006

「見ろよ、花城さんがいるぜ」

授業中、ヒソヒソと囁く声がした。見ると前の席の男子が二人、しきりに窓の外を覗いて楽しそうに盛り上がっている。俺も窓の外を見ると、グラウンドで体育の授業を受ける女子生徒たちが見えた。

その中に一際目立つ、手足が長くて小顔で、異次元にスタイルのいい女子がいる。色白なことも相まって、女子の中で際立って輝いているように見える。長い亜麻色の髪はひとつに束ねられ、花城が動くたびに軽やかに揺れて艶めく。

「やっぱ、めっちゃキレイだよな」

噂話をする男どもの声は茶化す色もなく、素直な感想だとわかる。

女子たちは走り高跳びをしていて、次が花城の番みたいだ。

ピッ、と短く笛が鳴り、花城が駆け出した。

そして、パッと羽でも生えているかのように翻る、彼女の華奢な体。柔らかく弧を描く肢体。揺れるふたつの膨らみ…。

マットに沈み、起き上がった花城が、不意にこっちを見た、気がした。

「…き…。…御幸!」
「!?はいっ!!」

急に教師の声が聞こえて、俺は反射的に椅子を跳ね除け、立ち上がった。床を叩き削るようなけたたましい音が響いた。

「よそ見するなよー。13ページから読めー。」
「スイマセン…」

恥ずかしい。
クラスメイトたちから笑われながら、俺は教科書を持ち上げた。




***



「たるんでんじゃねーのかあ?」

さっきの授業での出来事を、昼休みに購買へ向かう途中で倉持に揶揄われた。

「ちょっと寝不足で。」
「俺だって寝不足だわ、沢村のバカのいびきがうるさくてよー…」

言いかけた倉持が、はっとして廊下の窓に駆け寄った。

「おい!あれ見ろ!」

ただ事ではない様子に何事かと隣に並ぶと、窓の向こう…中庭に立つ、二人の男女の姿。
速水と、花城だった。

「なんで速水が花城さんと!?付き合ってんのか!?」

倉持の声が不快なほど耳の奥に響いて残った。

「違えよ、速水は好きだっつってたけど」
「…え!?じゃ…片思いってことか!?」

倉持は面白がるように野次馬し始める。
だけど俺はもうあと少しでも、速水に微笑む花城の顔を見るのは嫌だった。

「おい、行くぞ」
「あ!?え…ちょ!」

倉持を置いて歩き出すと、倉持は慌てて追いかけてきた。

「気にならねーのかよ?」
「別に」

つまんねえ奴だな、と倉持にどつかれた。
大した力じゃなかったのに、どつかれた右肩には、いつまでも嫌な感触が残った。

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