開け放たれた第二体育館の鉄扉から聞こえる声が心拍数を上げる。今日何度目かわからない深呼吸をして、何とか緊張をやり過ごそうとしてもひとつも上手くいかない。3個下の後輩は全員顔なんて知らないし、制服を脱いだわたしには後輩ですらなくて、ぶっちゃけ普通にデカくて怖い。にもかかわらず、自分より大きい隣の金髪コーチにも生徒にも臆さず話す武田先生はやっぱりすごい。社会人ってすごい。

顧問もやってるんだけど、と前置きして、次いで一緒に来てみないかな?と提案された。
あまりの偶然に出来すぎてる気がしたけど、きっとまだ覚えてた先生が気を回してくれたのかもしれないし、武田先生自身が今のマネを気遣ってるのかもしれない。
そうして、わたし自身もやっぱり気になっていたからこうして体育館に着いてきてしまった。今日スーツだけど。
前に組んだ手を堅く握りしめて、中に入るタイミングを待った。

わたしは今ここで何がしたいんだろう。何が、出来るんだろう。

あの頃の後輩たちにちゃんと残せなかったことに対する少しの後ろめたさで、なんとなく一歩が踏み出せない。渡廊下に寄り掛かって、18時半からの練習試合の通告を聞いていれば、振り返った武田先生にこちらへ来いと手振りで示された。



***



「ーーーー烏野町内会チームだ」
「!!」
「だが、町内会って舐めてっと痛い目みるからな。じゃあ練習に戻れ」
「あ、烏養君。その前にもうひとつ良いですか?みんなにもまだちゃんと紹介していないんですが、本日から僕の下に教育実習に来ている方がいます。どうぞ、入ってください」

促されて、体育館の扉から出る。覚悟を決めて視線を上げてペコリと頭を下げれば、自己紹介をする前に名前を呼ばれた。

「#name#さん!」
「田中!先生つけろ!名前で呼ぶなっつの!」
「あっ」
「まだ、全然先生になれてないので、どちらでも大丈夫、です」
あからさまにホッとする三年生に笑い掛けた。

「#family#先生は君たちの3つ上で、烏野の卒業生です。当時はマネージャーだったそうですよ」
「た、武田先生!」
「隠すことではないのでは?」
「いや、あの、心の準備が」
「気負うことはありませんよ。ほらそれより、生徒達に一言お願いします」

そわそわとこちらを伺う泣き黒子くんに、目を見開く推定部長くん。期待した目で見てくる美女。ぽかんとした表情のおそらく一二年生を見やって、自然と笑みが溢れる。
懐かしい体育館、汗の匂い、全国への夢と期待。あの頃、過去にしなければいけないと泣く泣く置いていったものが、まだ、全部ここにある。
あのとき託せなかった後悔で死ぬかと思ってたけど、そんなことはないみたいだ。わたしはコートで未来は勝ち取れないけど、あのとき託せなかったものをあの子に渡せるチャンスならある。今やらずに、もう一度後悔なんてしたくない。

「やっぱり武田先生すごすぎ」
「え?」
「いえ。えっと、本日からお世話になっています教育実習の#family#です。元烏野高校バレー部マネージャーなので、こちらでもよろしくお願いします」
「清水!」
「「「しゃーす!」」」
「お願いします!」

(160314)



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