009
ブレザーのボタンを弄ぶ。ボタンはしっかりと濃紺の糸で縫い付けられている。
花城が縫い付けてくれたボタン…なんだか胸元がくすぐったい。
「おい御幸!」
と、その手元に影が落ちた。
「お前花城さんといつの間に仲良くなってんだよ!」
「別になってねーよ」
この間から倉持が鬱陶しい。
「じゃ、なんの礼だったんだよ」
「なんでもない」
「こないだも花城さんがお前のブレザー届けに来たし!」
「なんでもねーって」
「何か隠してるだろテメェ!」
面倒くせぇ…。
と思った瞬間それが顔に出てしまったのか、倉持の額にピキリと青筋が立った。
「面倒くさそうにしてんじゃねーぞデブ!調子に乗りやがって」
「ハッハッハ、よくわかったじゃん俺のキモチ笑」
「ぶっ殺すぞテメ…」
「御幸くーん」
倉持をあしらっていると、クラスメイトの女子グループが近づいてきて、倉持はウッと口をつぐんだ。
「何?」
だけど今度は別の嫌な予感を感じ取り、俺は無意識に素っ気なく尋ねた。こう、女子が集団で来た時は、ろくなことじゃねーんだ…大抵。
「あのさー」
「一年の花城光と付き合ってるの?」
「……。」
ほらな。
「いや全く。」
「あ…そうなんだー。」
面倒くさくておざなりに答えると、女子たちはアイコンタクトを取り合い、納得したように笑顔で立ち去って行った。
「ホントはどーなんだよ。」
女子が散らばった後で、倉持が声を顰めて俺を睨んだ。
「ホントだよ。なんでちょっと話してたくらいで付き合ってるだの言われるんだか…」
「そりゃお前、花城さんだからだろ」
…まあ、確かに。
この間まで俺も倉持も知らなかったが、入学式から日数も経ち、花城はもうすっかり学校中の有名人になっていた。あまりにも美人すぎるし、スタイルもモデルのようで、スカウトされてるなんて噂もある。
「あのボタンが引っかかった時が初対面だろ?あそこからどーやって知り合ったんだよ」
「うるせえなあ…」
「いい加減吐きやがれクソメガネ!抜け駆けしやがって!」
「抜け駆け?」
「み、御幸。」
…また俺を呼ぶ声。今度は誰だ、と顔を上げ、ぎくりとした。
「…速水」
「ちょっと話したいことが…いい?」
言いづらそうにそう誘う速水に連れられ、俺たちははるばる校舎裏までやってきた。随分と慎重だ。
まあ…話の内容は大体、察しはつくけど。
「急に悪いな。」
「別に…で、何?」
「わかってると思うけど…花城さんのことなんだけどさ」
…やっぱりな。という気持ちが顔に出てしまったのか、速水はちょっとすまなさそうに苦笑した。
「やっぱ、仲良いんだろ?」
「別に良くねーよ。あんま話したことないし」
「じゃ…この前ブレザー届けに来てたのは?」
「……。」
ま…変な誤解されるよりは、本当のことを話してもいいか。
「この前花城とぶつかって…花城の髪が絡まって取れなかったから、ボタン切って取ったんだよ。で、花城がお詫びにってボタンつけてきてくれたわけ」
そんだけ。と、なるべく意識しているような態度を取らないよう気をつけて話すと、速水は少し悔しそうな顔をした。
「…そうなんだ」
それから少し沈黙が流れる。
「…もういい?俺戻るけど」
「あ、いや待って」
まだ何かあるのかよ…。
「じゃあ…御幸は花城さんのこと、なんとも思ってないってことで…いいんだよね?」
「当たり前だろ。」
考えないうちに、反射的にそう返事をした自分がいた。はっとしたときには、速水はすでに安堵の笑みを浮かべていた。
「じゃあ…俺に協力してくれない?花城さんと仲良いみたいだし」
「…だから仲良くねーって。必要ねーだろ、お前モテるんだから」
速水はまた苦笑して、いや、と遠慮するように首を振った。
「…わかった、じゃ、ありがとう。」
…何がありがとうなんだか。
良くわからないまま俺は相槌を打って、さっさと教室に向かった。
花城が縫い付けてくれたボタン…なんだか胸元がくすぐったい。
「おい御幸!」
と、その手元に影が落ちた。
「お前花城さんといつの間に仲良くなってんだよ!」
「別になってねーよ」
この間から倉持が鬱陶しい。
「じゃ、なんの礼だったんだよ」
「なんでもない」
「こないだも花城さんがお前のブレザー届けに来たし!」
「なんでもねーって」
「何か隠してるだろテメェ!」
面倒くせぇ…。
と思った瞬間それが顔に出てしまったのか、倉持の額にピキリと青筋が立った。
「面倒くさそうにしてんじゃねーぞデブ!調子に乗りやがって」
「ハッハッハ、よくわかったじゃん俺のキモチ笑」
「ぶっ殺すぞテメ…」
「御幸くーん」
倉持をあしらっていると、クラスメイトの女子グループが近づいてきて、倉持はウッと口をつぐんだ。
「何?」
だけど今度は別の嫌な予感を感じ取り、俺は無意識に素っ気なく尋ねた。こう、女子が集団で来た時は、ろくなことじゃねーんだ…大抵。
「あのさー」
「一年の花城光と付き合ってるの?」
「……。」
ほらな。
「いや全く。」
「あ…そうなんだー。」
面倒くさくておざなりに答えると、女子たちはアイコンタクトを取り合い、納得したように笑顔で立ち去って行った。
「ホントはどーなんだよ。」
女子が散らばった後で、倉持が声を顰めて俺を睨んだ。
「ホントだよ。なんでちょっと話してたくらいで付き合ってるだの言われるんだか…」
「そりゃお前、花城さんだからだろ」
…まあ、確かに。
この間まで俺も倉持も知らなかったが、入学式から日数も経ち、花城はもうすっかり学校中の有名人になっていた。あまりにも美人すぎるし、スタイルもモデルのようで、スカウトされてるなんて噂もある。
「あのボタンが引っかかった時が初対面だろ?あそこからどーやって知り合ったんだよ」
「うるせえなあ…」
「いい加減吐きやがれクソメガネ!抜け駆けしやがって!」
「抜け駆け?」
「み、御幸。」
…また俺を呼ぶ声。今度は誰だ、と顔を上げ、ぎくりとした。
「…速水」
「ちょっと話したいことが…いい?」
言いづらそうにそう誘う速水に連れられ、俺たちははるばる校舎裏までやってきた。随分と慎重だ。
まあ…話の内容は大体、察しはつくけど。
「急に悪いな。」
「別に…で、何?」
「わかってると思うけど…花城さんのことなんだけどさ」
…やっぱりな。という気持ちが顔に出てしまったのか、速水はちょっとすまなさそうに苦笑した。
「やっぱ、仲良いんだろ?」
「別に良くねーよ。あんま話したことないし」
「じゃ…この前ブレザー届けに来てたのは?」
「……。」
ま…変な誤解されるよりは、本当のことを話してもいいか。
「この前花城とぶつかって…花城の髪が絡まって取れなかったから、ボタン切って取ったんだよ。で、花城がお詫びにってボタンつけてきてくれたわけ」
そんだけ。と、なるべく意識しているような態度を取らないよう気をつけて話すと、速水は少し悔しそうな顔をした。
「…そうなんだ」
それから少し沈黙が流れる。
「…もういい?俺戻るけど」
「あ、いや待って」
まだ何かあるのかよ…。
「じゃあ…御幸は花城さんのこと、なんとも思ってないってことで…いいんだよね?」
「当たり前だろ。」
考えないうちに、反射的にそう返事をした自分がいた。はっとしたときには、速水はすでに安堵の笑みを浮かべていた。
「じゃあ…俺に協力してくれない?花城さんと仲良いみたいだし」
「…だから仲良くねーって。必要ねーだろ、お前モテるんだから」
速水はまた苦笑して、いや、と遠慮するように首を振った。
「…わかった、じゃ、ありがとう。」
…何がありがとうなんだか。
良くわからないまま俺は相槌を打って、さっさと教室に向かった。