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目が覚めて、目の前に光の寝顔があって…じわりと胸の奥があたたかくなる。
髪を撫でたくなって、だけど起こしてしまうかもしれないと思い留まって、ちょっと寝顔を見つめてから、俺はベッドを出た。光が起きる前に何か…食事を用意しよう。
静かな寝息をたてて穏やかに眠る光に後ろ髪惹かれつつ、俺はキッチンへ行って冷蔵庫を開けた。遠征前だったから食材使っちゃったんだよなー…ご飯も炊いてないし。卵があるからオムレツ…と、あ、ベーコンある。
メニューを考えながら、そういえば光は少食だったなと思いだし、あとはスープでいいか、と冷蔵庫内の野菜を取り出した。
スープが煮え、ベーコンを焼きながら卵を溶いていると、ふわりと背中から柔らかく抱きしめられた。
「おぉ、おはよ。」
「…おはよう」
俺の背中にくっついて、光が眠たげに返事をした。
「何作ってるの?」
かと思えばひょこっと顔を覗かせる。朝飯だよ、と答えて、光との甘酸っぱい朝のこのひとときに口元がにやけた。
「…大丈夫?」
昨日のアレ…。この間みたいにまだ痛みがあるんじゃないかと思って訊ねると、光は頬をほんのり赤くして、俺の背中に顔を埋めて隠れた。
「…痛い」
「ご…ごめん」
申し訳なくなりつつも、俺の腰に回された細い腕にどうしても胸がくすぐったくなる。
「座って待ってて。もうすぐできるから」
そう声をかけると、光はするりと腕を離して、よたよたと歩いて行った。
二人で朝食を食べ、コーヒーを飲み、ゆっくりと時間が流れていく。
それから俺は、迷っていたことをはっきりさせようと思った。もう、覚悟がどうのと言っていられる子供じゃない。俺は…光を手放したことは間違いだったと、今ははっきりわかってる。
「光…、」
コーヒーのマグカップを持ち上げた光が、蒸気の向こうで青い瞳をこちらに向ける。
「あのさ…、」
「ん?」
「…なんていうか…」
俺たち、…付き合ってるんだよな?
どうしてその一言が聞けないんだ、俺…。実は光臣と婚約してるの、なんて言われたらと思うと…。
…いや、もううじうじするのはやめろ、俺!
「俺たち…、」
「……?」
「…付き合ってるんだよな?」
コトン、とマグカップを置いて、光はじっと俺を見た。
「…じゃなきゃあんなことしないよ。」
ちらりと俺を睨んで、顔を赤くして、ぷいとそっぽを向く光。あ…、なんか聞き方まずかった。
「先輩は付き合ってなくてもあんなことするの?」
「し、しないしない!そういう意味じゃなくて…」
「……。」
「ごめんって!光!…光さん!」
俺が慌てだすと、光は堪えきれずに笑い出して、からかうように俺をにらんだ。あー、もー、俺翻弄されっぱなしだわ…。
「俺が聞きたかったのは…、…婚約者のこと、とか…」
「……。」
光は目を瞬いて、神妙な顔になって、頷いた。
「事故のことは知ってる?」
「あぁ…ニュースで見た。…やっぱりあの事故の人が…婚約者だった?」
「うん。従兄…」
俺は本当は尊光に会ったことがあったけど、光はそれを知らないことを思いだして、慎重に言葉を選んだ。
「その事故のあと…もうひとりの従弟との婚約が決まったの」
「うん…」
「お互いに高校を卒業したら、結婚する予定だった。だけど…」
「……。」
「…従弟と話し合って、婚約を解消することにしたの」
そんな…あっさりと?でも光臣は、俺に警告までして…
「お父さんたちも、従弟が説得してくれて…納得してくれたから」
「そう…なんだ」
そもそも、なぜ従姉弟同士で婚約することになったのかを俺は知らない。だけど今の話を聞く限り、婚約を決めたのはやっぱり親同士なのだろうか。
「……。」
光は思いつめた顔で俯いて、重い口を開いて打ち明けた。
「…あの日…。家に帰って事故のことを聞いて…頭が真っ白になっちゃって…」
「うん…」
「お葬式が終わって少し落ち着いて、それで…先輩に電話しようと…したの」
「うん…」
「でも、私…いつの間にか、携帯電話を失くしちゃってて…、…もうほんと、信じられないよね?」
…光臣の仕業かなー。
「いや…信じるよ。」
「……。」
俺が頷くと、光は少し安堵したように口を閉じた。
「…また会えてよかった。」
光は呟いて、にわかに目に涙をにじませた。
「…泣くなよ。」
「だって…。」
そのまま目元を覆った光に手を伸ばし、涙で濡れた頬を撫でて、その温かさを確かめた。
「…光。」
名前を呼んで、俺を見つめる青い瞳を見つめ返す。
「俺のこと、名前で呼んでよ。」
青い目が瞬いて、恥ずかしそうに逸らされて――
「一也…君?」
ぽそり、と可愛らしい声が俺の耳をくすぐった。
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