※白ひげ時代の話※
※ふたりは付き合っている※

「お前ほんと、これどうにか何ねえの?」

 寝起きで乱れた頭のまま、デュースは疲れ切った顔で言う。胡座をかいて腕を組んだデュースの頰には何やらうっすらと赤い跡があった。
 そんな彼目の前には、眠そうな顔で正座をするエースがいる。下着一枚を身につけたのみという、ほとんど裸といっても差し支えないその姿でふああ、とあくびをしながらエースは言った。

「これってなんだよ……」
「さっきから言ってんだろ、お前の寝相の話だよ」

 とぼけるエースにデュースの眉間のシワがますます深くなる。

「お前、何をどうしたらそんなに寝相が悪くなんだよ。お陰でおれは毎度毎度お前に蹴られて起きてんだぞ」

 ふたりの想いが見事通じ合ってから早2週間と少し。幸せ全開であるはずのデュースの悩みのタネは、エースの寝相の悪さだった。寝る前にはしっかりと同じ枕の上に頭を置いて寝ていたはずなのに、次の日の朝には必ずと言っていいほど上下逆さまになっているのである。デュースは寝相がいい方のため、必然的に互いの頭の方に足が来ることになり、結果として寝相の悪いエースに豪快に蹴られてデュースが目覚めるというわけだ。
 少しずつ目が覚めてきたエースはでもよォ、と反論する。

「寝てる間のことなんか無意識なんだから、コントロールしようと思ってできるもんでもねーだろ」
「……」

 真正面から突きつけられたど正論に、デュースはグッとおし黙る。それに追い討ちをかけるようにエースは言葉を続けた。

「だいたい、おれは生まれてこのかたずっとこうなんだから、今更寝相なんか変えられるわけねえよ」
「……それもそうだな」

 どうしたもんかとデュースは頭を抱えながら盛大にため息をついた。一応あれこれ改善案を出してみるが、どれもピンとくるものはない。どん詰まりになってしまったその時、デュースは少しだけ黙って考えたのちに深刻な表情でつぶやく。

「こうなったら最終手段をとるしかねェな」
「最終、手段?」
「ああ」

 デュースの真剣な様子につられるように、エースはごくりと生唾を飲んだ。意を決したようにデュースは言う。

「同じベッドで寝るのを、やめる」
「は?!」

 だがその提案はエースにとって信じられないものだった。驚愕を隠そうともせず、エースはデュースに詰め寄る。

「デュース……お前マジで言ってんのかよ?」
「おれだってできればこんな手段とりたくねえけど、それ以上に蹴られて起きんのもヤなんだよ。朝から蹴られるって、あんま気分いいもんでもねーぜ」
「まあ、たしかに…」

 エースの声がしおらしくなる。自身に置き換えて考えてみたのだろう。恋人になったのだから一緒に寝ようと提案したのは何を隠そうエースだったため、この決断は出来れば避けたいものだったようだ。
 すると、急に閃いたようにエースは目を輝かせる。そして勢いよく手を挙げた。

「デュース!おれにいい考えがあるぜ!」
「なんだ」

 デュースが案を話すように促すと、エースは満面の笑みで得意げに言い放った。

「寝るときに、デュースがおれを強く抱きしめて寝ればいいんだよ!」
「?!」

 エースの提案を聞いた瞬間、デュースの顔が火を噴いたようにぼふりと赤くなった。あまりにもその提案が衝撃的だったのか、デュースは言葉をつっかえさせながらエースに詳しく尋ねる。

「お、おま、どういう意味だよ、それ」
「おれよりもデュースは寝相いいだろ?だから、デュースがおれのことを抱きしめていれば、おれの寝相は悪くならねえし一緒に寝れるしでいいこと尽くしじゃんか」

 そうだろう?とエースはにやりと笑う。今までふたりで眠りにつく際、あまり力強く抱きしめて眠ることはなかった。そこで寝相のいいデュースが抱きしめて眠ることで、簡易拘束具の要領でエースの寝相が安定するだろうという提案のようだ。
 確かに、それは(エースの提案にしてはかなり)理にかなっているが……デュースはきっぱりと言い張る。

「それは無理だ」
「なんでだよ。いいアイデアだろ?」
「いいアイデアだけどよ……」

 そこでデュースは少し俯きがちに声を途切れさせる。
 どうしたのだろうとエースはその顔を覗き込んで、思わず目を丸くした。デュースはぐっと悩まし気に眉を寄せ、うろうろと視線を彷徨わせながら言う。

「普通に寝るだけでも緊張するのに、そんなにひっついてたら、眠れるわけねえだろうが……」

 デュースは気まずそうに口元を手で隠す。そのためか、言葉の最後の方はほとんど聞こえないほど微かなものだった。デュースにとって、恋人同士としてのエースとの触れ合いはまだ全く慣れないものらしい。そのあまりにも初々しい表情に、エースもつられて徐々に顔を赤らめた。互いにベッドの上で俯き合いながらボソボソと言葉を交わし合う。

「……おれ、頑張ってみる、よ」
「おう、そうしてくれ。……おれも、出来る限り協力するから」

 その後、互いの努力の甲斐あって、エースの寝相の悪さは少しだけ改善されたらしい。