[1/31]

「…ってマネージャーたちに言われたんだけど…どう?」
「え?」

光に電話をして梅本の言葉を伝えると、ちょっと驚いたような声のあと、さほど迷う様子もなくはっきりとした声が返ってきた。

「いいよそんな、そこまでしてもらうのは…。それに、やっぱり予定が…寮を抜け出すのも、けっこうきついし、何時間も誤魔化せないし」
「寮って外出禁止とか?」
「ううん、外出届出せば大丈夫だよ。でも、友達と遊びに行くとかなら…家に伝わっても大丈夫だけど…一人で出かけると怪しまれちゃうし」
「…友達に協力してもらうとか…」
「…無理だよ。」

ごめんね、と静かな、だけど落ち着いた声が響いた。この前帰りたくないと駄々をこねて泣いていた子とは思えないほど、どこか諦めたような、静かな声だった。

「でも先輩、皆から慕われてるんだね。」
「え?」
「そんな風に言ってくれる友達がいるんでしょ。」
「友達…友達ねぇ〜…」
「あはは。何?その言い方」
「まー一応キャプテンだからな〜。慕われ…てはいるかなー。はっはっは」
「え、先輩キャプテンなの?」

そうだぞ〜、なんて笑いながら、光がいつも通り元気になった様子に安心した。

「皆から頼りにされてるんだね…。」

そう呟いた光の、微笑んだ顔が浮かんだけれど、どこか悲しげな声にも聞こえて、俺は「大げさだな」と笑い飛ばした。



***



「御幸、光ちゃんどうだって!?」
「……。」

翌日の教室で詰め寄ってきた梅本と夏川に顔が引きつる。

「…無理だってさ」
「え〜〜〜!!見たかったぁ〜〜光ちゃん〜!!」
「残念だったねさっちん。」
「写真とかないの!?」
「ねーよ…」
「あーもう!!気になる!!光ちゃーーん!!」
「すごい可愛い子だよ、光ちゃん。」
「…光ちゃん光ちゃんうるせーよ…」

連呼すんな、と言う俺の顔が赤いだのとからかって、二人は楽しそうに笑う。

「っていうかどこで出会ったの!?」
「なーいしょ」
「…どこの学校の子!?」
「ないしょ〜」
「何それ!…本当に存在するんだろうな!?」
「な・い・しょ♪」
「ふざけんなー!!」
「さっちん、どうどう。」

「…そういえば倉持は光ちゃんのこと知ってるの?」
「いや…知らねーよ…」
「えぇ何で!?」
「何でそんな驚くんだよ。」
「だってあんたたちいつも一緒なのに…倉持が知らないなんて…ほんとどこで出会ったの!?」

ギクリ…。まさか罰ゲームのナンパがきっかけとは言えねぇ…。光の学校も内緒にしなきゃだし…。
言うなよ、という視線を倉持に送ると、倉持は鬱陶しそうに目を細めて俺を睨んだ。

「…知らねー。」
「え〜〜!!今なんか視線送ってなかった!?」
「送ってねーよ。」
「あやし〜〜。」



***



『まるで別世界!現代の貴族達の学び舎を徹底取材!』
『普段私たちのような一般人は立ち入ることのできない禁断の秘密の花園を大公開しちゃいます!』

夕食時、珍しくテレビは見慣れないバラエティが流れていた。なんすかこれ、と呟いたら、特番だってさ、と亮さんが答えた。テロップには、世界中の変わった学校を大調査!と書いてある。

『お次はお待ちかねの日本!』
『東京都内にある中高一貫校です。見てください!学校の門をくぐると、秘密の花園と言うにふさわしい、美しいバラの庭園がお出迎えしてくれます!』

「うわ〜、すげえ…こんな学校あるの?」
「どこの私立だよ」

現実離れした、まるでイギリスかフランスのお城のような洋風建築の周りに咲き誇る薔薇たち。言われなければ日本の学校とは思えない。

『ここは都内にある私立白栄学園。』
『この薔薇の庭園を挟んで、右側に男子校舎、左側に女子校舎が聳え、その奥には全校生徒が生活を送る学生寮があります。』

「!!?」

思わずお茶を噴き出す所だった。は…白栄学園って…こんな学校なのかよ!?思っていた以上に金持ち学校…。

『広大な学校の敷地内には他に、部活動に使われるテニスコートやプール、グラウンド、そして明治時代に建てられた貴族の生家、ローズレイク邸があります。』
『今回この学校内を、高校1年生の代表生徒さんが案内してくれるそうです!』
『よろしくお願いしまーす!』

カメラが移り、一人の男子生徒が映った。

『自己紹介をお願いします!』
『今期度1学年男子代表生徒に選ばれた、玉城光臣です。』

あ…あいつ…!光の従弟…!!

『目元が涼しげなイケメ〜ン!!』
『代表生徒というのはどういうものなんですか?』
『毎年各学年で一人、成績や振る舞いなどを考慮して教授たちによって選ばれるものです。1年の場合は判断材料がないので、単純に入学試験の結果という事になりますね。』
『なるほど〜!!つまり玉城君は容姿端麗成績優秀、しかもお金持ちのお坊ちゃんという完璧なイケメンということですね!?』
『ははは。でも、僕のお金じゃありませんから。』
『そんなこと言うユーモアもあるだなんて更に完璧じゃないですかぁ!』

「倉持、難しい顔してどうしたの?」
「いや…。…なんかこいつ、どっかで見たよーな…。」

ギクッ、としたのを押し隠し、俺は静かに味噌汁を飲んだ。

「気のせいじゃないの?白栄の制服なんてこの辺じゃ見ないし。」
「そーすかねぇ……。……あっ、もしかして」
「っ!!」

倉持が振り返って俺を見る。前に寮の校門まで俺を訪ねてきた奴だと思い当たったらしい。俺は必死に黙っていろと目で訴えた。

「何?」
「…いや…。」
「何だよ気持ち悪いな。」

ひとまずここは黙っていてくれることにしたらしい。よ、よかった…。
…それにしても…

『ちなみに玉城君は今彼女とかいらっしゃるんですかぁ〜?』
『彼女どころか、普段女子生徒と会う事もほとんどありませんから。』
『え〜同じ敷地内にいるのに!?』
『基本的に男子と女子ではカリキュラムからして違うので。あくまで男子校と女子高という扱いなんです。月に一度、合同で集会はありますけどね。』

あいつ…猫被ってんな!?この前来た時と印象が違い過ぎる。俺にはニコリともせず、終始タメ口で生意気な態度だったのに。

『それでは玉城君の案内で、白栄学園の中を大調査したいと思いまーす!!』
『出発〜〜!』

女子校舎は関係者以外立ち入り厳禁だという事で、男子校舎を一通り見て回り、学生寮や庭園などを見て回った後、一行は主要な会議室や職員室がある『本館』にやってきた。

『そしてここが生徒会室です。僕も生徒会の一員ですが、今まさに生徒会役員会議の最中で、全役員が部屋に集まっています。』
『玉城君、生徒会役員なんですか!?』
『どんだけハイスペックなんですか…』
『ははは。そんなことないです。どうぞ入ってください。各学年の中心でもある代表生徒たちが集まってますから。』

おじゃましま〜す…、と肩身を狭くして入室するレポーターたち。そこに机を囲んで話し合いをしていた生徒たちが一斉に立ち上がり、それぞれにお辞儀をした。

『ようこそ。生徒会長の九条です。』
『副会長の都筑です。』

順番に礼儀正しく挨拶していく凛々しい表情の生徒たち。

『あちらにいるのは?』
『書記、会計、庶務の1年生たちです。』

そう案内され、集まって並んで立っていた生徒たちが一斉にお辞儀をした。その前列の右端にいる女子生徒を見て、俺は危うくからあげを箸からおとしそうになった。
…光がいる…!!
ちらりと倉持を見るが、気付かなかったのか無反応のままテレビを見上げている。…バレるなよ…頼む…!!

「今すげえ可愛い子いたな」
「え?どこ?」
「1年の列の端っこに立ってた…」

…!!?

「麻生よく見てんなー。」
「な!な!」
「うるせぇ!」

ヒヤヒヤハラハラしながらテレビに視線を戻す。頼む、もう映らないでくれ…!今度は誤魔化せる気がしねぇ!

『生徒会は男女一緒なんですね?』
『そうですね。投票は男女混合で行われますから。』
『なるほど、なるほど。ということは玉城君、嘘を吐きましたね?』
『え?』
『普段、女の子とは会わないって言ってたじゃない!お姉さん忘れてませんからねっ!!』

ははは、と光臣は爽やかに笑った。

『女の子と言っても、生徒会の女子生徒は彼女だけですから。』

光臣が示したのは、1年の軍団の中に一人立っている…光。慎ましやかに健気に小さくお辞儀をして、大人しく佇む。

「あ、ほらっ!この子だよ!めっちゃ可愛くね?」
「うわ、ほんと…」
「…あれ?でもなんか…」
「見たことあるような…。」

ぎくり…。麻生たちの会話を漏れ聞きつつ、俺は肝を冷やしていた。味噌汁の味がしない。

『あら〜!!やだっ…美人!!スゴイ可愛いこの子!!』
『ちょっと玉城君!!お姉さん心配よ!!こんな可愛い子と一緒にお仕事してるなんてっ!!』

困ったように苦笑を浮かべながら、目立たないように少し俯いている光。光臣はまた爽やかに笑い飛ばして、さらりと言い放った。

『彼女は僕の従妹なんですよ。』
『…えっ!?』
『従妹!?』

ぺこり、とまた小さくお辞儀をする光。早くこの注目から逃れたいというように。可愛そうなほど萎縮してしまっている。目立つのが嫌なのかもしれない。

「は〜〜…可愛いな」
「超お嬢様なんだろ?」
「この学校どこにあんの?近くにマックとかある?」
「あったとしてもこの子はいかねーだろうから出会いは諦めろ」
「…でもやっぱ、どっかで見た気が…」

『ちなみにお名前は?』
『…玉城光です。』

「……。」
「……ひかり?」
「……あっ!!!」

ざっ、と音がするほど一斉に、男共が俺を振り返った。ぽちゃん、とからあげが味噌汁の中に落下した。

「えっ、御幸の彼女!?」
「あの準決勝の時に来てた!?」
「光ちゃんって名前だったよな確か!!」
「おい御幸何とか言えよ!!!」

「……違いますぅー」
「嘘吐けやゴルァ!!」

『美人一族なんですねぇ。』
『いえ、そんなことないです。』
『こら玉城君!その顔でしかもこんな可愛い子を前にそんなこと言ったらバチが当たるわよ!!』
『ははは。』

光は終始黙っていて、時々レポーターに微笑み返す以外は口を噤んでいた。まるで、光臣の邪魔をしないよう、怯えているみたいに。

『では、今度は庭園を通って、ローズレイク邸の方へご案内します。』

光臣はそう言って、レポーターたちと生徒会室を出て行った。



***



『【衝撃】白栄学園の女子生徒が可愛すぎてネット騒然wwww』

ぱんだ @pan_dadada
特番見てるんだけど白栄学園の玉城光ちゃん美人過ぎませんか?仕込み?

しゅうと@来世からがんばる @s_buuun0909
代表生徒の従妹って子かわいすぎん?超タイプなんやけど

荒木まきだ @GruNhBFedal
光臣君も光ちゃんも可愛すぎる!!!!!!!

Bgg @bggbggbgg0754
玉城光ちゃんカワイすぎーーーーーえっ何これ玉城家華麗なる一族かよご両親の顔が見たい

グウェン @gwen_BBF
玉城光ちゃんも一緒に学校案内しよう??美少女もっと映して??



「光ちゃんすげーネットで騒がれてんぞ」
「可愛いもんなー光ちゃん」
「もっと見たかったなぁーー光ちゃん」

「うるせーよ…」

皆わざと俺に聞こえるようにぼやきやがって…。

「つか白栄ってアレじゃん!春頃御幸がナンパした…!!」
「結局電話番号教えてもろてたんやな!?」
「コソコソ抜け駆けしやがって!!」
「あ〜〜〜うるせえ〜〜〜〜」
「え、なになに、ナンパって。その話詳しく」

亮さん達が嗅ぎつけて、麻生たちがバラしやがるのを横目に麦茶を一気に喉に流しこんだ。こうなるともう止められない…。あーどうしよ、内緒にしてって言われてんのに…。…けどもうどうしようもねーな、事故だこれは。事故。

栞を挟む

* 最初 | 最後 #
1/31ページ

LIST/MAIN/HOME

© 2018 天秤
ALICE+