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御幸が起きてこない。

昨日の飲みには参加せず、どこに行ったのかは知らないけど…いつも通り、日付が変わる前には部屋に戻ったはずだ。そしていつも通り、毎回遠征に行った時と同じように、今頃の時間にはどちらからともなく起きてるかとメールして、朝食を食べに行くつもりだったのだが…。
30分前に送ったメールはまだ既読が付かない。俺は焦れて、御幸の部屋に向かった。俺の3つ隣だ。

インターフォンを鳴らしたが、反応はなかった。おかしいな。寝坊か?珍しい…。
電話を鳴らしながらゴンゴンゴンと遠慮なくドアを乱打し、叩き起こすモードに突入することにした。

すると間もなく、ガチャン、と鍵が慌ててあいて、ドアが開いた。

「な、何?」

御幸はなんだか慌てた様子で、ぼさぼさの髪にしわだらけのTシャツ、下はパンイチで現れた。

「何じゃねーよ。まだ寝てたのかよ、オラッ、さっさと準備しろ!」
「おいちょっ…、入るな…、」
「クソ腹減ってんだよこっちは!30分も待たせやがって…、」

御幸を押しのけて部屋に押し入り、シーツが乱れたベッドにそのままドカッと座った。

「まだ荷物もまとめてねーのかよ!お前が寝坊なんて珍し…」

カチャッ、とバスルームの扉が開き、俺は不意を突かれて言葉を飲み込んだ。あ…、と御幸が顔を引きつらせる。
そこから出てきた女の子に、俺は――

「…えっ!?」

悲鳴に近い声を上げた。
た…、玉城光!!高校の時はあんま見たことなかったけど、最近じゃテレビでほとんど毎日見るから間違いない。うわー、色白ぇな…、細い…、目はパッチリ、整った目鼻立ち、ほんと、妖精みたいな…。可愛い…動いてるのが奇跡かってくらい可愛い…。御幸が未練たらたらなのもよくわかる…、…って、そうだよ御幸!!別れたんじゃなかったのか!?

「ちょ、ちょっとごめん!ちょっと待ってて!」
「えっ?何…、」

御幸は彼女をバスルームに押し込んだ。いたた、と彼女はふらついて、ごめん、と慌てる御幸を見て、昨夜この二人がこの部屋でしたことに察しがついて…変なため息が出た。
御幸はバスルームのドアを閉めると、放心している俺を振り返った。

「…そーいうわけなんで今日は…」

勘弁して、と手のひらを立てて断るポーズをする御幸に、俺は苛立った。

「そーいうわけってどういうわけだよ!別れたんじゃなかったのかよ!?」
「別れたよ…昨日偶然再会して…」
「んな偶然あるか!」
「んー…運命?(笑)」
「アァ!?死ね!!」

はいはい、と御幸はどこか余裕の風を吹かせ、俺の首根っこを掴んで部屋から追い出しやがった。

「じゃ、悪いな倉持。またあとで♪」
「は!?おい、ちょ…、」

バタン、ガチャン。厳重に扉が閉められ、俺は静まり返った廊下に立ち尽くした。
…マジ?こんなことあるかよ…。
玉城光になんて会えるわけねーって…もし会えたとしても相手になんかされるわけねーって…散々先輩たちとイジり倒してたけど…。あいつ、上手いことやりやがったのか!!クソッ、羨ましくなんか…!!

…この件は亮さんに報告だ!!



***



「フンフンフフンフーン」

「……。」
「……?」
「……。」

本拠地に帰ってきて、オフ明け初めて御幸と会った先輩たちは皆訝し気に御幸を見ている。あいつが鼻歌を歌うほど浮かれている原因が思い当たらないのだ。むしろ最近は『玉城光病』を突発的に発症して、うざいくらいだったのに。

「何浮かれてんの?御幸」
「え〜?わかりますぅ?」
「めんどくさい女みたいになってんぞ」
「はっはっはっは!」

しかし御幸はそうやってはぐらかし、誰にもあのことを話そうとしない。ま、そりゃそうか…大騒ぎになるもんな。

「おい…御幸!」

俺は人気のない廊下で御幸をつかまえた。

「より戻したのかよ?」
「うん。」

うんって…。ためらいもなく頷く御幸に、俺はしばし閉口した。だって…、玉城光と…なんて、にわかには信じられない…。でも、確かに昨日、御幸の部屋にあの子がいた…。

「…でもあっち都内住みだろ?遠距離じゃん」
「今日仕事終わったらこっち来るって。」
「…は!?」
「ドラマの撮影が終わるから3日オフなんだってさ。あっち仕事不定期だから、なるべく休みはこっち来てくれるって言ってた」
「……。」
「あ〜〜早く帰りてぇ〜」

殴りてえ…。ふにゃふにゃ浮かれて腑抜けになりやがって…。

「だからしばらく遊んでやれねーけどゴメンな(笑)」
「殴られてーかテメェ!」



***



『小野透・玉城光 熱愛報道否定「頼りになる先輩です」』
――熱愛報道について、本人たちは報道を否定している。本人らのコメントでは、「例の写真はドラマの撮影時、稽古場から徒歩で移動している時のものです。近くにスタッフもいました。玉城さんは可愛い妹みたいな存在です(小野)」「小野さんは気さくな方で、いつも現場を盛り上げてくださいます。頼りになる先輩です(玉城)」交際は「していません(小野・玉城)」とした。


どーなんだろコレ…。御幸が騙されてるんじゃ、とまでは言うつもりないけど…。あんな美人、相手なんてより取り見取りだろ、どー考えても…。あの子への未練を引きずっている御幸を見てきたから、心配にもなる。
あの子は御幸ほど…、…そこまで本気じゃないんじゃないかって…。


『玉城光 あのイケメンタレントからのガチ告白に照れ笑い』
『彼女にしたい芸能人ランキング 1位は“リアル天使”玉城光』
『玉城光が今日本で一番可愛いと話題!「言葉を失うくらい可愛い」』
『玉城光は性格もいいってホント?実は超有名財閥のお嬢様!』
『「この美しい少女は誰!?」玉城光の美貌が海外でも話題に』

…調べれば調べるほど不安だ…。御幸の奴、いきなりメンタル崩れることあるからな。今度あの子にまたフラれたら…絶対調子崩れるぜあいつ…。

「お疲れ。」
「あ、おつかれっす!」

個室に入って来た亮さんに、俺は携帯を仕舞いながら挨拶を返した。

「ビッグニュースって何?」

亮さんはメニューを開きながら尋ねる。

「マジでビビりますよ!さすがの亮さんでも!」
「もったいつけなくていいからさっさと言いなよ。」
「……。」

ピッ、と呼び出しボタンを押す亮さんに、俺は閉口した。亮さんはやって来た店員にビールとつまみを注文して、俺のお通しをつまみ食いした。

「で?」
「…昨日遠征先のホテルで…」

俺は昨日の朝あったことを話し始めた。途中、亮さんのお通しと注文したものが運ばれてきてしばらく口を噤み、店員がいなくなってから話を再開した。

「そしたらいたんすよ、御幸の部屋に!なんと…」
「女が?」
「そう!しかも…」
「…何?」
「…玉城光」

こっそりと、万が一誰かに聞かれたらまずいと思って、俺は声を潜めた。

「……へぇ」

亮さんはちょっと苦笑して、ビールのジョッキに浮かんだ結露に指で落書きをした。

「…それだけっすか?」
「いや驚いてるよ。反応に困ってるだけ。」
「もっと驚くかと思ったのに」
「だから驚いてるって。つーかそれどういう状況だったの?まさか事後?」
「…俺が部屋に入って行って、御幸と話してたら…風呂場から出てきて」
「…おぉ?」
「あ、服は着てましたよ、さすがに」
「聞いてねーよ。」

亮さんはビールを三分の一ほど一気に飲んだ。

「別れてなかったってこと?」
「…いや、御幸が言うには別れてたけど、昨日…、いや一昨日か。偶然再会したらしくて」
「…偶然?玉城光と?」
「ありえないっすよね!?」
「まあスゴイ偶然だけど、ありえなくはないんじゃない?」
「え?」
「昔付き合ってたんだからさ。お互い思い出の場所にでも通ってたとか。再会を期待して」
「…えぇ?そんなことアイツが…」

言いかけて、はっと思い出した。…そういえばあいつ、都内遠征の時はいつも、夜どこかに一人で出かけるんだよな…。

「…いや…でも…」
「なんだよ?」
「…あの玉城光っすよ!?熱愛報道だって出てたのに…」
「芸能人なんだからしょうがないだろ。本人が一番迷惑してるだろ、そういうのは」
「いや…だけど…!昔だって、あっちからフッたんすよ?なのに今更より戻すなんて…」
「別れた理由知ってんの?お前」
「…知らないっすけど」
「じゃあ口出すなよ。つーかほっときなよ、他人の色恋沙汰なんて。お前人に構ってるほど余裕あるの?」
「お、俺は…!御幸があの子に振り回されて調子崩したりしたらと思って…!」
「大きなお世話だよ。あいつもいい大人なんだから、悪い女に引っ掛かろうがほっときゃいいんだよ。」
「な…、亮さん冷たいっすよ!」
「お前こそなんでそんなに御幸に執着するんだよ。」

ギクリとして、息をのんだ。

「もしかして、御幸じゃなくて…」
「え?」
「玉城光の方?執着してんのは。」

かあっ、と顔が熱くなった。え?なんだこれ。ち、違う違う!だって俺、あの子と話したこともないんだぞ!?

「ち…違いますよ!全然知らないし、話したこともないし…!」
「だったら要らない心配するんじゃないよ。知りもしないのに悪い女扱いなんて失礼じゃん。あんなに可愛いのに」
「べ…別に悪いとは…」
「はいはい。」

それ以上何を言っても無駄だと思い、俺は口を閉ざした。けれど、俺自身、どうして御幸達にこんなにモヤモヤするのか…全く分からなかった。

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