聖心女学院中高等部といえば、関東一円で知らないものはないほど、偏差値と家柄と顔面偏差値が高くて有名だった。なかでも、対男子高校生には聖心に彼女がいることは一種のステータスでもあった。ただそれだけで、ヒエラルキーの頂点が狙えるくらいには。

だからって、声掛けて助けたってワケじゃナイけどなァ。

あの後は、礼だの連絡先だのを話し出すから振り切って外周に戻ったから、聖心チャンがその後どーなったかは知らねェ。二周目のときにはチャリごと消えてたから、大方押してでも帰ったんだろ。あの手であの坂登んのはキビしい・・・

ハァ、と溜息が漏れた。バカかオレは。あんなの、同じチェレステカラーが珍しくてつい助けただけだっつの。そもそも名前も知らねェし、聖心なんて二度と関わることないだろ。あほらし。

ローラーでも回すか、とベンチから腰を上げたところで、勢い良く部室のドアが開いて東堂が入ってくる。オメー遅れといて堂々としてんなよ。

「荒北」
「アァ?」
「俺はやはりお前のことを誤解していたようだ。#name#から話は聞いた。見直したぞ荒北。見た目はアレだが性根は優しいのだな」
「ハァ?何言ってんだ。意味わかんねーよ。つか遅刻してんだよ遅刻。いくら委員会だっつっても、先輩らが引退して弛んでんじゃねェヨ副部長サン?」

こっちを指差す東堂の手を全力で叩き落とす。普通にディスってんなよ。美形の指が赤くなろうがオレの知ったこっちゃねェ。

無視して横を通り過ぎようとしたのに、東堂は話は終わってないとばかりに指を摩りながら口を開いた。

「わからなくはないだろう。三日前、外周の途中で聖心の制服を着たビアンキのミニベロに会ったはずだが」

疑問形でなく言い切った東堂に、思わず見られていたのかと舌打ちが出る。どーせガラにもねーことしたって嗤うんだろ、と顔を背ければ慌てたように否定の言葉が返ってきた。なんだってんだ、一体。

「#name#から聞いたと言っただろう。練習の時間を割いて助けてくれたそうではないか。礼が遅くなってすまなかった。なに、俺も昨日の夜に電話で聞いたばかりでな」
「アレ、オマエの彼女かよ」
「いや違う。まあ俺程の美形であれば聖心に恋人がいるのもありえない話ではないがな」
「は?」
「#name#は俺の双子の妹だ。兄として礼を言わせてくれ。ありがとう荒北」
「ハァ!?」

妹ってアレだろ。血が繋がってんだろ。この口を開けばナルシスト発言しかしないこのバカと。
開いた口が塞がらないとはこのことだ。目の前の東堂を頭の先から爪先まで見下ろしてから、三日前に出会った聖心チャンを思い出す。正直ボヤけてるけど問題ない。霞んでても断言できる。

「ウソつけ!全っ然似てねェヨ!」
「嘘ではないな!濡れ羽色の髪などこの東堂尽八に瓜二つだろう!!」
「日本人は大体髪色は黒なんだヨ!」
「まあ確かに、双子と言う割には似ていないが二卵性なのだから仕方ないだろう。それにこの美形が世界に二人もいたら困るというものだ」

高らかに笑う東堂の声をシャットアウトしながら考える。東堂と系統は違うが、サスガ聖心とばかりに見た目は整ってた。ガサツでもなかった。だけど、初対面だったこととオレの人相が良くないことを差し引いても、あの聖心チャンはどうみてもナルシストじゃないし、むしろ目立つのは避けたがりそうな、いい意味でも悪い意味でも普通だった。まあこんな兄がいたらそういう妹になるか、と納得しかけたオレは、#name#の手の怪我が治ったら改めて礼に来るそうだ、という東堂の一言に再び眉間の皺を濃くした。

(150515)



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