前か!!」
「秘密にしろなんて言われてねーし。ヒャハハ」
「哲、写メ撮っとけよ。こんな御幸レアだよ、レア。」
「うむ」
「ちょっ…哲さん!」
パシャー、とカメラの音が響く。く…くそ…不覚…!
「決勝前に女子から電話貰ってんじゃねーぞ御幸ィィ!!」
「じ…純さん 痛いっす…」
「甲子園に連れてく約束かオラァ〜〜!!」
「ま…マンガ読みすぎ…」
「でも成宮も玉城さんのこと狙ってるよね。」
「あんだとコラァ!!御幸テメー稲実に青道の女子掻っ攫われるんじゃねーぞ!?アァ!?」
「……。」
な、なんだこれ…。
「玉城さん、球場に応援に来るたびにナンパされてない?」
「まーあの子はちょっとビックリするくらい美人だよな…」
「ゲーノー界いけるよな」
「もうスカウトされてんじゃね?」
「玉城さんが目立ちすぎるからあれだけど、いつも一緒にいるコたちも結構可愛いよね。」
「あー、背の高いショートヘアの女子と…」
「小柄で可愛い系の女子な。」
「名前なんて言うの?春市知ってる?」
「え…」
ウトウトする降谷を揺さぶり起こしていた小湊弟が振り返った。
「あ…鷹野さんと卯月さん?」
「何組?何部?」
「部活は知らないけど…A組だよ。玉城さんとか東条君と同じ…」
「おーい誰か東条呼んで来い!」
そしてほどなくして5号室にはせ参じる東条。と、ついでに金丸。
「あの…話って?」
ちょっと困惑をにじませて先輩達を見渡す東条。
「玉城さんといつも一緒にいる女子たちいるじゃん?」
「あぁ…鷹野と卯月ですか?」
「詳しく教えてよ。」
なぜ?と顔ににじませながら、東条は頬を掻いた。
「えっと…鷹野はクラス委員長でバレーボール部…運動神経がめちゃくちゃ良くて、スポーツ推薦で来たらしいです。で、卯月は副委員長で…軽音楽部でバンド組んでギターとボーカルやってるって言ってました。ふたりとも同じ中学出身で、その頃から仲良かったみたいです。」
「へー、詳しいじゃん」
「ま、まあ、クラスで結構目立つので」
ふ〜ん、と呟く亮さん。また何か企んでるんじゃ…。
「それで?」
「え?」
「やっぱ東条的には玉城さん推しなわけ?」
「え…」
見る見るうちに真っ赤になる顔。わかりやすい図星だ…
「は〜〜皆面食いだね。どいつもこいつも玉城さん…」
「なっ…!」「い、いや!」「俺は…!」
「……。」
思わず声を上げた東条、俺、…倉持。部屋の中が静まり返り、急に亮さんが腹を抱えて噴出した。
「ぶふっ…馬鹿正直だなお前ら」
「……!!」
「つーか倉持もかよ。お前多分名前も覚えられてないと思うよ。」
「……!!!!!」
「よーしこん中でだれが玉城さんを落とせるか賭けようぜ」
「俺東条に1票」
「俺も〜」
「俺は成宮」
「お前他校に賭けんなよ!あ、俺も東条」
「皆東条かよ!…しょーがねえ俺は御幸でいいよ」
「倉持誰もいないの?まぁ無理もないか…」
こ…この人たちは〜〜…!!
「あ…あの…」
東条がおずおずと手を挙げた。
「玉城…こういう噂、ホント苦手みたいで…」
「……。」
「あの…俺は全然弄られていいんで!でも本人は…そっとしていてあげてほしいっていうか…」
「……。」
「お…お願いします!」
「……。」
東条が頭を下げると、先輩たちが無言で顔を見合わせた。
「…俺やっぱ東条に変える〜」
「あ、待て俺も!」
「おい、賭けになんねーよ!」
「……。」
「……。」
「……。」
かくして、夜は更けていった。
***
そして迎えた決勝戦当日――。
球場に着きバスを降りると、応援に来てくれた生徒たちやOBに囲まれる。
「頑張れよ〜!!」
「結城ーー!!」
「伊佐敷〜〜!!!」
「甲子園行けよ〜〜〜!!!」
甲子園…。今日勝てば、甲子園。チャンスは目の前だ――。
「あ、玉城さん。」
え。
亮さんの呟きに思わず周りを見渡した。……ドコだ?
「プッ…」
「……。」
ちょっと噴き出す亮さん。まさか…。
「御幸お前、わかりやすすぎ(笑)」
「……。」
「そんな騙されやすくて捕手が務まるの?」
「……。」
だ…騙された…。
けど…ここまで毎試合応援に来てくれてたんだ。今日も来てくれてるはず…だよな?
モヤモヤしながら球場の入り口に行き、ついつい辺りを見渡す。玉城…来てねーのかな?もう中にいる?それともまだ来てないだけ…?
「キョロキョロすんな!1年より落ち着きねーぞお前!」
「…わりぃ」
倉持に蹴飛ばされて我に返った。ヤバイな俺…玉城のこと考えすぎ…。…今は試合に集中!
そう思った矢先、一人の青道生の女子生徒に目が留まった。あの後ろ姿…。つーか、話してる相手も…
成宮と話している、すらりと整った立ち姿の女子。明るい亜麻色の長い髪、真っ白な肌。あれは――
「玉城!」
呼びかけながらずんずん近づいていくと、玉城と成宮がこっちを見た。俺は成宮を無視し、玉城の腕を掴む。…ほそっ。
「…青道はこっち!」
「え…?」
腕を引っ張って連れていこうとすると、ぐっ、と引っ張られた。振り向くと、成宮が玉城の腕を掴んでいた。
「……。」
「……。」
無言で睨みあう。試合前に一言でもコイツと話すつもりはないし、成宮もそれは同じようだ。
「あの…」
すると玉城が口を開いた。
「離してください…恥ずかしいので」
「……。」
「……。」
俺も成宮も無言のまま手を離した。
「光ちゃん!」
成宮がちょっと俺を睨み、玉城に言う。
「昨日電話で言ったこと…考えといてね!」
「……。」
「じゃね!」
それだけ言うと、成宮は走って行ってしまった。…昨日電話で言ったこと…?ま…まさかあいつ、もう告白して…
「御幸先輩。」
「…え!?」
「皆行っちゃいますよ。いいんですか?」
「あ!!…行くぞ!」
よくない!玉城の背中を促し、軽い駆け足で皆の後を追う。
「なんで私まで?」
「応援席行くんだろ?うちの応援団の近く座っとけよ。」
「……。」
「つーかお前今日一人?いつもの友達は?」
「ふたりとも今日は部活で…ちょっと遅れてくるんです」
ふーん…それでも一足先に来てくれたのか…。
「つーかお前青道生だろ!試合前に敵と仲良くするなよ」
「別に仲良くなんて…」
「じゃあ何話してたんだよ」
「…先輩いつも成宮さんのこと気にしてますよね…仲悪いんですか?」
「……。」
この…鈍感!!気にしてんのは成宮じゃなくてお前だよ!
「あ〜も〜いいわ…ホレあの水色のTシャツの集団のあとついてけ!こっちのベンチのすぐそばに行くから」
「はい…」
玉城の背中を押して野球部の後をついて行くように促すと、玉城はちょっと俺を振り返った。
「じゃあ…頑張ってください」
「あ…、お、おう」
くるりと踵を返して歩いていく玉城。まただ…なんか、ドキドキして…。玉城に言われた言葉ってだけで、なんかすごく、胸が締め付けられる…。
この試合に勝ったら…。甲子園に行けたら…。
俺…玉城に…――。