001

今日は入学式。
朝から気分のいい快晴で、まだ少し冷たい風も、温かい日差しに照らされた肌には心地よい。


「今年の1年可愛い子いるかな?」
「お前なあその目つき…新入生が怖がっちゃうぜ」
「アァ!?これが素なんだよ!」

真新しい制服に身を包んだ、まだあどけない顔つきの新入生たちを見渡しながら倉持が言うのを、俺が苦笑して窘めると、倉持からキックが飛んできた。
その衝撃で少し前によろけると、ドン、と胸元に柔らかいものがぶつかった。

フワッ、と、甘くて爽やかないい香りが鼻の奥を通り抜け、胸の中に広がった。

ふわふわの亜麻色の長い髪が目の前で揺れ、その向こうに大きな鳶色の瞳が覗く。
キラキラして綺麗なその瞳に、くっきりと、息をのんだ間抜けな自分の顔が映ったのが見えた。

すんごい、美少女。

お人形か妖精のような容貌の女子生徒が、ほんのりとほほを赤らめて、俺を見上げていた。

「あっ、すみません…」

そう呟く声までかわいい。突然目の前に現れた天使に驚きすぎて、俺も倉持も、ボケッとあっけにとられたまま、彼女から目を離せずに突っ立っていた。
彼女は、ペコッ、と小さく会釈をして、俺の前から立ち去ろうとした。すると、クッ、と引っ張られる感じがあり、彼女も驚いて立ち止まった。見ると、彼女のふわふわの髪が俺のブレザーのボタンに絡まってしまっていた。
とっさに解こうとする反射反応が、彼女の髪に触れる緊張で打ち消されて、俺の手はためらったように空中に浮かんだ。

「す…すみません」

すると彼女が申し訳なさそうに、慌てて俺の胸元のボタンに触れて、髪をほどこうとした。しかしなかなかほどけず、周りの視線も集まってきて、彼女の顔が恥ずかしそうに赤く染まっていく。

「どうしよう…ハサミとか、持ってませんか」
「……え、あ、ハサミ?ハサミ…」

不意に彼女の瞳に見上げられて、俺は心臓がはねて、我に返って言葉を理解するのに一瞬遅れた。しかしハサミなんて気の利いたものは持ち合わせていない。倉持に目をやると、俺も持ってない、と言うようにブンブン頭を横に振った。

「あのー、ハサミありますよ。」

するとそこに、はきはきとした声が響いた。振り向くと、ショートカットの長身のさっぱりとした少女が、手にミニバサミを載せて差し出していた。上履きの色を見るに、彼女も新入生だ。

「あっ…ありがとうございます」

美少女が赤い顔でお礼を言い、ショートヘアの少女からハサミを受け取る。その刃が開き、美少女の髪に向けられた瞬間。
俺は、とっさに彼女の手を掴んでいた。

「えっ…?」

大きな瞳が俺を見上げた。
俺はとっさにつかんだ彼女の手が、信じられないほどなめらかで、すべすべで、壊れてしまいそうなほど華奢で小さいことに驚いて、すぐに手を離した。

「…貸して」

俺が言うと、彼女が俺の手にハサミを乗せた。俺はそのハサミで、ボタンの留め糸を一息に切り離した。

「え、あ、あの」
「ハサミ、どうも」

困惑する美少女を、気恥ずかしさから置いてきぼりにしたまま、ショートヘアの少女にハサミを返して、倉持に行くぞと一瞥を送った。まだ戸惑う倉持と連れ立って、俺は逃げるようにその場を後にした。
あの子の顔もよく確かめられないまま。
ボタンも置き去りにしたまま。

そうしないと、心臓の音があの子にバレてしまいそうで、怖かった。


「…すっげー可愛くなかったか!?今の子!!」

場を離れたとき、倉持がこらえきれない様子で俺を軽くどつきながら興奮した様子で言った。

「さあ」

俺は平静を装って窓のほうを見たけど、倉持はしつこくのぞき込んできた。

「…お前、顔真っ赤じゃねーか!ヒャハハ」
「うるさい」

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