ShortStory

近距離恋愛



きみは知ってるのかな。
僕がどれほど好きでいるか。







もうどれくらい経つんだろう。
きみを好きになってから。


「また断ったんだって?告白」
「誰から聞いたのさ」
「英二君」
「……だろうね」


隣の家のきみとは、気づけばずっと一緒だった。
幼稚園も小学校も。
仕舞いには、テニススクールにも顔を出すようになって。
中学は僕が私立だから別になるかな、なんて思ってたら春休みに制服をきて僕の家にきてさ。
驚かそうと思ってーなんて、僕の気持ちを知ってのことなのかと焦ったりもした。


「ねー、なんで断ったの?」
「それ、雫に言わなきゃダメ?」
「だって周助モテるのに、全然彼女作んないんだもん」
「テニス頑張りたいからね。他に目がいかないだけだよ」


他に目がいかないのは、きみのせい……なんて言えない僕は臆病者だと思う。
幼なじみというポジションは、逆に距離が近すぎて。どう振舞っていいかわからなくなる。
逆に裕太のほうが、雫といい雰囲気になるような気もする。


「こうやって一緒に帰ってるとさ、あらぬ誤解を受けるんだよ。あたし」
「誤解?」
「上からも下からも付き合ってんのかって聞かれてさぁ〜。もう参っちゃうよ」


ズキリ、と心臓が痛くなった。
雫は僕とそういう目で見られるのが嫌、なのか。
きっと違うと思いたい。これは本人も気づかず言った、ただの愚痴。僕とは離れたいとは思ってないはず……。
そう頭の中で繰り返しても、どんどん否定的な言葉が僕の胸を占めてくる。

ズキズキと疼く心臓に、僕はきみになにを求めているんだろう。


「……そう、思われるのは嫌なの?」
「周助?」
「僕と雫。そういう関係にみられること、雫は嫌なんだ?」
「んー……別に嫌ってわけじゃないけどさ。周助だって迷惑でしょ?こんなへんちくりんなチビが相手でさ。もっと美人ならまだしも」
「嫌じゃなかったら?」
「え?」
「僕が嫌じゃなかったら、雫はどうする?」


まだ言うタイミングじゃないのはわかってる。
でも、そう頭で考えてても口から勝手に言葉が出てしまった。
きっと雫は僕のことをただの幼なじみとしか思ってない。
この恋心を抱いてるのは、僕の一方通行なんだ。

その証拠に、顔色ひとつ変えずに雫はこう言い放った。


「えー考えたことなかったなぁ。だって小さい頃から知ってるんだもん。周助のこと。それ以上でもそれ以下でもないよー」


まるでナイフのように雫の言葉が突き刺さる。
きみにとって僕は、ただの幼なじみ。
でも僕にとっては、かけがえのない存在なんだ。

もう、ただの幼なじみではいたくない。
少しでもきみに意識してもらいたい。

それは男、として。


「そう、なんだ」
「なんか全部知っちゃったらさ、家族みたいなもんじゃん?周助もそうでしょー?」
「……いや?」


それはプライドみたいもので。
きみにこのままじゃあ負けたみたいだから。

そんなの、悔しいだけだ。


「僕はそうじゃないよ?」
「……周助?」
「幼なじみって、ある意味チャンスだとも思うんだよね」


雫の手を取って、口元へ運んだ。
もう季節は冬。きみの手は凍えるように冷たかった。
こうやって手を取ることも、ここ最近はなかったよね。久しぶりに雫に触れた気がする。


「……冷たい」
「周助?な、なに……」
「雫……。雫は僕の考えてることわかってる?」
「え?」
「本当は僕、いつでもこうしたかったよ?」


小刻みに震える手は、寒さから?
みるみる赤くなる頬は、季節のせい?

そんなに意識してなかったのなら、意識させてあげるよ。きみの隣のは、僕しかいないってこと。


「赤いよ?雫」
「だって、これは……。周助がこんなことするから……」
「嫌だったら払えばいい」
「い、嫌じゃない、し」
「嫌じゃないんだ?じゃあ……」


しどろもどろになって僕の目を見れないでいる雫に、その握った手首へ唇を落とした。
小さく音がなる。それは雫の耳にも入ったはずだ。体が小さく反応したから。

僕は少し優越感に浸り、思わずその手首に甘く噛みついた。
今度は大きく体が跳ねる。


「ぁ……ッ」
「そんな顔、僕にしか見せないで」
「待って待って。周助、おねが――……」
「待てない。待ちたくない。僕がどんなに雫のこと想ってたか……教えてあげる」
「……ッ、なんでこんなこと……」


なんでこんなこと?
そんなの、決まってるでしょう?


「雫が好きだからだよ」


手を握られたままじりじりと下がる雫に、僕はぐっ近づいた。
もう家まで数歩の距離。ここで帰してしまったら、こんなチャンスは巡ってこないかもしれない。

たとえ後ろが壁でも、逃げようと思えば逃げられるはず。
でも、きみは逃げない。
僕のひとりよがりの気持ちは、ここまで言い放ってしまえばもう抑えられない。


「雫が好きだよ。ずっと好き。ずっとそばにいたい」
「……周助、」
「誰にも渡したくない。雫の隣は僕じゃなきゃ嫌だ」
「しゅ……ぅ、」
「お願い。僕を見て……?」


限界まで顔が近づいた。
鼻先が雫のと触れる。
もし、このままきみが逃げるのなら。多分、僕はきみと一緒にはいられない。
一生、離れて生きていく。

だからお願い。逃げないで。
僕の中にいて。ずっとずっと。

きみがゆっくり目を閉じたのが、重なる前髪の向こう側からわかった。
それに応じるかのように、僕も目を閉じる。

冷たくなった唇が、雫のそれと触れ合った。
小さく。本当にそれは小さく交わる音がなる。
冬の静かな空気に消えてしまうけど。


「……逃げないの?」
「……に、逃げる理由が、ないもん……」
「気づいてなかったのに?」
「知りすぎて……怖かった、だけ」
「怖い?」
「でも、あたし。周助の隣にいたいと思った。どんな形でも。幼なじみだからだって思ってた。家族みたいなもんだからって。けど……」
「けど?」
「それは恋なんだって……今、わかった」


耳まで真っ赤になった雫の頬に、そっと左手を添えた。
甘えるように顔をかたむけて、滲んだ瞳が僕の心を弄ぶ。親指で唇をなぞると、物欲しそうにみつめるから。
僕を翻弄させること、昔からきみは本当に上手いよね。


「ね。聞かせて」
「……これ以上なにを……」
「雫の言葉で。お願い」
「……周助、が」
「うん」
「…………好き……」
「うん、僕も。雫が好き」
「さっき聞いたよ?」
「言い足りない。あと、こっちも」


触れてた親指をずらして、少し強引に唇を奪う。
舌なんて入れたら怒られるかな、なんて思いながらもそれは我慢できなかった。
甘い吐息が、小さくもれる。頭の中には雫の吐息と混じり合う音が響きわたっていく。


「ン、……ッ。ね、だめ。ここ、家の前」
「うん、わかってる。でも……」
「……?」
「今まで触れたくても触れられなかった分、それを埋めたくて」
「……ばか」


照れて笑うきみが愛おしくて。
本当にこのままずっと一緒にいたくて。離れたくなくて。思わず強く抱きしめる。
雫もそれに応えるように僕を抱きしめてくれた。

ずっときみの隣にいたいから。
その想いは言葉にしよう。
距離が近かったぶん、絶対に離さない。
離れて、って言われても離さないから。










近距離恋愛
(あの、周助さん?)(なに)(いや、帰ろ?おばさん、心配しちゃうよ)(いや。今日は雫の家に泊まる)(ワガママ言わないでよ)(ワガママになるのは雫にだけだよ)
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