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「そんな!あの事件は解決したはずじゃない!」
「それこそが錯覚だ。犯人はすべて計画通りに事を進めていた。あの事件のことも…そして今回の殺人も。犯人だけは全てわかっていたんだ。だから犯人はあの事件の時、一番容疑から遠いところにいたんだ。」
「え…!?どういうこと!?」
「そうですよね?橘リンさん?」

「……。」

無表情の美少女は、鬱陶しそうに眉根を寄せた。そのすさまじい美貌が、一層彼女の恐ろしさを増幅させている。

「リンさんが!?」
「あの事件の時、彼女だけが現場を離れていた。普通なら、避けることなどできないはずなのに…。そうせざるを得なかったんだ。あの事件で彼女は、容疑をかけられるわけにはいかなかったからな。」
「……。」
「何とか言ったらどうだ、橘リン!」

コツ、コツ、と階段を降りてきた美少女に、探偵とその助手は怯えるように退いた。

「本当にバカね…。」

呆れたような口調で、しかし表情一つ動かさずに言う美少女に、ゾッとしたのは俺だけではないだろう。

「俺の推理が間違っているというなら、証明してもらおう。」
「違うわ。」
「何が違うんだ!」
「……。」

ちらり、と動く彼女の青い瞳。その美しさの前では、彼女の恐ろしささえ魅力だった。

「あなたの推理が正しければ、ここは私の地下室…。」
「……。」
「誰にも場所を知られていないし、今後バレることもない…。」
「……。」
「そしてここにはあなたたちと私だけ。この状況で、私を犯人扱いするなんて…」
「……。」
「だからバカだって言ったの!」


「うわ!!こえええ!!」

…悲鳴を上げた倉持を睨んだ。

「うるせーよ肝心なとこで!」
「いやだって…、怖くね!?コレ!!ホラーじゃん!!」
「ホラーだよ。サイコホラー。」

倉持の隣で亮さんはにっこりと楽しそうにビールを飲んでいる。

「お化けが出てくるだけがホラーじゃないんだよ。」
「……。」

なんとなく馬鹿にされたと思ったのか、倉持は口を噤んだ。

「で…なんで俺にこれを見せるんすか。」

俺は最初から思っていた不満を亮さんにぶつけた。このDVDは、「面白いドラマがあるから一緒に見よう」と亮さんが俺と倉持を含むOBメンバーを集めて上映会を開いたものだった。

「だって、気になるでしょ?」
「……。」
「元カノが出てんだからさ。」

やっぱりわざとかよ…!!俺は画面を一瞥した。美しきサイコパスの役を見事に演じている光を、俺はむずむずした気持ちで見つめ、目を逸らす。
光は高校卒業後、なんと女優として鮮烈なデビューを飾り、芸能界に入った。インタビューでは、高校在学中からスカウトを受けていたと話していた。そんなのしらなかった…。って、俺と別れた後なのかもしれないけど。そして、まだ結婚はしていないらしかった。少なくとも、インタビューによると、だけど。…光臣はどうしてんだろ。

「元カノって言っても…もう何年も前だし…」
「フラれたから思い出したくもないって?」
「……。…別に遺恨とかありませんから!嫌いになって別れたとかじゃないし!」
「じゃあなんで別れたの?」
「……もういいじゃないですか3年も前のことなんて!!」
「じゃあいいじゃん、見なよ。光ちゃん可愛いじゃん」
「…そんなの知ってますよ!!すげえ可愛いっすよ!!」

やけくそになって叫ぶと、倉持やゾノがぎょっとして俺を見た。

「ああ〜可愛い!もうほんと可愛い!ほんっと…あああぁぁ光ぃぃ〜〜〜」
「うわっ!!御幸が壊れた!!」
「亮さん何言ったんすか!なんとかしてくださいよ!」
「いや〜俺もさすがにこうなるとは…」
「げっ、こいついつのまにこんなに酒飲んでやがる」

光。あぁ光。
一度たりとも忘れたことはない。もしももう一度会えるなら、俺は…。

「俺たちをここに閉じ込めてどうする気だ、橘リン!」
「出しなさいよ!」
「どうするって…わからないの?」

冷たい鉄格子の向こうで、光はナイフを抜き取った。

「殺すの。」

「…俺光になら殺されてもいい…」
「うわ…アカンこと言いだしたこいつ…」
「病んでるじゃねーか…どーすんだよこれ」

「あれ?でも玉城光ってさ…」

不意にノリが思いついたように携帯を取り出して、何かを検索し始めた。

「あ、これ。この間ニュースで…」
「何何?」

ノリの携帯を覗き込みに行く倉持とゾノ。それから、うわぁ、と意味ありげに呟いて、ニヤニヤ顔で俺を振り向いた。

「……なんだよ」
「かわいそ〜〜〜御幸ちゃん」
「御幸…強くいきなアカンで」
「だからなんだよ!見せろよ」

俺もそこへ駆け寄って、ノリの携帯を奪った。そこには…



【悲報】俳優 小野透・女優 玉城光 熱愛か

――大人気ドラマ“ダ・ヴィンチ”で共演している俳優 小野透(23)と女優 玉城光(19)が、昼下がりの街中を人目もはばからず寄り添って歩いている姿がパパラッチされた。ふたりは一定の距離を保ちながらも仲睦まじく談笑している様子が窺え、かなり親密そうだ。この日二人は川沿いをのんびりと散歩し、そのままビル街へと消えていった。玉城は未成年ということで、清く正しいお付き合いをしているのではと関係者は語る。小野・玉城ともに事務所は交際を否定しているが、爽やかな若き美男美女ビッグカップルの誕生に、双方のファンは盛り上がりを見せている。――


「……。」
「ヒャハハ!こいつ死んだ」
「倉持。あんまりいぢめたらかわいそうだろ」

いや…、まさか、そんな。嘘だ。嘘…だよな?だって、光は光臣と婚約してるはず…。家の都合で…。そう、あくまでも家の都合で…。

「…いや。いや。まさか。ははっ…いやいや…」
「いやいやじゃねーよ。」
「マジで大丈夫かお前…」



***



「御幸さんってぇ〜、どんな子がタイプなんですかぁ〜?」

お前マジでヤバイぞ、と倉持に心配され、翌週俺は合コンに連れていかれた。こういう飲みの席はあまり好きじゃないんだけど…今日はだまし討ちされたのだ。OB会だと言われたのに…来てみればこちらは俺と倉持と球団の先輩達しかいなくて、他には女の子が5人。みんなそろって長い茶髪をくるくるに巻き、ばっちりしたアイメイクに、真っ赤な口紅を塗っていて、キツい香水の香りがする。

「タイプ?別に…」
「別にじゃなくってぇ!ほら!芸能人だと誰が好きとか〜」
「光」
「え?」
「玉城光」

え、と女の顔が引きつった。玉城光、と言えば、今日本一の美少女だなんて言われているからだ。光を好みのタイプと言うとまず間違いなく「理想が高すぎる」と間違いなく言われるほどの、誰もが認める美少女。合コンで光をタイプだと発表する男はいないだろう。女から顰蹙を買うに決まっているから。

「そ…そうなんだ。可愛いよね〜、玉城光ちゃん」
「うん」
「あはは、うんって…」
「…あ〜〜光に会いたいぃぃ」
「うわっ!!おいちょっ…離れろバカ!」
「どーした御幸?」
「こいつまた始まったんすよ、玉城光病が…」

俺を引きはがしながら言う倉持に、先輩たちはあーあと呆れたように言って、女の子たちとのおしゃべりに戻った。

「どういうこと?」

俺を狙っていた女の子が身を乗り出して倉持に尋ねる。

「…いやこいつ…玉城光の大ファンで。ヒャハハ…」

まさか高校の時の元カノで、なんていうのはまずいと思ったのか、倉持はそう誤魔化して、俺の背中をどついた。

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