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朝練を終え、校舎に向かって歩いていく。
少し前を歩く東条と金丸…松方コンビを眺める。あいつらいつも一緒…本当仲良いな。
「あいつらいつも一緒だよな。本当仲良いな〜」
隣を歩く倉持が俺の心の声と同じことを言うもんだから、なんとなく気味悪さを感じて舌を噛む。
「なんだよウゼエ顔して」
「別に…」
倉持をあしらいつつ、前方を歩く東条の様子の異変に気がついた。チラチラと横を向いて向こうのほうを気にして歩いている。金丸は気づいたようで、東条を揶揄うようにこづいた。なんなんだ、と東条の視線の先を見て…心臓が跳ねた。
…あの子だ。
姫、と呼ばれていたあの子が、1人で校門の方から歩いてくる。少し俯きがちに、周りの視線を浴びながら。
東条は迷うようにチラチラと彼女の方を気にしながら歩き、少し歩みを緩めた。
彼女は一定速度で歩いてきて、やがて東条たちに追いついた。
「…花城さん、おはよう!」
意を決したように、東条が声をかけた。…かけやがった。
彼女…花城と呼ばれた彼女は、驚いたように東条を振り向き、長い髪に隠れて少しだけ覗く口元に笑みを浮かべた。
「あ…東条くんおはよう。」
照れくさい、甘酸っぱい空気が2人を取り巻く。金丸は少し居心地が悪そうだ。
「いつもこの時間なの?」
「…今日はちょっと遅くなっちゃって。」
「そうなんだ…あ、俺は朝練で…」
「東〜〜〜条〜〜〜〜」
倉持が東条の背後に近づき、羽交締めにした。
「うわっ!?く、倉持先輩…」
「ヒャハハなんだなんだ〜彼女か〜?紹介してくれよ〜…、」
倉持は花城の顔を見て硬直した。相手があの子だと、今気づいたらしい。
「違いますよ!同じクラスで…」
硬直した倉持の腕から、真っ赤な顔の東条が弁明する。花城は気まずそうに視線を逸らしている。
「離してやれよ。」
俺も近づいて行って倉持を諌めると、花城がちらっと俺を見上げた。…目が合った。顔が熱くなるのを感じ、平静を装うために咄嗟に逸らす。
「ど…ども!…」
「……。」
取り繕った倉持の挨拶に、恥ずかしそうに会釈を返す花城。
「…ほら、行こうぜ。遅刻する」
「あ!?んだよテメ…」
このままじゃいられない。平静を保てない。俺は逃げるように倉持を急かしてその場を後にした。
「ったく、せっかく姫とお近づきになれるところだったのによぉ…」
「どこが?アガッてまともに話せてなかったぜ…プププ」
「ぶっ殺すぞクソ眼鏡!」
***
放課後の部活が始まり、レギュラー陣は各々調整を始める。まだボールにも触らせてもらえずグラウンドを走る一年たちを横目に、俺は少し顔を洗いにグラウンド外の水道へ向かった。
顔を洗ってさっぱりし、のんびり練習に戻ろうと踵を返したところ。思わずビクッと飛び上がりそうになった。
フェンスの向こう側…グラウンド外の歩道に花城が立っていて、じっと練習をする野球部員を見つめていたのだ。その横顔に見惚れ、そして…どこかその目が悲しそうだと思った。
「……。」
…どうしよう。声をかける絶好のチャンス…だけど。俺のこと覚えてないだろうし…。
いや…でも。こんなチャンス、きっともうないぞ…!
「…あの」
ザッ、と俺が足を踏み出して声をかけると、花城は驚いて目を丸くして振り返った。目が合って、花城の顔が赤くなる。俺の顔も…きっと赤いとわかるほど、顔が熱い。
「練習見るなら…」
「ご、ごめんなさい!」
声をかけた途端、花城は逃げるように踵を返してしまった。俺は慌てて口を開く。
「ちょっ…ストップ!ストップ!」
花城は足を踏みとどまり、恐る恐る俺を振り返った。
「全然、見てるのはいいんだけど、ソコたまにボールが飛んでくるから…あっちのがいいよ」
「あ…。」
花城はまた顔を赤くして、フェンスから離れた。
「すみません…でももう帰るので」
ペコ、とお辞儀をして、また歩き出そうとする花城。待ってくれ、もう少し…
「東条?」
「…え?」
花城は意表を突かれたように目を瞬いた。
「いや…仲良いんだろ?東条と。だから…東条見にきたのかなって」
まさか東条をダシに使うとは、俺も思ってなかったが…。すまん東条。
「…あ。いや違…。……。」
花城は言いかけて、困ったように黙り込んだ。本心か?それとも嘘か?判断がつかない。
「……。…花城…だっけ。」
「え…。」
俺を見上げた花城の、亜麻色の瞳が揺れる。
「はい…。」
知っていて聞いた。わざと。だって、きちんと知り合いたかったから。
「俺は…御幸。御幸一也」
「……。」
「下の名前…なんていうの」
俺今…どんな顔してるんだろ。
花城の赤い唇が、動く。
「…光…です」
大きな雲が動いて、隠していた陽の光が辺りを照らし出した。花城の白い肌が発光し、俺は目を細める。
やっぱ、天使みたいだ。
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