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「ねー今日カラオケ行きた〜い」
「行こ行こ!光も行ける?」
「うん。」
朝登校すると、玉城さんの席の周りに鷹野さんたちが集まって、皆で盛り上がっていた。光…って、いつのまにか名前で呼ぶようになってる。女子は打ち解けるの早いなぁ…。俺が心配することなかったな。
「あ!東条君おはよ〜。」
熊谷さんが俺に気づいて笑顔で挨拶してくれた。
「おはよう!」
俺はそれに返しながら、玉城に視線を移してもう一度おはよう、と言った。玉城は微笑んで、おはよ、と頷いてくれた。
「ちょっと東条君、光だけ特別〜?」
「え!?いや違うよ!皆おはよう!」
「あははは。」
…鷹野さんにからかわれてしまった。ちょっと顔が熱くなって、俺は咄嗟にごまかした。
「あれ、っていうか、それ何?ブレスレット?」
ふと、5人とも手首に何か着けているのに気づいて言うと、彼女たちは皆嬉しそうに顔を見合わせて笑った。
「お揃いだよ〜。」
熊谷さんが手首を振って見せてくれた。金色の華奢な女の子らしいブレスレットで、小さな石が付いている。
「へー。仲いいな〜」
「まあね〜。」
ふふふふ、と笑い合う5人は本当に嬉しそうで、その中で頬を赤くしてはにかんでいる玉城がすごく可愛くて、やっぱり俺の視線は玉城に向いてしまうのだった。
「あ〜やっぱり東条君光のこと見て…」
「い、いや違うって!」
***
「玉城?」
学校の自販機に行くと、玉城がその前で佇んでいた。声をかけると振り向いて、あっ、と俺に道を譲ってくれた。
「お先にどうぞ。」
「え?いいよ、玉城が先じゃん」
「まだ決まってないから…。」
「そうなの?じゃ…お先に!」
ありがとう、と先に譲ってもらい、俺はファンタオレンジを買った。
「決まった?」
「うーん…」
何をそんなに悩んでいるのか、玉城はまた自販機の前に立ち、ひとつひとつじっくり眺めて吟味している。
「そんなに迷う?」
「……。…ねえ、これ…何?」
「え?」
これ、と玉城が指したのは、なぜか季節外れなのに入っているおしるこ白玉入り。あー。イギリス育ちだから知らないのかな?
「おしるこだよ。」
「おしるこ…?」
「飲む餡子みたいな…甘くてドロドロしてるよ。」
「えー、じゃ、やめようかな…。」
俺の表現が美味しくなさそうだったのか、玉城は苦々しい顔をしてまた迷い始めた。
「ねー、じゃあこれは何?」
「飲むゼリーだよ。振って飲むんだよ」
「へ〜…。じゃあこれは?」
「ほうじ茶だね。」
「こっちと何が違うの?」
「それは麦茶。ほうじ茶の方が若干苦めかな?でもどっちも普通のお茶だよ。」
「…お茶の種類多すぎ。」
玉城はムッと口をとがらせて、俺はどきりとした。え、何それ、何そのフレンドリーな感じ…!俺って結構仲良しだと思われてるのかな?嬉しい。
「普通のお茶ないの?」
「あはは!どれも普通のお茶だよ。でも、そうだな、じゃあこれにすれば?甘い紅茶だよ。」
「あ、紅茶あるんだ!それにする。」
ありがとう、と玉城は笑って、午後ティーのストレートを買った。
「日本って変な飲み物多いよね…。」
「え?そう?」
「この前司たちとピンク色のお茶飲んだよ。」
「ピンク!?何のお茶?」
「さくらんぼティーラテとかいう…」
「あ〜期間限定の奴だ!俺も気になってるんだよなそれ。」
「美味しかったよ。」
うわ〜、すごい。俺、玉城と盛り上がってる…!今日ラッキーだな、玉城とこんなに話せるなんて。
「そういえば、ファミチキ食べた?」
「あ…、忘れてた。」
「あはは!」
「でもそれどこに売ってるの?」
「ファミマだよ。」
「どこにあるの?」
「この辺だと…駅前にあるよ、確か。」
「駅前〜…?」
「緑っぽい看板のコンビニ!」
「……?」
「ファミリーマートって見たことない?」
「あ…!見たかも。ファミリーマート…ファミマ…あ、なんだぁ、そういうことか。」
「セブンにもチキンあるけどな。」
「セブン?それもコンビニ?」
「うん。あとはミニストップとか、デイリーとか、サークル…」
「えっ、何それ、ねえやだ、もうわかんないってばぁ…!」
玉城が甘えるような駄々をこねて俺の腕に触れて、俺は驚いてちょっと言葉を失った。か、可愛い…!
「ははは…。」
「何で笑うの?」
ついつい顔が緩んでしまった俺に、玉城はむっとした。だから可愛すぎだって…!
「よォ東条、楽しそうだなぁ…?」
「!?」
すると突然、ずしりと肩に重みを感じ、耳元で低い声が響いた。驚いて振り向くと、俺にのしかかっているのは倉持先輩で、すぐ後ろに御幸先輩もいた。
「こんちは!」
倉持先輩は部活中には見たことのないにこやかな笑顔で玉城に挨拶をし、玉城は遠慮がちにぺこりと会釈をして、困ったように俺を見た。…なんか、ちょっと、嬉しい。
「玉城ちゃん東条と仲いいの?」
あれ、御幸先輩、玉城のこと知ってるんだ…?そう驚きながら玉城を見ると、なんだか不機嫌そうな顔で御幸先輩を睨んでいる。
「……。」
「あれ?無視?」
お〜い、と玉城の目の前でひらひら手を振る御幸先輩。
「玉城ちゃ〜ん。もしも〜し?」
「……うるさい。」
ぽつり、と玉城が呟いて、おっ、と御幸先輩が目を丸くした。
「はっはっはっは!うるさいだぁ〜!?先輩に向かって言うねぇ!」
「……。」
「玉城ちゃんは見かけによらずおっかねーなぁ!」
な、仲がいいのか悪いのか、よくわからないな…。でもちょっと、いや、結構親しそうだ…。
「仲…いいですね。」
俺がそう言うと、御幸先輩は満面の笑みを、玉城は動揺と困惑を、倉持先輩は悔しそうな苛立ちを浮かべた。
「え〜そう見えるぅ?」
「ちょ…ふざけないでください!東条もやめてよ!」
「はっはっは!諦めろ、俺ら仲良く見えるんだってさ♡」
「もー!やだ!」
顔を赤くした玉城が御幸先輩から逃げるように俺の背中に隠れ、肩につかまって来た。突然の接近にドキドキして…るのは俺の方だけなんだろうな、うん。
「東条〜…この人やだ」
「え…?な、なんで?」
「コラコラ、東条に助け求めんな!つーかイチャつくな!離れろ!」
ふん、とそっぽを向く玉城。なんか、甘くていいにおいが…。
「東条顔真っ赤だぞ〜」
「え…!?」
「照れてる照れてる」
「いや!ち、ちが…」
途端に結託して俺をからかってくる御幸先輩と倉持先輩に、勘弁してくれよ、と心の中で叫んだ。
「も…もう行こ!東条」
玉城が急にそう言って、俺の腕を掴んで歩き出した。俺を引っ張る後ろ姿から見える耳が赤い。も、もしかして、玉城も照れて…!?
「あ〜またイチャついてる〜!」
「東条今日覚えとけよ!」
「玉ちゃん俺というものがありながら〜!」
「ヒャハハテメェ調子乗ってんじゃねえ!」
「いて」
御幸先輩と倉持先輩の声を背中に聞きながら、俺は玉城に連れられて廊下を歩いた。…どこまで行くんだろう。っていうか、いつまで手…掴まれてるんだろう…。…ずっと…は、無理だけど、もうちょっとこのまま…歩いていたいなー…なんて…。
「あ!そうだ!」
…なんて考えていると、突然あっけなく手が離れ、玉城が俺を振り向いた。
「東条に聞きたいことがあったんだ。」
「え?何?」
「東条カラオケってよく行く?」
「カラオケ?」
そういえば朝、鷹野さんたちとカラオケに行くとか言ってたな…、と考えながら首を傾げた。
「まあ、時々。」
「よかった!」
「え?」
「どういうところか教えてくれない…?」
顔の前で手を合わせて、縋るようなきらきらうるうるした目で俺を見上げる玉城。だ、だから、可愛すぎるって…!
「どういう…って?」
「歌うたうんだよね?」
あ、そこから…。
「そうだよ。」
「どんな感じのお店なの?必要なものとかあるの?」
「え?いや、何もいらないよ。しいて言えば学生証くらい。」
「え!?じゃあカラオケって学生しか行けないの?」
「い…いやいや、学生証を持っていくと割引してもらえるんだよ。」
「へ〜!そうなんだ…。他には?」
「え、うーん…っていうか、鷹野さんたちと行くんだろ?」
「…うん。」
「じゃあ、大丈夫だよ。鷹野さんたちが分かってるだろうし」
「で、でも…」
玉城は顔を赤くして、また俺を縋るように見上げた。
「恥ずかしいじゃん…。」
「……。」
…だから可愛すぎるってば…!!
俺、すごい玉城に頼りにされてる…。嬉しいけど…それはすごく嬉しいけど…!なんだかふわふわして、落ち着かない。
「何歌えばいいかわかんないし…。」
「何でもいいんだよ!玉城の好きな歌で。」
「でも…皆流行りの歌とか歌うんでしょ?」
「そうでもないよ。みんな好きな歌うたってるから、大丈夫だよ!」
「東条はどんなの歌うの?」
「俺?俺は〜…まあアイドルの歌とか…」
「それ!そういうの教えて!」
「え…、じゃあ…CD貸そうか?」
「いいの!?」
玉城は目をキラキラさせて満面の笑顔を浮かべて、俺はまた心臓がうるさくなってしまう。顔も熱くなってしまう。
「全然いいよ!明日持ってくる。」
「嬉しい!ありがとう。」
あ〜、もう、心臓ドキドキしすぎて息が苦しい…!
「あ〜でも今日のカラオケどうしよう…」
「あはは!だから大丈夫だって。」
「緊張する。」
「玉城普段何聴くの?」
「え…、うーん…」
「何何?教えてよ。」
「…好きなのは…ヴィヴァルディとショパン」
「……。」
「へ…変?」
「いや…!変じゃないよ!なんかすごいなって…」
玉城って…やっぱりお嬢様?いろいろ変わってるよな…海外育ちにしても。
「ショパンが好きなんて暗いって従弟にもよく言われる。」
「へ?う、うーん、それはよくわからないけど…でもいいんじゃない?俺もアイドルの歌なんて何がいいんだって、よく信二に言われるよ。」
「…そうなの?」
「信二は古めの洋ロック好きだからな〜。」
ふうん…、と玉城は目を瞬いて、それから嬉しそうに微笑んだ。
「ふふふふ。」
「?」
どうして玉城が笑ったのか、よくわからないけど、その笑顔があまりに人懐こかったから、俺はつられて顔を緩ませてしまうのだった。
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