読み切り短編集

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「またソレ見てんの?」

昼休み。倉持の声が頭上から降ってきて、俺はスコアブックから顔を上げ、倉持のヤンキー面を見上げた。

「好きだな〜。」
「これも仕事だからな。」

「く、倉持!」

そんな穏やかな昼下がりを打ち切るクラスメイトの慌てた声。ただごとではなさそうに駆け寄ってきたクラスメイトを、倉持は訝しげに振り返る。

「何?」
「すげー可愛い子がお前のこと呼んでるぞ!」
「は?」
「野球部の人いますかっつーから、眼鏡かけてる奴かって聞いたら、かけてない人だって…倉持のことだろ?」
「え…?」
「1年の女子!廊下!」

倉持はあまりに予想外の事態のため、きょとんとして、次第に顔を赤くして、急いで廊下に出て行った。
倉持が女子から呼び出し?しかも、面識のない1年から…?そんなバカな。でも面白そうだから見に行ってやろ。
俺もスコアブックを閉じて、のんびりと廊下に向かった。
廊下に出て見渡すと、階段の傍に倉持の背中を見つけた。向かい合って立っている女子生徒がどんな可愛い子が見てやろうと思って、こっそりと覗いて――あっ、と小さく声が出た。
あの子…おととい校舎裏で会った…。…あ、そうか!あの時俺眼鏡かけてなかったから…そんで名前も名乗ってなかったから…!!

「1年…だよね?」
「……。」
「俺に何の用…、」

浮かれてふわふわしている倉持に対し、困惑気味に倉持を見上げ、言葉を選ぶように口を開く女の子。

「あの…。…ま 間違えて…」
「え?」
「やっほ〜〜。俺のこと呼んだ?」

倉持の後ろから顔を出すと、倉持は「は?」と固まって、女の子は俺の顔を見てぽかんと口を開けた。

「あ…。あれ…?眼鏡…。」
「あ〜コレな、普段はかけてんの。」
「……。」
「……。」

女の子はもの言いたげな目で口を閉じ、倉持は全てを察した顔で黙り込んだ。

「ソレ返しに来てくれたんだろ?」
「…はい。すみませんでした。」
「いいってことよ。怪我大丈夫?」
「おかげさまで。」

女の子はちょっと素っ気ない態度で頷き、早々に踵を返す。

「じゃあ、これで…。」
「え!?もう行っちゃうの?」

女の子は足を止め、訝し気に眉を寄せて俺を見上げた。

「1年だよな?名前は?」
「……。」

青いつぶらな瞳がじっと俺を捉える。

「何でですか?」
「へ?」
「言いたくないです。」
「え…。」

な…なんか俺嫌われてる!?なんでだ?何かしたっけ?

「失礼します。」
「えっ!ちょっと待っ…、えぇ〜〜…」

スタスタスタ、綺麗な髪をなびかせて、女の子は廊下の向こうへ去って行ってしまった。

「お前何したの?」
「……。」

…なんでだ!!?



***



「チッ…」

可愛い女子に呼び出されたと思ったら自分じゃなかったということで倉持は少々不機嫌だ。
部活に向かう途中、前を歩いている1年の東条と金丸に女子生徒たちが手を振って駆け寄っていくのを見て、舌打ちなんかしちゃっている。

「東条君これから部活〜?」
「うん。」
「頑張ってね〜!」
「ありがとう!」

5人組の女子のうち、小柄で天然っぽい雰囲気の女子が東条に気があるのか、特に熱心に声をかけていて、他の4人はそれを見守っている。

「ばいば〜い!」
「うん、またな!…玉城もまた明日!」

お?東条が後ろの4人の方に向かって一人を名指しした。
三角関係か?とうきうきしてこっそり見守っていると、東条に応えて小さく手を振った女子を見て、あっと息をのんだ。あの子だ…!

「あれ?あの女子…。」

なぁ?と俺を見上げる倉持。倉持も気づいたらしい。
ぞろぞろ校門に向かう5人組の中で、その子だけ輝いているみたいに見えて、俺は目で追った。すれ違いざま、視線に気づいたように、青い目がちらりとこちらを見た。

「よっ。」
「……。」

目が合った瞬間手をあげて声をかけると、ちょっと睨むような真っ直ぐな視線が俺を捉える。
周りの女子たちは、誰?と盛り上がり始めた。

「玉城ちゃんっていうんだ?」
「……。」
「東条と同じクラスなの?」
「……。失礼します。」

行こ、と玉城ちゃんは友達に言って、早々に帰ろうとしてしまう。

「えーいいの?」
「知り合いでしょ?」
「知らない人だから。」
「コラコラ…それが恩人への言葉か!」
「恩人?」

つぶらな目を細めて、玉城ちゃんは俺を睨んだ。

「手当してやったじゃ〜ん」
「それは…そもそもそっちが変な事言わなければ…」
「はっはっはっ確かに!」

「変な事?」
「何があったの?」
「……。」

玉城ちゃんはじわりと顔を赤くして、なんでもない、と呟いた。

「テメー何言ったんだよ?」
「え?ぱん…」
「ちょっと!!」

ぺちん、と軽い衝撃が背中に飛んできた。見ると玉城ちゃんが顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。

「ぱん?」
「パン?」
「おなかすいたぁ」
「パンが何?」
「……。」

口々に首を傾げる友達に、玉城ちゃんはうぅ、と口ごもって、とうとう小さな声で呟いた。

「…ぱんつ…見えてるぞって…」
「は!?テメェ何言ってんだセクハラじゃねーか!!」
「ちげぇよ見えてねー。見えるぞって言ったんだよ」
「だからなんだよ!」
「そしたら足滑らせて花壇から落ちちゃって…なっ。」
「……。」
「そういやあそこで何してたの?」
「べ 別に…関係ないじゃないですか」
「おっ秘密主義か〜!?いいねぇ美女には謎が付き物…」
「テメーは何の話をしてんだ!」
「ちょ…くるしい…」

倉持は俺を締め上げて玉城ちゃんにいい顔をした。しかし玉城ちゃんは気に留めない様子ですでに友達の方を向いていた。

「ねぇ、もう行こう。映画始まっちゃうよ」
「そだね〜」
「ポップコーン買いたいから急ご!」
「私パンフレットも買う〜」
「私チュロス〜」

「……。」

じゃ、失礼しま〜す、と女子たちはぞろぞろ帰って行き、倉持は乱暴に俺を離した。

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