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「よ。」
廊下で見かけた花城に、思い切って声をかける。俺を見上げたまん丸の瞳を見つめ返すのは、まだ難しい。だから俺は平静を保つために、口元に笑みを貼り付ける。
「…こんにちは」
少し驚いた顔で挨拶を返す花城。
倉持は俺が花城に声をかけたことへの驚きと、花城の目の前だということの抑止力で、いつもの悪態が出せず固まっている。
「知り合い?」
花城の隣にいたショートカットの長身女子が興味津々に花城と俺を見た。
「御幸先輩…っていう…」
人…。と、花城が独特の紹介をすると、友達の目がぱっと輝いた。
「えっ!御幸先輩って、あの!?」
「…ん?」
「えっ、野球部の…有名な人ですよね!?」
「いや〜、はっはっは…それほどでも…」
どうやらこの子は俺を知っているらしい。スポーティーな見た目だし、野球にも興味があるんだろうか。
「あたしの兄貴、稲実で野球やってるんですよ!て言っても公式戦出たことないですけど…」
「あ…ああ、そうなんだ」
「よく御幸先輩のこと話してますよ!スゴい選手だって」
「ど…どうも」
この子…花城とは正反対だな。
「え〜こんなイケメンなんだ!」
「……。」
…恥ずかしい。
「チッ」
背後から倉持の殺気も感じるし…。
「なんで知り合いなの?」
「東条くんと話してた時に…」
「あ〜なるほど!」
友達はすぐに合点が行った様子で頷いて、ニヤニヤしながら俺と花城を交互に見た。
「ふう〜ん…」
俺…この子苦手かも…。
「じゃ…失礼します。ほら、行こ…」
「えー、もう?」
花城も居た堪れなかったようで、友達を引っ張って行ってしまった。まあでも…少しでもちゃんと話せたからいいか。
「おい…テメーに聞きてえことがある」
「…なに?」
ガシッ、と俺の肩を掴む倉持。…忘れてた。
「花城さんといつ知り合ったんだよ…!?」
「え?倉持もいたじゃん」
「あ…!?あの時!?嘘つけそんな距離感じゃなかっただろ!!吐け!!」
「え〜そんな仲良さそうに見えた?照れるぜ〜」
「ガアアアアうぜえ!!死ね!!」
***
「俺は絶対花城さんだな!!」
クラスメイトの男共が教室で盛り上がっている。俺はふと花城の名前が聞こえたことで、視線はスコアブックに落としたまま、しっかりと耳を澄ませた。
「あー花城さんな…」
「ダントツ美人だよな?冗談抜きで」
「花城さん見てると他の女がみんな同じに見えてくるわ」
「あんな可愛い子がクラスにいたらな〜」
「あんたらね〜…鏡見たら?」
話が聞こえたらしい女子達が反応し、両者は突然対立してしまった。
「そーよそーよ。人のこと言える顔なワケぇ?」
「な…図星だからって噛み付いてくんなよ」
「こっちのセリフ。大したことない男ほどそういうこと言うのよね〜」
「あ、わかる〜。」
「ほら!御幸君は絶対そういうこと言わないもん。」
ゲッ…。な、なんで急に俺を巻き込んでくるんだよ。
チラリと振り返ると、女子の1人が俺を指差し、他のみんなの視線が俺に突き刺さっていた。
気まずく黙り込んでいると、教室にひとりのクラスメイトが入ってきた。
速水俊。サッカー部のエースで社交的な、クラスの中心的人物。そしてその甘いマスクで、女子生徒からも大人気…。
「…どしたの?皆」
速水はキョトンとした顔で静まり返った教室を見回した。
「うちのクラスに可愛い子がいねーっつったら女子がキレたんだよ。」
男の1人がそう言うと女子が一斉にそいつを睨み、速水が苦笑した。
「それはお前らが悪いだろ。」
速水は憎めない爽やかな笑顔で言い、張り詰めた空気を中和した。誰にでもこうしてはっきりとモノを申しても空気が悪くならないのはこいつくらいなもので、だからこそ人望があるのだろう。
現に速水に諌められた男達も、誰も反発する事なく決まりが悪そうに黙った。
「ほら〜速水君もこう言ってるじゃん!」
「やっぱりイケメンは心もイケメンよね〜」
「うちのクラスの男子、御幸君と速水君だけでいいわ〜」
ははは、と笑いながら速水が俺を見る。俺は苦笑して視線を前に戻した。
…不機嫌そうな倉持と目が合った。
「…なんで俺も何も言ってねーのにテメーだけ株が上がるんだよ」
「知らねーよ…」
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