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「昨日の手紙の子、どーなったんだよ」
昨日御幸の靴箱に入っていた手紙。あれは十中八九、ラブレター。
そしてこいつの昨日の昼休み、いつの間にかどこかへ姿を消して、予鈴が鳴ってからようやく教室に戻ってきた。
絶対ラブレターの子に会ってきただろ…。
「どうもなってねえよ。」
けど、こいつは口が堅い。今までにもウゼェくらいこの手の手紙をもらっているヤツだが、相手の情報はおろか、どんな話をしたかまでもなかなか口を割らず、後から噂で知ることが多い。
まあ、相手に配慮してるんだろーが…それも面白くねぇ。
「お…。」
と、御幸が何かを見て気づいたように言った。その視線の先に野球部の誰かでもいるのだろうと辿ってみて、硬直する。
前方から歩いてくる、髪の長い色白の、スラっとした華奢な女子。ぱっちりした目、赤い唇、整っているだけじゃなく、どことなく大人びた色気のある、だけど愛らしい顔。そして歩いてくる所作そのものさえも洗練されていて、すごくキレイだ。
あんな可愛い子、うちの学校にいたか…!?って、あ…あの上履きの色、新入生か。
あんな子と同級生なんて、今年の1年は羨まし…、
「よっ。」
…!!?
突然御幸がその美女に対して片手をあげて挨拶をして、俺は目と耳を疑った。
し…知り合い!?
「……。」
「え、誰?知り合い?」
美女の友達らしき女子も不思議そうに、そしてちょっと楽し気に尋ねる。
しかし美女はツンとそっぽを向いて言った。
「知らない。」
「はっはっはっは!おいおい花ちゃ〜ん、つめてーこと言うなって!」
すれ違いざま、御幸が美女の背中のセーターをちょっと引っ張ると、美女はムッと口をとがらせて振り返った。か、可愛い…。
「ちょっと、引っ張らないでください。」
「無視するからだろ〜」
「えっちょっと光!誰この先輩?イケメンじゃん!」
「いやいや、それほどでも」
「調子に乗るから褒めちゃダメ。」
「はっはっはっは!辛辣〜!」
な…、なんでこんなに仲良さそうなんだ…!?
つーか俺、完全に置いてきぼり…。
「え〜でも、光がこんなに砕けてるの、珍しいな〜!」
その友達の言葉に、美女はぎょっと顔を赤くして、御幸は気持ちわりーくらい嬉しそうににやけた。
「まじ?俺そんなに心開かれてんの?」
「全然開いてないです。」
きっぱりと毒舌を刺す美女。だけど御幸は嬉しそうだし、美女も本気で嫌っているというよりかは、なんというか、二人だけの空気感、二人だけの世界…という感じで。
「ねー光、誰なの?」
気になってたまらないという様子で美女の袖口を引っ張る友達に、美女はけろりと答えた。
「みゆきちゃん。」
「ブッ…!」
ヤバイ。予想外の答えに思わずふき出しちまった。
「ヒャハハハ!みゆきちゃん…!」
「笑うな!」
ヒィヒィなんとか笑いをこらえて、ポカンと俺を見る二つの瞳に気づく。
この子…やっぱ可愛すぎ。光ちゃん…か。
…御幸とはどういう関係なんだ?
「あ…俺、コイツと同じクラスの倉持洋一って言います!コイツに迷惑かけられたらいつでも言ってください、シメとくんで」
「何言ってんの?」
「あはは」
俺の言葉にふわりと天使のほほえみを浮かべた光ちゃんのまぶしさの前では、クソ眼鏡の声なんて届かない。
「行こ、司」
「いいの?」
「いいのいいの」
光ちゃんは友達に声をかけ、御幸にからかうような一瞥を残して歩いて行った。
「あーあ、行っちゃった」
「……。」
「いて!」
怒りを思い出して、間抜け面で光ちゃんたちの背中を見送る御幸のケツにタイキックを入れる。
「なんだよ…」
「なんだよじゃねェ、お前光ちゃんとどういう知り合いだ?」
「どういうって、別に」
「ふざけんな吐きやがれ!関係ない後輩女子とあんな仲良くなることあるか!」
「え、仲良く見える〜?」
「ウゼェ!」
こいつ、絶対吐かないつもりだ…クソムカつく。
「つーか光って…。…あ!!」
「何?」
こいつ、さっき光ちゃんのこと花ちゃんって言ってたし、間違いねぇ。
花城光って、こないだ噂で聞いた…
「今年の1年に断トツ可愛い子がいるって噂になってた花城光ちゃんか!?」
「え、そうなの?」
「ウガーッ!!その態度腹立つ!!」
「増子先輩がうつってるぜ笑」
***
「倉持!ちょっと来て!」
休み時間、便所から戻る途中で隣のクラスの椎木に呼び止められ、面倒くさそうな雰囲気をかぎ取ってげんなりした。
「なんだよ…」
「いいからこっち!」
人目を避けて廊下の端の階段の影まで連行されたところで、椎木は声を潜めた。
「御幸君に渡してくれた!?」
…例の手紙のことだろう。内容をこっそり見たが、メールしてくれと書いてあった…。
「あー、渡したよ」
「マジ?メール来ないんだけど」
…俺に言われても。
御幸のやつ…光ちゃんにデレデレしてたけど、まさかあの子に気があるから椎木の手紙を無視してる?いや、関係ねーか…
「知らねぇよ」
「あんたから何か言ってよ!」
「ハァ?なんで俺が…」
「このままじゃ御幸君のアドレスがわからないじゃん!」
俺に関係ねぇし…。
「じゃ!お願いね!」
椎木はきつく俺に厳命し、勝手に話を終わらせて自分の教室に戻っていった。
…面倒くせぇ。
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