001 - プロローグ


こんな夢を見た。

私は大きな門の前に立っている。白い扉は糸ほどの隙間もなく閉ざされていて、扉の前には広い道がまっすぐ伸びており、その両側に等間隔で白く高く柱が聳えている。その柱が並ぶ道がどこへ続いているのか、私は確かめたことがない。というのも、私がその扉を開こうとして、手を触れる直前で、いつも夢は終わるのだ。

今私はその扉の前に立っている。いつものように手を伸ばそうとして、やめた。それでは意味がないことをもう知っている。これがただの夢であることも。それでも私は、どうしても、この扉を開け、門をくぐりたかった。この扉の向こうに何があるのかも知らないのに。
後ろを振り返ると、いつもと同じ、柱が並ぶ道が延々と続いている。先の方は闇にまぎれて見えなくなる。私はいつも、この道を引き返してみようとは思わない――そう、この道は進むのではない。引き返す道だ。私はこの暗い途方もない道をたどって、この門まで辿り着いたのだ。突然その事を思い出した。初めてこの夢に進展があったのだ。私は少しの期待を抱いて、また門を見上げた。
ふと、この扉は簡単に開くんじゃないかと思った。扉がひとりでに、ギィ、と音をたてて開く想像が、簡単に浮かんだ。そう、この扉の鍵さえ――

――鍵?そういえば、鍵なんてかかっていただろうか。扉を改めて見てみると、両開きの扉のちょうど真ん中に、銀色の繊細な美しい細工模様のある錠が浮かび上がった。そうか、鍵がかかっていたから、開かないんだ。そう納得すると、扉はますます簡単に開く物のように思えた。
私はじっと錠を見つめ、その鍵穴の中の小宇宙を想像した。無数の星のようなピンが、チカ、チカ、と明滅するような音をたて、外れていく。その先に、扉の向こうの景色を思い浮かべた。なぜだか、どこまでも続く大海原が頭の中に広がった。
その瞬間、キィ、と軽い音がして、私は目を開いた。扉は少しだけ開いていた。その隙間から、白い光が漏れている。私は歩み出した。手を扉に伸ばすと、触れる前に風に吹かれたように扉はスイッと押され、大きく開いた。
眼前には真っ青な海が広がった。やっぱり、と心のどこかで安堵して、澄み切った湧水のように感情が高ぶるのを感じた。

ここから始まる。この広い世界へ。

これはもう、夢ではなかった。



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