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「おっ、御幸〜!地方予選応援してるぜ〜!」
「甲子園行けよ〜!」
「あ〜、どーもどーも」
廊下を歩くとこうして声をかけられる事はたまにある。強豪校というだけあって、教師も生徒も野球部に関心を寄せてくれる人は多い。
「こないだインタビューされてたよな?テレビ見たぜ〜!」
「お〜…」
だけどアレコレ騒がれるのは得意ではない。俺は返事もそこそこに足早に廊下を歩いた。すると目の前に花城がいるのを見つけ、まるでオアシスを見つけたように胸に高揚感が広がった。
「おっ…やっほ〜」
ひらひら、手を振ると、花城は俺を見つめて目を瞬き、くるりと後ろを振り向いた。
「いやいや、花城!お前しかいねえだろ」
「え、あ、こんにちは」
花城はまた俺の方を向き、慌てたようにはにかんだ。
えー、マジ…?ちょっとは仲良くなれたと思ったんだけどな…。
「もしかして俺のこと覚えてない?」
「いえ!もちろん、覚えてます」
「じゃあなんで後ろ向いたんだよ」
「私に話しかけたんじゃないかもと思って…」
「なんでだよ!」
「……。」
花城は苦笑してごまかした。あんまり心開かれてないのかな、俺。まあ、そりゃまだ知り合ったばっかだけど。
「まあいいや…何してんの?こんなとこで」
ここは2年の教室が並ぶ廊下だ。特別教室もない棟だし、一年は滅多に歩く用事はない。
「飲み物を買いに…。今、下の自販機が故障してて」
「ああ、なるほど」
俺はストンと納得した。花城と会えたことだし、故障したという階下の自販機に感謝すらした。
「…じゃ、俺ついてっちゃおうかな〜」
ドックンドックン、脈打つ心臓を抑えながら余裕の笑顔を装って、お調子者を演じる。すると花城の目が丸くなった。
「え…?」
こ…、困惑してる…。
「あ…はい…」
…すげえ迷惑そうなんだけど…!!
花城が歩き出し、俺も言った手前やっぱやめるとも言えずに隣を歩く。廊下にいる生徒達がみんな振り返る。なんか、こんなやり方、ズルかったかもしれない。
「……。」
「……。」
このままじゃまずい。何か話さねえと…
「…こないださ。なんで野球部見に来てたの?」
「え…」
花城はにわかに顔を赤くした。
「その…」
「……?」
「…すごいなと、思って」
見た目通り、内気でおとなしい子らしい。だけど花城なりに頑張って素直に話してくれているのがわかって、すごく嬉しくなった。
「すごいってなにが?」
「え?ええと…」
掘り下げられると思わなかったらしい、花城はまた少し動揺して、だけど真剣に考え始めた。
「皆一生懸命で…」
その言葉に俺はまた嬉しくなって、顔が緩んだ。その時不意に花城が俺を見上げたモノだから、緩んだ顔を見られてしまって急に恥ずかしくなった。
花城はまた俯いて黙り込む。その横顔は少し赤い。
自動販売機のある広間に着いて、花城は俺から離れて自販機の前まで歩いて行き、アイスティーのペットボトルを買った。
「お!御幸〜!」
と、その時通りかかった同級生が俺に声をかけてきた。
「昨日発売の月刊高校野球に載ってたよな!?天才キャッチャー!」
「え?あ、あ〜…」
…そういや前にインタビュー受けたっけ。
「1ページ丸々載ってたじゃん!本当スゲェな、卒業したらプロになんの?」
「いや〜、はっはっは…」
「俺今のうちにサイン貰おうかな〜」
あ〜面倒臭え…!今は花城と一緒にいるのに…
そう思って自販機の方を見ると、花城は自販機の前で俺の方を伺って、遠慮したように会釈をして踵を返そうとした。
「あ、ちょっ…」
…呼び止める間もなく、花城は行ってしまった。
「何?御幸どした?」
「……。」
…ちくしょう。
***
「え!?まじで!?」
教室内で男子たちが騒いでいる。
「ねみい〜…昨日も遅くまで沢村が騒いでてよォ」
「ふーん」
俺はそいつらから少し離れた静かな窓辺の席に座り、倉持とどうでもいい話をしながらスコアブックに目を落とす。
「なに、なに?」
騒いでいる男子たちの輪に、興味を持ったほかの男子がやってきたようだ。
「岡田が花城さんにメアド聞いたって!」
ぴくり。
突然聞こえてきた花城の名前に、俺はつい耳を大きくした。
「まじ!?どうなった!?」
「いや〜、携帯持ってないって言われた」
「ええー!?」
…ほっ。
…て、何安心してんだ俺は。
「ごまかされたんじゃねえの〜?」
「んー嘘ついてる感じじゃなかったけどな…」
「今時携帯持ってないやつとかいる?」
…いるだろ。
少なくとも野球部には数人いる。
「まじかあ〜、花城さん携帯持ってねーのか〜」
野次馬の一人が放ったその声には落胆が混じっていて、あわよくば自分も花城の連絡先を知りたかった、という下心が伝わってくる。
なんつーか…
「ショックだわ〜」
「メールできねーのはきちいな〜」
「そうか?逆に他のやつともメールできないのはよくね?」
「あ、それはあるなあ」
花城って…やっぱモテるんだな。
「お前…百面相してるぞ」
「!」
気づけば倉持が俺の顔を見て笑いをこらえていて、俺は苦笑をして唇をかんだ。
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