[1/31]
「御幸〜」
倉持が気だるそうに俺を呼び、嫌な予感がした。
「なあ、マジでもう連絡とってないの?あの白栄の子と」
「とってねーよ」
「本当に?全く?」
「うん」
「……もったいね〜〜〜」
「うるせえ。」
どうせ友達紹介してくれとかそういう魂胆だろう。知ったこっちゃない。
「御幸先輩!」
部屋に入ってきた小湊が俺を見つけて呼んだ。
「門のところで先輩を呼んでる人がいるんですけど…」
「誰?」
「それがわからなくて。白い制服の高校生で…」
白い制服?
俺と倉持は顔を見合わせて、俺は部屋を飛び出した。
「おい待て!!コラ!!白栄の子とは続いてねーって言ってただろうが!!テメーやっぱ嘘ついてたな!?」
「ちょ…ついてくるな!」
倉持に追いかけられながら門の前にやって来ると、俺たちはたたらを踏んで立ち止まった。門の傍に立っていたのは…白い詰襟制服の、男、だった。
「……。」
「……誰?」
確かに白い制服だけど…光じゃなかった…。
でも、こいつの胸の校章…白栄だ。男子校の方の生徒か。光の知り合い…?
「…お疲れ〜」
倉持…興味を失くして逃げやがった。ったく、首突っ込むだけ突っ込みやがって…。
「…御幸一也?」
男は涼しげな眼で俺を見て尋ねる。
「そーだけど…そっちは?」
「……。」
俺をまじまじと観察し、男は口を開いた。
「…玉城光臣」
「…え、」
玉城…って。
「光の従弟。昨日、光とお前が一緒にいるのを見て、来た。」
「……。」
顔をこわばらせた俺を、光臣は顔色一つ変えずに無遠慮ににらんだ。
昨日…ってことは、婚約者じゃなくて、弟の方か。こいつにバレるとまずいって光は言ってたけど…あの時、やっぱ見られてたのか。それで…別れろと言いに来たとか?
「何の用?」
「ここに俺が来てることは、光も知らないし…誰にも言ってない。」
「……?」
ますます意味が分からない。
「一つ聞きたいんだ。」
「…何?」
「本気で光のことが好きなのか?」
「……へ?」
「あいつを一生、守る覚悟があるか?」
何言ってんだこいつ…?
その思いが顔に滲み出たか、光臣は冷めた目で俺を見た。
「馬鹿馬鹿しいと思うなら、今すぐ別れろ。」
「……。…覚悟って…婚約者のこと?」
「少しは聞いてるんだな。」
「まあ…。」
こいつの意図が読めない…。なんでこんなことを俺に聞くんだ?しかも、光には内緒で?
「…そういう意味なら、俺より、光のほうが…」
「何だ?」
「…もともと、あっちが付き合ってくれって言って来たんだよ。」
先に声かけたのは俺だけど。…光臣の目がまん丸くなった。こうしてみると、光にちょっと似てなくもないな。
「それが、誰でもいいみたいな口ぶりだったから…」
「……。」
「馬鹿な事しでかさないように、とりあえず付き合ったってワケ。」
「……。」
「まぁ…俺も気になってたし…」
光臣はすっかり静かになってしまった。
「…そういうことか…」
そしてぽつりとそう呟くと、また俺を見た。
「ひとまずはお前に光を任せることにする。」
「……。」
随分上から目線だな…。
「連絡先、教えてくれ。何かあったら連絡する。」
「え…何?何かって?」
「いいから出せ。」
「……。」
「光には言うなよ。俺のことは知らないふりをしろ。」
「……。」
なんなんだこいつ、本当に…
ちょっと腹が立ってきたとき、光臣の制服の袖にあるラインが1本であることに気付いた。これは学年を示しているんだと光から聞いたことがある。
「…お前1年!?」
「ああ。」
「…俺2年なんだけど。」
「だから?」
「タメ口。態度。」
「俺はお前の後輩じゃない。じゃあな。」
光臣は押し付けるように俺の携帯を返して、さっさと踵を返した。偉そうな奴…とても尻の青い1年坊主とは思えない生意気さ、肝の座りっぷり。かわいくねえ…。
***
「そっちも来週から期末?」
『うん。』
光との電話の時間。様子を窺うに、光臣は本当に光に何も言っていないらしい。
『先輩、ずっと忙しいの?』
「そうだなー…テスト終わったらすぐ合宿だし…」
『夏休みは?』
「夏休みは試合だな。」
『……。』
夏は彼女との仲が気まずくなる、って、彼女持ちの部員が言ってたっけ…と思い出す。あれって本当だったのか。
『…会えないの?』
「……。」
いや…でも…こうやって拗ねられると、可愛い…。
つーか…最近の光、ちょっと、積極的で…好意を感じる。やっと好感度上がってきたかな?もしかしてちょっと惚れてる?なーんて…
「ゆっくり会う時間は…ごめん、しばらくない。」
『…そう』
「でも、試合見に来いよ。案外面白いぜ。」
『……。』
「興味ないかもしれないけど、俺は3年間野球に捧げるつもりで青道に来たからさ。だから、光が見に来てくれるとスゲー嬉しいんだけど…どう?」
恥ずかしそうな、くぐもった声が返ってきた。
『…それ聞いたら…ちょっと興味出た』
ぶは、と小さく噴出して、俺はにやけながらそうだろ、と言った。
『先輩に会える?』
そこかよ。可愛いな、ほんと…
「あ〜…、会え…なくもないけど、…うん」
『何?』
「いや…、他の奴もいっぱいいるから…。見られるの嫌だろ?」
『…変装してく。』
「変装って(笑)」
本気なのか冗談なのか…。でも、そこまでして会いたいという気持ちを曝け出してくれるのは、悪い気はしなかった。むしろ嬉しい。ようやく恋人っぽくなってきたというか…。
『…じゃあ夏休みまで会えないんだ…』
ぽそぽそとすねるように呟く声がして、どうしたものかと頭を掻いた。野球を疎かにすることはできないし。せめて同じ学校だったら…学校で会う事も出来たんだろうけど。
「ごめんって」
『……。』
「おーい」
『…浮気してやる』
「えっ?」
『冗談だよ。』
ふふふと笑う声。なんかこわいんだけど…。
「…変な事するなよ、マジで。なんか突拍子もないことしそうでコエーんだけど…」
『突拍子もないことって?』
「…よく知らない男にいきなり付き合ってくれって言ったり」
『一也先輩じゃん』
「…変な男に近づくなよ。マジで心配だよ俺は」
もし、いい加減な男に俺に言ったことと同じような事を光が頼んだら…。…悪い男に手籠めにされる未来しか見えない。想像しただけでぞっとする。
『一也先輩は変な男じゃないの?』
俺の心配をよそに、からかうような言葉が返ってきて俺はちょっと脱力した。
「変な男だったらどうする?」
『……ふふ。』
困ったような、それでいてちょっとはにかむような笑い声が漏れ聞こえる。
『…違うと思う。』
恥ずかしそうに囁く声で光がそう言って、俺は胸の奥がくすぐったくなった。
「そうか〜?わかんねーぞ。」
『自分で言う?』
「はっはっはっ…は…」
笑い声をあげてふと振り向いた時、不思議そうに俺を見ながら通りすがったノリと白州と目が合った。
『どうしたの?』
いや…、と小さな声でごまかしながら、二人が遠ざかるまでごにょごにょとお茶を濁す。
「ごめん寮の奴が来たから…」
焦った…、とこぼすと、光はそうなんだ、と相槌を打った。
『あ…、点呼だ。またね。』
「あ、おう。おやすみ。」
『おやすみ。』
静かに電話が切れた。次に電話で切るのは、いつもの頻度から言って、はやくて2日後…直接会えるのは試験と合宿を乗り越えたあとの、選抜の試合のいつか。
誰かに会えなくて、こんなにもどかしい気持ちになるなんて…。やばいな、俺、腑抜けてきてる?
でも…試合を見に来てくれるなら嬉しい。部員たちが騒ぐだろうけど、それもちょっと、楽しみだったりして…
「…テメー何にやけてんだ」
「……。」
通りかかった倉持に気持ち悪がられて、いたの?と負け惜しみを言うと、キツいキックをお見舞いされた。
栞を挟む
* 最初 | 最後 #
1/31ページ
LIST/MAIN/HOME