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「丹波の調子はどうだ?」
「そうですね…」
廊下で哲さんと話していると、ふと哲さんが何かに気が付いたように視線を止めた。つられてその視線の先を見ると、少し戸惑った顔で哲さんを見上げる、通りすがりの花城の姿。
哲さんの手前、いつものようにふざけて声をかけることもできず、同時に二人が知り合いなのかと戸惑う気持ちで言葉に詰まり、俺は二人の様子を黙って見守った。
花城は通りすがる直前に、うつむくような会釈をして足早に通り過ぎた。哲さんはかすかに頷くような素振りをして、去っていく花城を見送る。
「…知合いですか?」
俺が尋ねると、哲さんは少しぎこちなく微笑んだ。
「知り合いというほどじゃないが…家が近所なんだ」
「え…」
さっきの様子を見るに、花城のほうも哲さんのことは知っていそうだった。親しいわけじゃないんだろうけど…
「そうなんですか…」
ちょっと…妬ける。
「で…丹波の調子は」
「あ、はい」
***
「おっ、お姫様〜♡」
「……。」
廊下で花城とその友達を見かけ、俺は花城にそう声をかけた。花城は疑問に満ちた目で俺の顔を見つめ返してきて、その澄んだ瞳に俺は顔が熱くなってくるのをごまかすようにヘラヘラと笑う。
「いや光のことでしょ」
「え?」
不思議そうにそのまま友達の顔を見つめた花城は、友達からそう突っ込みを受けた。俺はつい小さく噴き出した。
そんな俺を、花城は今度は眉根を寄せた困惑顔で見上げる。
「皆そう呼んでんじゃん。花城のこと」
「皆?え?」
「えー光気づいてなかったの!?」
「え…」
「光のあだ名だよ!姫って!」
「え…!?」
友達の言葉を受けて花城は赤くなったり青くなったりした。こーんな美人なのに…案外気が小さいらしい。
「じょ…冗談?でしょ…?」
「ホントだって!誰が言い出したか知らないけど。もう学校中皆言ってるよ!」
「み、皆って誰…」
「皆だって!光有名人だよ?知らないの?」
「は…!?なんで…?」
「かわいーからに決まってんじゃん!」
「はあ…?」
「ブッ…くくく」
花城は超美人で学校中で有名。俺のクラスでもいつも男たちが花城の噂で持ち切りだし…だけど本人にはその自覚が全くなかったらしい。
「お前ニブすぎだろ!はっはっは!」
「…!」
ついついこらえきれずに笑いだすと、花城は真っ赤な顔で俺をにらんできた。
「まーいいやそれよりさ…花城って哲さんと知り合いなの?」
「てつ…?」
「結城哲也。3年の。」
なーんて…興味あるにはあるけど、それよりももっと花城と話すことが本来の目的。そんな俺の下心になんて気づいていない様子で、花城は大真面目な顔で考え込む。
「あ〜…知り合い…っていうか…」
「家が近所なんだって?」
「あ…はい。話したことはほとんどないですけど…」
哲さんが言ってたことは本当らしい。まあ、疑ってもなかったけど。あの二人の様子を見るに、顔見知り程度なことは察していたし。
「へえ〜」
だけど花城と話して、花城と知り合うことが大事。どうでもよさそうなことに深々とうなずく俺を、花城はちょっと不思議そうに見上げた。その時、その目がふと俺の後ろに視線をやったことに気が付いた。その直後、俺の肩に軽く温かい手が触れた。
「…御幸!何してんの、こんなとこで」
振り向くと俺に声をかけてきたのは、同じクラスの速水だった。だけど…俺と速水は別に親しいわけでもなければ、今までこんな風に廊下で会っても言葉を交わすことなんてなかった。でも俺の頭に疑問が過ったのは一瞬で、速水の視線が動いた先を見て、俺はすべてを察した。
「花城さん、…ちは」
照れくさそうに花城に挨拶をする速水。少し頬を染めて会釈を返す花城。…速水、花城目当てで俺に声かけたな?
「え、御幸…仲いいの?」
速水も少し赤い顔で、俺と花城の顔を見比べて尋ねてくる。花城は気まずそうに視線をそらし、花城の友達は面白そうに顔をにやけさせて一部始終を見守っている。
「
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