Thanks Clap!


「さっむいわぁ……」


空調が既に切られてもうた放課後の教室。
ウチはとある人物を待ってる。
コート着て、マフラー巻いて。暇やから小説読んだるわ。ページ捲る指が悴んどる。

ちゅうか、なんで生徒が残ってるのに暖房切るかいな。そういうとこ、ほんまケチな学校やわ。


「おっそいっちゅーねん」
「そら、すまんかったな。先に帰っとってもよかってんで?」


急に降って湧いた声。その待ち焦がれとった声に、思わず体が震えてもうた。


「蔵ノ介!」
「いつも言うてるやろ?先に帰れって」
「嫌や」
「風邪引くやろ。嫌ややない」
「いーやーや」
「我儘言うな」
「いーーやーーやーーー!」
「ったく、お前は。家が隣ってだけなのに、なんで一緒に帰りたがるんや」


アホか。決まってるやろ。一緒に帰りたいからや。なんで分からんのかなぁ、この微妙な乙女心。まぁ、鈍感蔵ノ介には分からんな。こーゆーことには疎いもんな。普段は人の気分の変化、うっさいくらい敏感なくせにな。

オカンみたいにガーガー煩い蔵ノ介に、ウチは口を尖らせてやった。「ぶーっ!」っちゅう効果音つきや。ほんなら頭を軽く叩かれた。最近すぐ叩く。なんやねん、ほんま。


「来るのがおっそい蔵ノ介のせいやのに……なんでウチが叩かれなアカンの?」
「待っとるお前が悪いんや。はよ支度せえ」
「悪ないぃ〜。蔵ノ介が悪いぃ〜」
「いいからはよ」
「もー!……ッ、いだっ!!」


持っとった小説。しおりを挟んで閉じようとしたとき、紙をなぞるように閉じたせいか、指に鈍い痛みが走った。
ひっさびさに紙で指切った……っ!!なんやこれ?!めっちゃ痛いんやけど?!

半泣き状態のウチへ、蔵ノ介が教室のドアに立っとったのに少し慌てて駆け寄ってきた。
はーまるでオカンみたいや。焦った顔がオカンそのものや。


「どないした?!」
「本で指切ったぁ〜」
「なんや、ビックリさせらんといてや……。ほれ、見してみい?」
「……!!く、くら!血ぃ!血ぃ出とる!!」
「あーそんな慌てんな。こんくらい舐めときゃ……」
「やー!ウチ、血ぃ苦手やねん!」
「そんなん知っとるわ。いいから落ち着け」
「嫌やー!死ぬぅー!」
「アホか!こんなんで死ぬわけないやろ!」


半狂乱なウチの手を、蔵ノ介はしっかりと掴んで離さない。いつもそうやった。慌てれば慌てる程、この蔵ノ介はウチを宥める大人になってまう。

ウチがそれだけ子どもなせいやけど。

すると「舐めときゃ治る」言うた蔵ノ介は、掴んだウチの手を口元へ運んでいった。
理解が追いつかず、なにをされるんや……と思ったのも束の間。
ウチの指は蔵ノ介の口の中へ吸い込まれていった。


「…………!?!?」


言葉にならへん言葉を発して、蔵ノ介のなされるがままになる。
さっきまで寒かった体温は急上昇。なんか顔まで熱い。頭はクラクラするし、目もチカチカするようや。

怪我した指先に柔らかい感触。それが舌っちゅうことに気付いたのは、イタズラ気味な瞳でウチのことを見遣る蔵ノ介と目が合ったからや。

感覚がおかしい。体がなんだか疼く。そんで息まで荒くなってまう。


「……ぅ、ン、くら……?!」
「なんやねん、その顔」
「そのまま喋んな……ッ、」
「全く。こんなんせえへんと、お前は全然気付かへんねんな」





まるで自分が自分じゃなくなる。
蔵ノ介の知らん顔。いつも苦笑いして、まるでウチのことは小さい子どものように扱うとったくせに。

鈍感だったのは、ウチのほう……?



from>>kuranosuke.S


拍手ありがとうございました!








✽SaitTop✽