読み切り短編集

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「おい!今の子すっげえ可愛くなかった!?」

階段を登り始めると、倉持が堪えきれぬ様子で言った。興奮している。

「あー、うん」
「なにスカしてやがる!固まってたくせに」
「お前こそ…」

さっき、自販機にジュースを買いに行ったらこの間渡り廊下で会ったあの子がいて驚いた。向こうは覚えてないだろうけど…。やっぱ、すげえ美人…。
そして俺、あの子を前にするとなんで動けなくなるんだ。

「あの子1年だよな!?」
「そーなんじゃない?」
「んだよノリ悪いな!」

なんていうか…あの子の存在を倉持に知られたことを、面白く思ってない自分がいる…。まだ名前すら知らないのに。

「もしやゲーノー人か?」
「知らねえよ」

「おい今下の自販機に姫いるってよ!」
「まじ!?見にいこうぜ」

ドタバタと慌ただしく階段を降りてきた2年の男達が、俺たちの横を駆け抜けていく。

…姫?

俺と倉持が顔を見合わせて階下を見ると、男達は階段の下で固まって立ち止まり、さっきの女子生徒を遠巻きに見つめていた。
あの子…姫なんて呼ばれてんのか。まあ、イメージぴったりだけど…すげえ人気なんだな…。
…あれだけ可愛ければ当然か。

「あー、行っちゃった」

姫とその友達が教室の方へ歩いていくのを見て、男達は名残惜しそうに解散する。こりゃ…思った以上に競争率高えな…。

…って、競争率ってなんだ。
何考えてんだ、俺。


***


「あっ!御幸先輩だ!」

廊下で倉持と話しているとそんな声がして、俺はうっかり振り向かないよう顔を引き締めた。

「誰?」
「知らないの!?有名だよ!野球部でプロにも注目されてる人!」
「へー!」
「野球雑誌にインタビューとか載ってるよ。しかもさ、イケメンじゃない?」

「…やっぱテメーむかつくわ」
「はっはっは…」

こうして騒がれるのは珍しいことではない。天才だとかイケメンだとか、外野は好き勝手言っている。ちょっとインタビュー受けただけで、寄ってくる奴もたくさんいる。

「確かに〜。」
「ね、やばいよね!イケメンでしかも、将来はプロ野球選手かもよー?」
「モテるだろうね〜」

…流石にそろそろ居た堪れない。

「俺先に戻るわ…」
「あ!?逃げんじゃねえ」

倉持もついてくるらしい。踵を返し、教室に向かおうとして…ドキッとした。

俺の噂をする女子生徒の向こうに、あの子の姿を見つけた。
目が合って、時が止まったように体が動かない。だけどすぐにその目は逸らされて、その子は足早に歩いて行った。

「おい、どうした?」
「あ、いや…なんでも」

俺を見てた…?
いや、まさかな…。

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