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「うちの学校で一番可愛いのって誰だと思う?」
新入生の顔も学校になじんできた今日この頃、にわかにこの話が始まった。俺は一瞬玉城ちゃんの顔を思い起こしつつ、去年の今頃もこんな話してたな、なんて考えながら、いや可愛い女子の話なんてほぼ毎日か、と思い直し、白米を口に運んだ。
「やっぱ松本さんじゃね?ゲーノー人だし」
麻生が出した名前に、あ〜、と納得するような感嘆が広がった。松本さん…松本マリナさんは、2年の女子で、子供のころから芸能活動をしていて、去年は結構有名な学園ドラマに出演し、うちの学校でも話題になった。芸能人というだけあって小顔ではっきりした顔立ちで、周りの女子よりもちょっと目を惹く。そして…
「こいつ去年告られてんの」
「…うるせーな」
隣の倉持に小突かれ、俺はぼそりと呟いた。
「ハァマジかよ!?」
「それでどうしたんだよ!?」
「コイツ贅沢にもフリやがったんだぜ!贅沢にも!!」
「声でけーよ」
「フッたぁ!?天罰下れ!!」
「バチ当たれ!!」
「犬のウンコ踏め!!」
雪崩のように降りかかる罵倒にはいはいと頷きながら、みそ汁をのんだ。倉持の奴、余計なことバラしやがって…。
「何で振ったんだよ?」
「別にー」
「カワイイし胸もデケェじゃん!」
「だから?」
「コイツ殴りてぇ…」
「でもさー今年の1年すげえ可愛い子いるって聞いたけど?」
恨み言を聞き流しつつ関係ない顔をしてひたすら飯を口へ運んでいると、やがて話題が逸れてやれやれと息をついた。
「あ!聞いた聞いた。ゲーノー人より可愛いって」
「ハーフみたいな子だろ?」
「俺も見た。」
「何組?名前なんて言うの?」
「クラスは知らないけど、名前は確か…」
「玉城光ちゃんだよ!」
んぐっ、とみそ汁にむせかけて、ごくりと喉を鳴らして飲み込んだ。…あぶねー。吹き出すところだった。
つーかあの子…もうこんな噂になってんの?まあ可愛いもんな―…。
「その子なら東条が詳しいぜぇ〜。な!東条!」
「えっ!?」
「こいつ玉城さんとよくいちゃついてやがるんだよ!」
平和に夕食を食べていた東条が倉持に捕まり、一気に先輩たちからのヤジに包まれてしまった。
「東条お前その子と付き合ってんのか!?」
「ち…違います!」
「やるなぁ〜さすが松方シニアの元エース!」
「早速モテてんのかよ!」
「イケメンはいいよなぁ〜!」
「…い、いや…。」
肩身を狭くしていく東条を、仲のいい金丸が気の毒そうに、だけど巻き込まれたくないのか遠巻きに見守っている。
「おい東条!高校球児たるもの女にかまけてる時間なんかねーんだよ!わかってんのか!?」
「モテるからって調子乗るんじゃねーぞ!」
「御幸みたいになるぞ!」
「はっはっは!正捕手になるってこと?」
「うぜえ!!」
「死ね!!」
***
「それでさっきのはなんだっけ?」
「HKTだよ。」
「えっ、じゃあその…最初のは?」
「AKB。」
「えーもうわかんないよ〜。なんでいくつもあるの?覚えられない!」
「AKBは秋葉原からとってるんだよ。HKTは博多。」
「…あ!地名からとってるってこと!?」
「そうそう!活動拠点ごとに違うんだよ。」
「なぁんだ〜。」
学校の自販機の傍で、東条と玉城がおしゃべりしているのを見かけた。この前もこのあたりで見かけたし、結構二人でジュースを買いに来たりするんだろうか。
「アイツまたいちゃつきやがって…」
チッ、と倉持が舌打ちをこぼす。確かに、いつもツンツン素っ気ない玉城があんなふうに鼻にかかった声で駄々をこねるなんて、よほど親密なのだろうとしか思えない。
「アイウォンチュ〜♡」
「……?」
俺が歌いながら近づいていくと、玉城は俺を見るなり鬱陶しそうに眉を寄せた。
「何なんですか?」
「え〜、AKBの話してるから。」
俺の答えにまた眉を寄せて、疑問符を浮かべて東条を見る玉城ちゃん。東条は爽やかに、そういう歌があるんだよ、と教えてやっている。
「えっ、ヘビーローテーション知らないとかマジか!?」
「悪いですか?」
「いやだって今じゃ聴かない日はないくらいあちこちで流れてるじゃん」
「……。」
花城はわかりやすくムッと口をとがらせて不機嫌になった。
「うるさいな。」
「はっはっは!出た〜うるさい!なんだよ〜東条にはそんなに懐いてるくせに。」
「東条はわからなくてもバカにしないもん。」
ふん、とそっぽを向く玉城の言葉に、東条が嬉しそうに顔を赤くした。なるほどね〜…。
「俺もバカにしてるわけじゃないって!」
「バカにしてます。」
「してませ〜ん。」
「してます!」
「はっはっは!ムキになっちゃってカワイ〜♡」
「ほらぁ!そういうところが…!」
反射的に声を上げた玉城が、図星を自覚したようにはっと顔を赤くして黙りこんだ。
「後輩女子イジメて楽しんでんじゃねーよ変態。」
「いて」
すかさずいいカッコをした倉持から尻に蹴りを食らった。
「玉ちゃんて普段どんな音楽聴いてんの?」
「なんですか玉ちゃんって。やめてください。」
「優雅にクラシックとか聴いてそうだな〜!な〜んて…」
「悪いですか?」
「え、マジ?はっはっはっは!イメージぴったり(笑)」
「やっぱり馬鹿にしてますよね。」
「してねーって!見るからにお嬢様だもんな〜玉ちゃんは(笑)」
「……。」
むむむむむ…、と玉城の顔はどんどんむくれていって、俺はついつい楽しくなってしまう。
「で?歌は何聴くんだよ。」
「……。」
「邦楽?洋楽?」
「……。」
「aiko?YUIとか?」
「……東条〜〜〜」
玉城は東条の腕に泣きついた。東条は顔を赤くして動揺している。
「コラコラ東条に泣きつくな!」
「テメーがいじめるからだろが」
「いじめてないもん」
倉持に蹴りを入れられる俺を、東条は申し訳なさそうに見上げた。
「あの…玉城、日本に来たばかりなんですよ。」
「え?」
「中学まではイギリスにいたんです。な?」
東条の言葉に、玉城はこくんと素直に頷いた。
「だから日本のことあまりよく知らないんですよ。」
「へ〜。」
「ほ〜…」
「……。」
じろじろと物珍しそうに玉城を見る俺と倉持から、玉城は居心地悪そうに目を背けた。
「帰国子女なんてすげえな〜。」
「……。」
「やっぱお嬢様なんだろ?」
「……。」
「つーか日本語上手いね。」
「……。」
むむむむむ…、と玉城がむくれていき、俺を睨んだ。
「…もう御幸先輩なんて嫌い!」
「は!?なんでだよ!」
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