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「あははマジで!?」
「スゲェーー!!」
準決勝後、沢村の地元の友達が試合の応援に来ていたらしく、沢村は久々に会う友達と盛り上がっていた。人望あるんだ、とマネージャーたちが感心してその様子を見ている。
……。
…光…いつ来てくれるんだろ。つーかほんとに来てくれんのかな?野球に興味なさそうだったしなー…。
…などと思いながら視線を巡らせたとき。向こうの柱の傍に、心もとなげに立つ一人の女の子の姿を見つけた。
きょろきょろ、辺りを見渡しながら、あきらかに不慣れで浮いているその子。青いサマーニットに紺色のショートパンツ姿で、すらりと伸びた華奢な白い手足が映えている。それになにより、甘い端正な顔立ちと、胸下ほどまである長いふわふわした亜麻色の髪。まるでお人形さんのような、耽美で目を惹かれる美貌…。
…光!?今日来てたのか!?つーか、超目立つ…
「うわ、おい、あそこにいる子可愛くね?」
「…ああ…どこの学校だろ?」
先輩たちが気付きはじめ、青道生たちが注目し始めた。や、やばい。
2年と1年も気づきはじめた。幸い、倉持達は光の顔を覚えてないのか、私服で印象が違うからか、あのときの子だとは気付いていないようだけど…
「誰か探してる?」
「…だな。誰の知り合いだ?」
「まさか誰かの彼女?」
「いやまさか…」
「…お前声かけてみろよ」
「え〜…お前行けよ…」
「……。」
これはまずい、と俺は足を踏み出した。突然無言で歩きはじめた俺を、ぽかんと見送る部員たちの目の前を横切って、光に歩み寄る。光は近づいてくる俺に気が付くと、あっ、と安堵したような笑顔を浮かべた。
「一也先輩…。」
「おう…」
「…えええ御幸の彼女!!?」
「ウソだろおい!!!いつのまに!!!」
背後で阿鼻驚嘆の悲鳴が上がった。予想以上にうるせえ…。
「今日…来てたんだ?」
「うん…。」
「ありがとう。」
「う…うん。おめでとう…」
「…ありがとう。」
「…うん…。」
光ははにかんで、恥ずかしそうに髪を弄る。それから、ちら、と俺を見上げて、顔を赤くして俯いた。…こっちまで恥ずかしい…。
「……。」
「……。」
「……。」
…後ろからすげー視線感じるし…。
「…先輩」
「ん?」
「一也先輩って…モテるんだね」
「…へ?」
「試合中…女の子たちが、先輩のこと話してたから」
「…へー…そう…」
どう反応していいかわからずに頭を掻くと、光は恥ずかしげに俺を見上げた。
「…浮気しないでね」
え…、と声が漏れ、俺の顔はその引きつった変な笑みのまま固まった。カラン、と音がして、振り向くと、事の成り行きを野次馬していた奴らの中にいた倉持が、開けていたペットボトルの蓋を落としたのだった。
…聞かれてた…。は…恥ずかしい…
「あ…、じゃあ、もう帰るね。」
「え?」
「こっそり寮抜けてきたの。昼食の前に戻らないとバレちゃう」
じゃあね、と光はひらひら手を振って、階段を駆け下りて行った。その姿が見えなくなると、突如背中に強烈なキックがぶち込まれた。
「ゴルア御幸ィィ!!どーゆーことか説明しろオラア!!」
「裏切りやがってこのクソ眼鏡!!!」
「いつから彼女作っていやがったアァァァ!!!」
「ぎ…ぎぶ…」
***
「さあ正直に吐いてもらおーか…」
「……。」
夕食後部屋に押しかけて来た倉持達に苦笑して、俺は小さくため息を吐いた。
「今いそがしーんですけど…」
「嘘吐け漫画読んでるだけじゃねーか!!」
漫画を奪われ、取り囲まれる俺。
「いつから付き合ってんだよお前!!」
「ないしょ。」
「彼女どこの高校?」
「ないしょ。」
「彼女の名前は?」
「ないしょ。」
「ふざけんな!!」
あーもーうるさい。けど、ちょっと優越感。
「ぐああああちくしょおおお性悪腹黒クソメガネに先を越されるなんてええええ」
「おい…」
「やっぱ顔か…?顔なのか…?」
「……。」
勝手な事を言う奴らに呆れていると、俺の携帯が鳴った。奴らが反応する前に携帯を手に取り、部屋から脱出する。
「あっ!逃げやがった!!」
「彼女からの電話か!?」
俺は逃げのびて倉庫の裏まで走ってくると、急いで電話の応答ボタンを押した。
「…もしもし!」
『…大丈夫?』
ちょっと息切れしている俺に不思議そうに尋ねる光。
「へーきへーき…」
『…?忙しかった?』
「大丈夫。どした?」
光と話していると、自然と優しい口調になるな、とふと気づきながら尋ねた。
『…。…決勝、見に行けないから…』
「……。」
『…頑張ってって、言おうと思って…』
それきり黙り込んでしまう光。俺は胸の中にじわりとあたたかいものが広がった。
「そっか…ありがとな。」
『……。』
きっと今、また恥ずかしそうにはにかんでるのかな、とちょっと想像する。やっぱり…いい感じだよな?
『ごめんね…今日』
「え?何が?」
『友達の前で…なんか、思ったより、騒ぎになっちゃったから…』
「ああ、別に…いいよ。俺はバレても全然いいから。」
『え…。』
「今も他の奴らに、光のこと自慢してたとこだし。」
『え?』
「あ!ちゃんと色々秘密にしてるから、そこは大丈夫だからな。」
『……。』
ふふ、と小さく笑う声が聞こえた。
『…自慢になるの?』
「当たり前じゃん。こんな可愛い彼女。」
『……。』
困ったような沈黙。どうかしたのか、と聞こうと思った時、光の声が返ってきた。
『…もう点呼の時間だから…、切るね。』
なんとなく疑問を感じながら、そっか、と頷く。
「おやすみ。」
『おやすみ…』
ぷつん、と電話が切れ、時間を見ると、8時半。いつもは9時ぎりぎりまで電話することもあるのに…。忙しかったのか?…まあいいか。
「へ〜〜…光ちゃんって言うんだ?」
「!!?」
物陰から現れる亮さん達。き、聞いてたのかよ…!!
「光ちゃんってテメー、やっぱあの子…」
「倉持!!」
倉持が思い出したように声を上げ、俺は慌てて倉持を引っ張って行った。
「…なんだよ!?」
「頼むからそれはマジで内緒にして!」
「…はぁ?」
訝しむ倉持に俺はとにかく懇願した。
「あっちから頼まれてんだよ、付き合ってること内緒にしてくれって。家族にばれるとヤバいらしくてさ。」
「なんだそれ。」
「すげーお嬢様なんだよ。な!!頼む!!今度なんか奢るから!!」
「……。」
倉持はしばらく考えて、ぽつりと言った。
「焼きそばパン。」
「……。やっぱヤンキーなお前」
「アァ!?バラされてーかお前!」
ごめんごめんごめんなさい、と倉持にヘッドロックをかまされながら俺はギブアップを表明した。
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