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「御幸〜」

倉持が気だるそうに俺を呼び、嫌な予感がした。

「なあ、マジでもう連絡とってないの?あの白栄の子と」
「とってねーよ」
「本当に?全く?」
「うん」
「……もったいね〜〜〜」
「うるせえ。」

どうせ友達紹介してくれとかそういう魂胆だろう。知ったこっちゃない。

「御幸先輩!」

部屋に入ってきた小湊が俺を見つけて呼んだ。

「門のところで先輩を呼んでる人がいるんですけど…」
「誰?」
「それがわからなくて。白い制服の高校生で…」

白い制服?
俺と倉持は顔を見合わせて、俺は部屋を飛び出した。

「おい待て!!コラ!!白栄の子とは続いてねーって言ってただろうが!!テメーやっぱ嘘ついてたな!?」
「ちょ…ついてくるな!」

倉持に追いかけられながら門の前にやって来ると、俺たちはたたらを踏んで立ち止まった。門の傍に立っていたのは…白い詰襟制服の、男、だった。

「……。」
「……誰?」

確かに白い制服だけど…光じゃなかった…。
でも、こいつの胸の校章…白栄だ。男子校の方の生徒か。光の知り合い…?

「…お疲れ〜」

倉持…興味を失くして逃げやがった。ったく、首突っ込むだけ突っ込みやがって…。

「…御幸一也?」

男は涼しげな眼で俺を見て尋ねる。

「そーだけど…そっちは?」
「……。」

俺をまじまじと観察し、男は口を開いた。

「…玉城光臣」
「…え、」

玉城…って。

「光の従弟。昨日、光とお前が一緒にいるのを見て、来た。」
「……。」

顔をこわばらせた俺を、光臣は顔色一つ変えずに無遠慮ににらんだ。
昨日…ってことは、婚約者じゃなくて、弟の方か。こいつにバレるとまずいって光は言ってたけど…あの時、やっぱ見られてたのか。それで…別れろと言いに来たとか?

「何の用?」
「ここに俺が来てることは、光も知らないし…誰にも言ってない。」
「……?」

ますます意味が分からない。

「一つ聞きたいんだ。」
「…何?」
「本気で光のことが好きなのか?」
「……へ?」
「あいつを一生、守る覚悟があるか?」

何言ってんだこいつ…?
その思いが顔に滲み出たか、光臣は冷めた目で俺を見た。

「馬鹿馬鹿しいと思うなら、今すぐ別れろ。」
「……。…覚悟って…婚約者のこと?」
「少しは聞いてるんだな。」
「まあ…。」

こいつの意図が読めない…。なんでこんなことを俺に聞くんだ?しかも、光には内緒で?

「…そういう意味なら、俺より、光のほうが…」
「何だ?」
「…もともと、あっちが付き合ってくれって言って来たんだよ。」

先に声かけたのは俺だけど。…光臣の目がまん丸くなった。こうしてみると、光にちょっと似てなくもないな。

「それが、誰でもいいみたいな口ぶりだったから…」
「……。」
「馬鹿な事しでかさないように、とりあえず付き合ったってワケ。」
「……。」
「まぁ…俺も気になってたし…」

光臣はすっかり静かになってしまった。

「…そういうことか…」

そしてぽつりとそう呟くと、また俺を見た。

「ひとまずはお前に光を任せることにする。」
「……。」

随分上から目線だな…。

「連絡先、教えてくれ。何かあったら連絡する。」
「え…何?何かって?」
「いいから出せ。」
「……。」
「光には言うなよ。俺のことは知らないふりをしろ。」
「……。」

なんなんだこいつ、本当に…
ちょっと腹が立ってきたとき、光臣の制服の袖にあるラインが1本であることに気付いた。これは学年を示しているんだと光から聞いたことがある。

「…お前1年!?」
「ああ。」
「…俺2年なんだけど。」
「だから?」
「タメ口。態度。」
「俺はお前の後輩じゃない。じゃあな。」

光臣は押し付けるように俺の携帯を返して、さっさと踵を返した。偉そうな奴…とても尻の青い1年坊主とは思えない生意気さ、肝の座りっぷり。かわいくねえ…。



***



「そっちも来週から期末?」
『うん。』

光との電話の時間。様子を窺うに、光臣は本当に光に何も言っていないらしい。

『先輩、ずっと忙しいの?』
「そうだなー…テスト終わったらすぐ合宿だし…」
『夏休みは?』
「夏休みは試合だな。」
『……。』

夏は彼女との仲が気まずくなる、って、彼女持ちの部員が言ってたっけ…と思い出す。あれって本当だったのか。

『…会えないの?』
「……。」

いや…でも…こうやって拗ねられると、可愛い…。
つーか…最近の光、ちょっと、積極的で…好意を感じる。やっと好感度上がってきたかな?もしかしてちょっと惚れてる?なーんて…

「ゆっくり会う時間は…ごめん、しばらくない。」
『…そう』
「でも、試合見に来いよ。案外面白いぜ。」
『……。』
「興味ないかもしれないけど、俺は3年間野球に捧げるつもりで青道に来たからさ。だから、光が見に来てくれるとスゲー嬉しいんだけど…どう?」

恥ずかしそうな、くぐもった声が返ってきた。

『…それ聞いたら…ちょっと興味出た』

ぶは、と小さく噴出して、俺はにやけながらそうだろ、と言った。

『先輩に会える?』

そこかよ。可愛いな、ほんと…

「あ〜…、会え…なくもないけど、…うん」
『何?』
「いや…、他の奴もいっぱいいるから…。見られるの嫌だろ?」
『…変装してく。』
「変装って(笑)」

本気なのか冗談なのか…。でも、そこまでして会いたいという気持ちを曝け出してくれるのは、悪い気はしなかった。むしろ嬉しい。ようやく恋人っぽくなってきたというか…。

『…じゃあ夏休みまで会えないんだ…』

ぽそぽそとすねるように呟く声がして、どうしたものかと頭を掻いた。野球を疎かにすることはできないし。せめて同じ学校だったら…学校で会う事も出来たんだろうけど。

「ごめんって」
『……。』
「おーい」
『…浮気してやる』
「えっ?」
『冗談だよ。』

ふふふと笑う声。なんかこわいんだけど…。

「…変な事するなよ、マジで。なんか突拍子もないことしそうでコエーんだけど…」
『突拍子もないことって?』
「…よく知らない男にいきなり付き合ってくれって言ったり」
『一也先輩じゃん』
「…変な男に近づくなよ。マジで心配だよ俺は」

もし、いい加減な男に俺に言ったことと同じような事を光が頼んだら…。…悪い男に手籠めにされる未来しか見えない。想像しただけでぞっとする。

『一也先輩は変な男じゃないの?』

俺の心配をよそに、からかうような言葉が返ってきて俺はちょっと脱力した。

「変な男だったらどうする?」
『……ふふ。』

困ったような、それでいてちょっとはにかむような笑い声が漏れ聞こえる。

『…違うと思う。』

恥ずかしそうに囁く声で光がそう言って、俺は胸の奥がくすぐったくなった。

「そうか〜?わかんねーぞ。」
『自分で言う?』
「はっはっはっ…は…」

笑い声をあげてふと振り向いた時、不思議そうに俺を見ながら通りすがったノリと白州と目が合った。

『どうしたの?』

いや…、と小さな声でごまかしながら、二人が遠ざかるまでごにょごにょとお茶を濁す。

「ごめん寮の奴が来たから…」

焦った…、とこぼすと、光はそうなんだ、と相槌を打った。

『あ…、点呼だ。またね。』
「あ、おう。おやすみ。」
『おやすみ。』

静かに電話が切れた。次に電話で切るのは、いつもの頻度から言って、はやくて2日後…直接会えるのは試験と合宿を乗り越えたあとの、選抜の試合のいつか。
誰かに会えなくて、こんなにもどかしい気持ちになるなんて…。やばいな、俺、腑抜けてきてる?
でも…試合を見に来てくれるなら嬉しい。部員たちが騒ぐだろうけど、それもちょっと、楽しみだったりして…

「…テメー何にやけてんだ」
「……。」

通りかかった倉持に気持ち悪がられて、いたの?と負け惜しみを言うと、キツいキックをお見舞いされた。

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