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「はいじゃあプリント配りまーす」
ホームルームで担任が連絡事項のプリントを配る。プリントは前列の生徒に1束ずつ渡され、それを一枚とって後ろの人に回していくスタイル。
「はい。」
「ありがとう。」
俺の前の席の鷹野さんは誰に対しても気さくに接してくれる。俺はプリントを受け取ると一枚とって最後列の後ろの席に回した。
その時隣の花城さんがプリントを受け取り、一瞬固まったことに気づいた。
あ…もしかして、枚数が足りない?
花城さんは少し考えて、その一枚を後ろの席の子に回した。それから手を挙げかけて…
「全員回ったなー?説明するから聞けよー。」
…担任のよく通る声が花城さんの行動を遮った。花城さんは迷うように手を下ろし、困った様子で俯く。
俺は思い切って、自分のプリントを花城さんの机の上に置いた。
「え…」
「先生!一枚足りないです」
声ならば俺も野球部で鍛えられている。俺の声に言葉を遮られた担任は、すまんすまん、と一枚俺の席の列に追加で配ってくれた。
「ごめん足りなかったの気づかなかった!」
「あ、いやいや!平気平気。」
鷹野さんが申し訳なさそうに言ってプリントを回してくれた。本当にいい奴だ。
俺は安堵と共に今更急に恥ずかしくなって、花城さんの方を向けなかった。
「…以上でホームルーム終わり!まっすぐ帰れよー。」
「せんせーさよーならー」
ホームルームが終わり、クラスメイトは次々に席を立つ。俄に騒がしくなった教室で、俺も荷物をまとめ始めたところ、ふわりと甘い香りがした。
「と…東条くん」
え…まさか。
「さっき…ありがとう。」
顔をあげると、俺の隣に花城さんが立っていた。少し赤い顔で、ぎこちなく。
俺は一気に顔が熱くなり、狼狽える心臓を必死に落ち着かせた。
「えっ…、いいやいや、全然!」
「……。」
慌てた俺に花城さんが少し口元に笑みを浮かべたように見えた時。
「東条ー!…って、あ…」
俺を呼びに教室の前にきた信二が、俺と花城さんと話してるのを見て驚き、言葉に詰まった。
「い、今行く!」
俺は咄嗟にそう返し、花城さんを見た。
「…じ、じゃあ。」
花城さんは呆気にとられたような顔で小さく頷く。俺にはこれが精一杯。…まだ、今は。
「…何話してたんだよ!?」
「だ、大したことじゃないよ。」
「このヤロウ!」
信二に揶揄われながら、俺は高揚する鼓動を感じていた。
***
「お…おはよう」
翌朝。教室にいた花城さんに思い切って声をかけると、驚いたような視線が返ってきた。
「おは…よう」
戸惑い気味の返事が返ってきて、少しの後悔と、それでも胸に広がる熱いムズムズとしたものが込み上げた。
「えー!なになにぃ?」
席にいた鷹野が面白がるようにニヤニヤして俺を見る。
「な、なにが?」
「べっつに〜?」
鷹野は散々揶揄うような視線を俺に向けた後、いつも通り花城さんの席に近寄った。
「ジュース買い行こー。」
「うん。」
花城さんも立ち上がり、鷹野さんについていく。その姿を何となく目で追っていると、不意に花城さんが少し振り向いた。
その瞬間、花城さんの口元に少しの笑みを見つけた。
一気に込み上げる高揚感。
昨日のことで、少し仲良くなれたような…。そんな気がして、俺はどうしようもなく嬉しかった。
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