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「はーなちゃん♡」
廊下で見かけた花城に手を振る。花城はぎこちなくも、最近は笑ってくれるようになってきた。
「あ…どうも」
「はっはっは!相変わらずの塩対応」
花城の隣にいる友達が、「花ちゃんって呼ばれてんの?」とからかうように言って、花城はちょっと赤い顔ではにかんで困ったように友達に首を傾げ、俺に会釈をして通り過ぎようとする。
「どこ行くの?俺もついてっちゃおうかな〜なんつって…」
「いい加減にしろクソ眼鏡!花城さんたち困ってんだろーが!」
倉持が飛んできて俺にタイキックをくらわすと、花城はびっくりして肩を竦める。
「こいつのことは気にせず行ってください!すいませんねいつもコイツがご迷惑をかけて」
「オメーのこと怖がってんぜ…ププッ」
「ああ!?う…うるせーなデブ!!」
花城とその友達は俺たちを振り返りながら廊下を歩いて行ってしまう。
「本当モテるね光〜。この前も別の先輩に…」
「ちょ…やめてよ」
…なぬ?
聞き捨てならない会話が聞こえた気がしたが、二人はあっという間に廊下の彼方へ行ってしまった。
「何かたまってんだ?クソ眼鏡」
「いや…」
***
「御幸。」
俺に声を掛けてきたのは、サッカー部の速水。同じクラスで席も近い。けど、別に特別仲がいいわけではない。
「悪いんだけどここなんて書いてあった?書く前に消されちゃってさ」
「あー、ほい」
「さんきゅー」
ノートを見せてやると、速水は嬉しそうに書き写した。
「高田、消すの早いよなぁ」
速水は手を動かしながら雑談を始めた。
「早口だしな」
「そーそー。ほぼ何言ってるかわかんねーわ」
ははは、とたわいのない話で笑う。速水は誰にでも気さくなタイプだ。
「できた。さんきゅー」
速水はもう一度礼を言ってノートを閉じた。おう、と頷いて、俺もノートを仕舞った。だけど速水は俺の前の席に座ってこちらに体を向けたまま、退こうとしなかった。
「…そういや御幸ってさ」
「ん?」
速水が何かを言いかけた時。
「よ〜〜〜っすイケメンツートップ!」
倉持が間に割り込んできて、速水は言葉を濁した。
「は?何?」
「女子が見てるぜ〜」
倉持はイライラした様子で廊下を指さす。確かに1年の女子が何人か教室の中を覗いて…俺たちの方を見てキャーキャー言っていた。速水と俺は気まずい苦笑を見合わせた。
「サッカー部の速水か、野球部の御幸か、って言われてるもんなー。」
傍に居た別のクラスメイトが冷やかすように言ってくる。確かに速水がモテることは知ってたし、俺も何度か告られたり、知らない女子にキャーキャー騒がれたりしている自覚があったから、ただ顔を引きつらせることしかできなかった。
「ちょっと倉持邪魔!!」
「んだと!?」
「どいてよ!せっかくイケメンが並んでて眼福なんだから!」
「……。」
倉持は舌打ちをして俺たちから少し離れた。
「…で…何?」
「え?」
「さっき何か言いかけてなかった?」
改めて速水に尋ねると、速水は、ああ、と目を丸くした後で、人懐こい笑顔で笑った。
「いや、やっぱなんでもねーや」
「…?」
速水は席を立ち、じゃ、と短く言って、もうひとつ前の自分の席に戻った。
なんか改まった感じだったと思ったけど…何だったんだ?
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