005
「ねえ、A組の人?」
トイレの帰り、教室に入るところで先輩に呼び止められた。さわやかな好青年だ。
「あ…はい、そうですけど…?」
「花城さん、呼んでくれる?」
どきりとした。花城さんを呼び出すって…そういうことだよな…?
「あ…はい…」
俺はうなずいて、緊張しながら教室に入った。
花城さんは自分の席にいて、鷹野と喋っている。俺が近づいていくと、いつもの調子で鷹野が笑顔で俺を見て、花城さんもつられるようにして、その大きくてきれいな瞳で俺を見上げた。
「花城さん、なんか…先輩が呼んでるよ。」
「え!?誰、誰!?」
廊下を指さして言うと、花城さんは驚いて廊下を見て、鷹野も興味津々に身を乗り出してきた。教室の入り口あたりには、さっきの先輩が立っていて、花城さんと目が合うとちょっと緊張した面持ちで会釈をしながら片手をあげた。
「えっ、イケメンじゃん!光知ってる人?」
「いや、知らない…。」
「告白じゃない!?早く行きなって!」
「え…、えー?…うぅ…」
花城さんはぎこちなく、助けを求めるような顔で鷹野を見上げたが、鷹野は面白そうに囃し立てるだけだった。そして花城さんは決意したように、というか、観念したように、席を立っておずおずと廊下に出て行った。
先輩は花城さんが近づいていくと、はにかんだ顔で何か言い、二人は連れ立って歩いて行った。
「…東条君!あと尾けよう!」
「…え!?鷹野、それはまずくない?」
「だって気になるじゃん!」
そりゃ…気にならないといえばうそになる。迷う俺を、鷹野がほらほらと急き立てて、だめだとは思いながらも二人の後を追いかけた。
二人は人気のない渡り廊下の中庭に出ると、桜の木の下で先輩が花城さんを振り返って、向かい合って立った。俺と鷹野は廊下の窓が開いている壁際にしゃがみ、耳を澄ませた。鷹野なんて探偵気取りでノリノリだ。
「いきなり、ごめんね。」
先輩が切り出した。いえ、と小さい声がして、首を振ってうつむく内気な花城さんが浮かんだ。
「えっと…俺は…2年の速水優っていいます。実は入学式の日に、花城さんのこと見かけて…」
「……。」
「それで…。……。」
少し沈黙が流れた。鷹野は目をキラキラさせ、期待に満ちた様子で俺を見た。
「…単刀直入に言うと。」
突然、決意したようにはっきりと先輩の声がした。
「入学式で、一目惚れしました!まずは友達からでいいんで、よろしくお願いします!」
しん…、と、再び静寂が下りる。だけど、鷹野が興奮しきった様子で俺を何度も叩いてくるから、まったく落ち着かない。それに俺自身、さっきから、自分のことのように心臓がうるさかった。
「え…っと…。」
困惑した様子の花城さんの声。
「ごめん、困るよな。」
「……。」
「まずは…とりあえず、俺のことを知ってほしいなって…。」
「……。」
「だからその…、そうだな…。…ま、またこうやって、二人で話したり…できる?」
ややあって、花城さんがうなずいたのだろうか。先輩の明るい笑い声が響いた。
「ありがとう。じゃ…また会いに来ます!」
そう言うと、足音がひとつ、遠ざかっていった。
やばい、やばい、と鷹野が押し殺した声で騒ぐのを何とかなだめていると、突然横のドアが開いた。
「あ…。」
驚いた花城さんの目が、スッと細められる。
「…二人とも…聞いてたの?」
「ごめん〜!!ごめん光!!許して!!好奇心に勝てずに〜!!」
「ご、ごめん花城さん!!」
まったくもう、と花城さんはあきれた様子でため息をついた。
「それより…ね〜!!どうすんの!!速水先輩カッコいいじゃん!!」
「どうもしないよ。」
「え〜!?あんな直球の告白してくれるイケメンを振るの〜!?あ…でもそっか!!御幸先輩がいるもんね…!?」
「な、なんでそうなるの!」
もうやめてよ!と、花城さんは真っ赤な顔で鷹野をこづいた。鷹野は楽しそうにけらけら笑って、そして俺はそんな二人を、どこか遠いところから見つめているような気になって、その胸のざわつきに、自分でも戸惑った。
トイレの帰り、教室に入るところで先輩に呼び止められた。さわやかな好青年だ。
「あ…はい、そうですけど…?」
「花城さん、呼んでくれる?」
どきりとした。花城さんを呼び出すって…そういうことだよな…?
「あ…はい…」
俺はうなずいて、緊張しながら教室に入った。
花城さんは自分の席にいて、鷹野と喋っている。俺が近づいていくと、いつもの調子で鷹野が笑顔で俺を見て、花城さんもつられるようにして、その大きくてきれいな瞳で俺を見上げた。
「花城さん、なんか…先輩が呼んでるよ。」
「え!?誰、誰!?」
廊下を指さして言うと、花城さんは驚いて廊下を見て、鷹野も興味津々に身を乗り出してきた。教室の入り口あたりには、さっきの先輩が立っていて、花城さんと目が合うとちょっと緊張した面持ちで会釈をしながら片手をあげた。
「えっ、イケメンじゃん!光知ってる人?」
「いや、知らない…。」
「告白じゃない!?早く行きなって!」
「え…、えー?…うぅ…」
花城さんはぎこちなく、助けを求めるような顔で鷹野を見上げたが、鷹野は面白そうに囃し立てるだけだった。そして花城さんは決意したように、というか、観念したように、席を立っておずおずと廊下に出て行った。
先輩は花城さんが近づいていくと、はにかんだ顔で何か言い、二人は連れ立って歩いて行った。
「…東条君!あと尾けよう!」
「…え!?鷹野、それはまずくない?」
「だって気になるじゃん!」
そりゃ…気にならないといえばうそになる。迷う俺を、鷹野がほらほらと急き立てて、だめだとは思いながらも二人の後を追いかけた。
二人は人気のない渡り廊下の中庭に出ると、桜の木の下で先輩が花城さんを振り返って、向かい合って立った。俺と鷹野は廊下の窓が開いている壁際にしゃがみ、耳を澄ませた。鷹野なんて探偵気取りでノリノリだ。
「いきなり、ごめんね。」
先輩が切り出した。いえ、と小さい声がして、首を振ってうつむく内気な花城さんが浮かんだ。
「えっと…俺は…2年の速水優っていいます。実は入学式の日に、花城さんのこと見かけて…」
「……。」
「それで…。……。」
少し沈黙が流れた。鷹野は目をキラキラさせ、期待に満ちた様子で俺を見た。
「…単刀直入に言うと。」
突然、決意したようにはっきりと先輩の声がした。
「入学式で、一目惚れしました!まずは友達からでいいんで、よろしくお願いします!」
しん…、と、再び静寂が下りる。だけど、鷹野が興奮しきった様子で俺を何度も叩いてくるから、まったく落ち着かない。それに俺自身、さっきから、自分のことのように心臓がうるさかった。
「え…っと…。」
困惑した様子の花城さんの声。
「ごめん、困るよな。」
「……。」
「まずは…とりあえず、俺のことを知ってほしいなって…。」
「……。」
「だからその…、そうだな…。…ま、またこうやって、二人で話したり…できる?」
ややあって、花城さんがうなずいたのだろうか。先輩の明るい笑い声が響いた。
「ありがとう。じゃ…また会いに来ます!」
そう言うと、足音がひとつ、遠ざかっていった。
やばい、やばい、と鷹野が押し殺した声で騒ぐのを何とかなだめていると、突然横のドアが開いた。
「あ…。」
驚いた花城さんの目が、スッと細められる。
「…二人とも…聞いてたの?」
「ごめん〜!!ごめん光!!許して!!好奇心に勝てずに〜!!」
「ご、ごめん花城さん!!」
まったくもう、と花城さんはあきれた様子でため息をついた。
「それより…ね〜!!どうすんの!!速水先輩カッコいいじゃん!!」
「どうもしないよ。」
「え〜!?あんな直球の告白してくれるイケメンを振るの〜!?あ…でもそっか!!御幸先輩がいるもんね…!?」
「な、なんでそうなるの!」
もうやめてよ!と、花城さんは真っ赤な顔で鷹野をこづいた。鷹野は楽しそうにけらけら笑って、そして俺はそんな二人を、どこか遠いところから見つめているような気になって、その胸のざわつきに、自分でも戸惑った。