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1時間ほどしてインターフォンが鳴り、小走りで玄関へ行ってドアを開けると、そこに立っていた光は俺を見上げてふにゃりとはにかみ、両手を広げて抱き着いてきた。

「一也くん〜…」
「はっはっは!どうしたんだよ。」
「空港で一人になったら、なんか…。」
「会いたくなっちゃった?」
「……。」

こくん、と胸元に埋まる小さな頭が頷いて、俺は愛おしさで胸が苦しくなった。もともと誰かとつるむのは面倒くさがるタチなのに、光とはもっと…もっともっと、一緒に居たいと思ってしまう。近づけば近づくほど、もっと…。
光の細い体を抱きしめ返し、俺たちはしばらく玄関で互いの体温を確かめ合ってから、不意にどちらからともなくはにかんで、部屋の中に入った。
…そういや独り身のマンションだから、光が来るとなると手狭だな。引っ越し考えるかな…、それは気が早いか?

「一也君?」

ソファに座った光が、ボーっと考えこんでいた俺を不思議そうに見上げた。俺は何でもないと微笑んで、緩む頬をそのままに、光の傍へ行った。



***



『“奇跡のカップル”か 女優・玉城光×プロ野球・御幸一也 熱愛発覚!?』
某県某所、秋晴れの昼下がり、紅葉色づく閑静な高級住宅街を歩く一組のカップル。男女とも、帽子とマスク、眼鏡で顔を隠していても人目を惹く抜群のスタイルと整った容姿であることは一目瞭然。それもそのはず、この女性は今芸能界一の美少女・奇跡の妖精とも言われ、清楚な女生徒役から傾国の悪女役までこなす類まれなる演技力で老若男女のファンを魅了する女優・玉城光(19)。そして男性は、プロ入り直後から1軍スタメン入りを果たし今年はゴールデングローブ賞を獲得、メジャー行きも囁かれる天才捕手で、その甘いマスクで女性ファンも多い御幸一也(20)。
いわば「奇跡の美男美女カップル」と言える組み合わせだ。ふたりは仲睦まじく笑顔で会話を弾ませ、御幸が住む高級マンションへと姿を消した。


001:お前ら、また来世で会おうな

002:ファッ!?これガチ?

003:どこで出会うんだ…

004:合コンやろなぁ

005:玉城光が野球選手と付き合うのは意外だったな

006:嘘だと言ってくれ

007:光いいいいいいいいああああああ!!!!!!

008:御幸一也ならええわ

009:歳ひとつ違いなんか…

010:ふざけんな明日仕事やぞ

011:嘘乙。光ちゃんは俺の嫁だから

012:死にたい

013:最近御幸調子いいと思ったら

014:光ちゃんがまだ処女の可能性は?

015:>014 ねえよ

016:玉城光すげえお嬢様だしすぐ別れるやろ

017:>016 御幸の実家は小さい鉄工所だしな

018:御幸本人は年俸8千万だけどな

019:いやでも玉城光レベルのお嬢様なら結婚相手もそれなりの家柄じゃないと無理だろ

020:>019 そうだよ。だからこのスレの奴らも無理だよ。

021:ちょっと石油王になってくる

022:実際玉城家ってどんだけすごいの?

023: >022 小さい国一つ買えるレベル

024:ファッ!?王女やんけ

025:なんでだよ恋人いるなんて微塵も気配すらなかったのに!!なんでだよ一也!!

026:>025 ホモ乙

027:どっかのおっさんと年の差婚するよりマシだけど…

028:嫉妬やない

029:まだ19なのに熱愛報道って…早すぎるよ…もっと夢見させてくれよ…

030:むしろ裏でヤリまくりとかよりこういう健全な恋愛してるってわかって安心したわ

031:別れろ(迫真)

032:御幸タオル燃やしてええか?

033:光ちゃん………

034:【天使】白栄生時代の玉城光ちゃんwwwww【降臨】(動画)

035:>034 可愛すぎ

036:>034 ガチ天使

037:>034 そういやこの従弟って今何してんの?

038:>037 ハーバード大学通いながら玉城財閥会長務めてる

039:>038 従弟二次元の人なんか?

040:ほんと現実離れした一族だよなぁ 顔もそれ以外のスペックも


「御幸ィィィィィ!!!」
「どういうことだコレ!!?」
「お前玉城光と付き合ってんの!!?」

光が俺のマンションに戻ってきて三日。早くも週刊誌に撮られ、テレビやネットのニュースが騒ぎ出した。仕事的に困るだろうと思いきや光は「別にいい」とケロッとしていて、光の事務所も「プライベートは本人に任せています」と表明した。隠さなければ、と心配していたのは、俺の取り越し苦労だったのかもしれない。
俺は騒ぎに翻弄されながらも、光が俺とのことを公表してくれたことが素直に嬉しくて、まんざらでもない気分だ。

「ま…まぁ…」

はい…、と頷くと、先輩たちはガクリと膝をついたり、俺をもみくちゃにしたり、羽交い絞めてきたりした。この騒ぎはしばらく続きそうだ。

「玉城光玉城光言ってたのはそういうことだったのかよ〜〜!!」
「いつどこで出会ったんだよ!!?」
「実は高校の時にちょっと…」
「高校から!?」
「ふざけんなマジテメェ!」
「はっはっは…」
「じゃあ今お前んちに玉城光いんの!?」
「同棲してんのか!?」
「同棲…っていうかまぁ…いますけど…」
「えええマジ!!?」
「おい!今日御幸んちで飲もうぜ!!」
「え…!そ、それはちょっと」
「なんでだよ紹介しろよ!」
「ていうか今日は仕事でいないんで…」
「なんだよ〜!!後で絶対紹介してくれよな!?」
「俺も生の玉城光見たい〜!」

じょ、冗談じゃない。光との癒しの空間をこの人らに侵略されてたまるか。やっと選手寮を出てマンションに移ったところでもあるのに。

「つーかお前はこの従弟に会ったことあんの?」

先輩がネットの書き込みを見せて尋ねてきた。そこにはアメリカの大学のキャンパスで友人と歩いている光臣の隠し撮りのような画像がのせられていた。どうも光臣は、その端正な容姿と現実離れすらしたスペックの高さで、一応一般人でありながら相当数のファンがいるらしく、こういう隠し撮り画像がいくつかネットに載せられていた。

「…いや、ないっす。」

俺が首を傾げると、先輩はちょっとつまらなそうに、なんだぁ、と口を尖らせた。その奥で倉持が、えっ、と少し目を開いたが、俺が眉を上げると口を噤んで顔を背けた。察しが良くて助かるぜ。

「玉城光もスゲーけど、この従弟もスゲーよなぁ。」
「ハーバード大学で飛び級して今4年だとよ。」
「ヤバッ!どんだけ頭良いんだ?」
「約10か国語を話し、バイオリンはプロ級、射撃と柔道と中国拳法で師範級、今は玉城財閥は叔父が代理会長を務めてるけど、こいつが大学を卒業して正式に引き継いだら富豪ランキング世界トップクラスの見込み…だってよ。」
「同じ人間とは思えねーな」
「こんな高スペックの従弟がいるのに、苦労する野球選手と付き合うなんて玉城光も変わってんな」
「はっはっは…」

何とか先輩たちから逃れてロッカールームを出ると、倉持も荷物をまとめて帰る様子で後をついてきた。

「御幸。」
「ん?」
「あの従弟って…高校ん時お前のとこに来たよな?」

やっぱり覚えてたか。だけどそれをわざわざ聞きに来るってことは、こいつなりに何か引っかかったからなのだろう。ほんと、鋭い奴…。

「そーだったなぁ。」
「…会ったことあんじゃねーか。」
「そーだけど、光臣が光には言うなって。」
「なんで?」
「あいつシスコンなんだよ。光の彼氏にヤキ入れに行ったこと、バレたくねーんだろ。」
「ヤキ!?」
「はっはっはっ!殺されかけたよマジで!」

ケラケラ笑う俺を、倉持は引き気味に見つめた。

「…てかさ、まだお前んちに居んの?もう帰ったんじゃ?」
「まだ一緒に居たいっつって戻ってきた♪」
「……チッ。あっそ。死ね。」
「まー今日は仕事で都内行ってるけどな…こっちから仕事通うから荷物持ってくるっつってたし、実質同棲だな〜はっはっは」
「あーどうでもいいどうでもいい」
「はっはっはっは!」


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