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「花城さん、おはよう!」
最近、毎朝学校へ行くのが楽しい。
「東条君、おはよう」
花城さんのこの笑顔に会えるから…
「東条く〜ん、あたしはー?」
悦に浸っていたところに鷹野さんが現れてからかうように言われ、俺は顔が熱くなった。
「あっ、あはは、おはよう鷹野さん」
「おはよ〜」
鷹野さんはまだからかうような視線を残して、花城さんの席に近づく。
「1限なんだっけー?」
「公民だよ。」
「うわ〜眠くなる〜」
二人は連れ立って廊下へ出た。授業で使う資料集を取りに、廊下のロッカーへ行ったのだろう。俺も荷物を片付けて、ロッカーに置いてある資料集を取りに廊下へ出た。
「今日さあ放課後新宿行かない?」
「いいよ。」
廊下に出ると鷹野さんと花城さんが放課後遊ぶ約束をしていた。この二人はすっかり仲が良くていつも一緒にいるイメージだ。
「兄貴にさーあれ買って来いって言われてるんだよね。なんだっけあの…今人気の猫のキャラの」
「…?わかんない」
「…ノラ猫ギャング?」
つい話に加わると、鷹野さんと花城さんが目を丸くして俺を振り向いた。
「あ!そうそう、それ!え、東条君も好きなの?」
鷹野さんはぱっと明るい笑顔になって尋ねてくる。
「友達が好きで集めてるんだよ。」
「あーなるほど〜」
笑顔でうなずいた鷹野さんが、不意に俺の背後に視線を移して不思議そうに目を瞬く。
「よお東条、昨日はヘバってたけど復活したか?」
肩にずしりと乗った重たい体重。驚いて肩口を見ると、そこにいたのは野球部でもひときわ目立つ有名人で去年1年生にして正捕手になった、天才と謳われる御幸先輩がいた。
「えっ!?あ、御幸先輩!?」
正直御幸先輩のようなスゴい人が俺に絡んでくるとは思わず…この前も声をかけてきたけどあれは倉持先輩も一緒だったし、いったいどうして…と動揺したとき、御幸先輩の視線はすでに俺のほうを向いていないことに気が付いた。
「やっほ〜花ちゃん♡」
ひらひら、御幸先輩が手を振る先に居たのは、困惑顔の花城さん…。
…まさか御幸先輩、花城さんが目当て?
「…こ、こんにちは」
花城さんはぎこちなく挨拶をした。あまり親しくはなさそうだ。ということはやっぱり、御幸先輩の片思い…?
「花ちゃん、また練習見に来てよ。」
「は、はい」
「じゃ、まったね〜♡」
御幸先輩はあっさり俺を開放し、花城さんに手を振って踵を返した。少し離れたところに、俺と同じように呆気にとられて固まっている倉持先輩がいて、戻ってきた御幸先輩をどついて一緒に階段を上がっていった。
御幸先輩、まさか本当に花城さんのこと…。
「練習って?」
鷹野さんが不思議そうに花城さんに尋ねた。あ、それは俺も気になったところだ。
「…帰る途中に野球部のグラウンドがあるから…この前少し見てたら御幸先輩が来て、ちょっと…」
「えーなになに!?そういう感じー!?」
「…なにが?」
花城さんは少し顔を赤くして、やめてよ、と鷹野さんから身を躱す。
「だって今もわざわざ声かけてきたじゃん〜」
「いや…御幸先輩って気さくだし」
「そうかなあ〜」
御幸先輩が…気さく?
いつも飄々としていてマイペース、倉持先輩がいなければ一匹狼という感じで、あまり人付き合いに積極的なイメージはない。
「御幸先輩って気さくなの?」
鷹野さんが俺に尋ねてきて、花城さんの視線も俺に向けられる。
「気さく…うーん…」
「違うみたいよ」
「そんなこと…だっていつも、よく声かけてくるし」
よく…声をかけてくる…!?
これはもう、確定だ…。
「そうなのー?」
「うん…廊下で会うと、よく」
御幸先輩、花城さんのこと狙ってる…!?
***
「御幸ーこれでいいか?」
「あーうん、置いといて、あとで確認するから」
夜の食堂。今日も御幸先輩は部の中心人物…。皆一目置いているし、この人がいなきゃ成り立たないことも多い。
「白州、このあとノリとも調整したいから伝えといてくんない?」
「わかった、多分部屋にいるから呼んでくる」
「悪いな」
「御幸〜、これも頼む」
「あーはいはい」
忙しそうだ。畏怖とともに、うらやましい、とも思う。俺はまだここで…投手としてすら、いや選手としてすら、見られてない。
「すごいよな、御幸先輩」
ふいに、隣に座っていた信二が見透かしたように話しかけてきて、ちょっとぎくりとした。
「雲の上の人だよなー」
「あ…う、うん」
そう…御幸先輩はプロも注目する、関東でもトップの実力を持つ選手。正直俺は、名前を憶えられてることだけでも驚いた。
「おい御幸!いつになったら俺の球受けてくれんだよ!」
「今日は無理」
「昨日もそう言ったじゃんか!!」
「アイツは相変わらずバカだな」
「ははは…」
そんな御幸先輩に食らいついていく沢村。皆あいつをバカにしているけど、俺はちょっとうらやましい。正々堂々と、自分の投げる球に自信を持てるあいつが…。
「…東条も頼んでみれば?」
何か思ったのか、信二が急に気遣うようなことを言った。
「え!?いやいや、ムリだって」
俺は苦笑いをして首を振り、みそ汁を飲み干した。
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