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「東条〜、数学の課題やった?」
入学式から一週間。まだぎこちない空気のクラスだけど、俺は席の近い男子数人と少し話す仲になっていた。
「やったよ。」
「お、答え合わせしよーぜ」
「うん」
2人で俺の席にノートを広げて照らし合わせていると、クラスがにわかに静まり返る。つられて顔を上げると、教室に入ってくる1人の女子生徒の姿に一瞬で目を惹かれた。
花城光さん。
同じクラスの女子だ。
「なあ…」
俺の横の友達が嬉しそうな顔で目配せしてくる。
花城さんは入学式からすぐにクラスの有名人になった。それはなぜかというと…
「やべえ、やっぱめちゃくちゃカワイイな」
…そう、人並外れた美貌のせいだ。
入学式の日、クラスに花城さんが入ってきた瞬間は騒然とした。明らかに異彩を放つ美貌とスタイル。同じ人間とは思えない神々しいまでの美しさに、クラスの男子達は一瞬で虜になったであろう。
花城さんはクラス中の視線を受けながら歩いてくる。そう、花城さんの席は…俺の隣なのだ。
ガタン、と椅子を引き、荷物を机の中にしまう花城さん。隣にきただけで、甘い花のような良い香りがする。
俺は友達と顔を見合わせて、ノートに視線を落とした。
「え…っと、問一は?」
「あ、おう、同じ答え…」
俺たちが取り繕う横で荷物を片付けた花城さんのもとに、もう1人女子がやってきた。
「花城さんおはよー!ねえ、一緒にジュース買いに行こう?」
花城さんに話しかけてきたのは、快活で社交的で早くもクラスの中心的な存在である、鷹野司さん。
「うん。」
花城さんは頷き、鞄から財布を取り出して鷹野さんと教室を出て行った。
俺は緊張が解けたようについ笑って友達と顔を見合わせる。友達も同じような顔で俺を見ていた。
「なんか近くに来ると緊張するわー」
「ははは…」
「東条、よく隣の席で平気だな」
平気…というか。緊張はするけど、嬉しいのも事実だ。俺は曖昧に笑って流した。
***
「東条ー、行こうぜ」
放課後になり、信二が俺を呼びにきてくれた。
「あ、うん!待って!」
慌てて返事をして荷物をスポーツバッグに詰め込む。慌てるなよ、と落ち着いて廊下から声をかけてくれる信二。
俺はバッグを引っ掴み、急いで廊下に出た。
「東条またなー!」
「また明日!」
声を変えてくれるクラスメイトに挨拶を返し、よそ見をしたその瞬間だった。
「きゃっ」
ポスッ、と柔らかいものが俺の胸元にぶつかった。同時に、甘い香りが鼻を掠める。
…きゃっ?
その可愛らしい悲鳴に慌てて前を見ると、目の前に花城さんの顔があって俺は心臓が止まった。
「…ごめん。」
花城さんは少し顔を赤くしてそう言った。
…え!?あ、今俺に話しかけたの…か!?
「あ、いやっ、え、う、うん」
「…?」
動揺のあまり混乱して何も言葉にならない俺を少しだけ訝しそうに見上げ、花城さんは教室に入って行った。
…顔が熱い…。
「い、行こ!」
「あ、おう…」
信二の顔も見れないまま廊下を歩く。
「…ぶふっ、お前、なんだよさっきの…」
追いついてきた信二が、堪えきれない様子で噴き出した。
「いや!び、びっくりして」
「わかるけどよ…ぶっ、顔真っ赤…」
「や、やめろよ…!」
いつまでも胸元に残る、柔らかな感触。そしてあの、甘い香り…。
「東条でもあんな動揺することあるんだな」
「もう勘弁してくれって!」
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