ぱちん。頭の奥で何かが弾ける音がした。

 ざあっと風が吹き抜けて、教室のカーテンを揺らす。開きっぱなしだった教科書やノートが風でバサバサと音を立てる。窓のすぐそばの席に向かい合って座る俺たちの頭をめちゃめちゃにしていく。普段なら鬱陶しく思うところだろうが、正直今はそれどころじゃなかった。

『そうだ、お前デュースにしろよ!』

 真夏の島。揺れる陽炎。日差しを受けて快活に笑う、見覚えのありすぎる男。彼と共に歩んだ旅路と、……その結末。
 なんの脈絡もなく唐突に頭の中に流れてきた映像は、なにかの創作物のように現実離れしていたが、それでも事実だと思えるような確かな感覚があった。それを説明しろと言われると難しいが、とにかく、そんな気がしたのだ。

 これが、前世の記憶というものなのだろうか? そんなものが自分に備わっているなんて思いもしなかった。だって、なんでこのタイミングで思い出すんだ。どう考えたってわからない。
 脳裏に過ぎった映像が衝撃過ぎて、さっきまで俺たちは何をしていたのかも覚束なくなる。視覚に意識を向き直すことでようやく、自身の手にシャーペンが握られていることに気付いた。そこから芋づる式に記憶をひっぱり出していく。そうだ、試験が近いからって、こいつにおれが勉強を教えて。デュースは教えんのうまいな、お前が分かりやすすぎるだけだろ、なんて言い合って。それで。

「……デュース」

 ぽつりと、己の名を呼ばれる。
 誰もいない放課後の教室で、その言葉だけが宙に浮いている。

 おそるおそる、おれは俯き気味だった顔をあげた。前に座っている男と……目が合う。
 その瞬間、どうしようもなく熱いものが込み上げてくるような心地がした。どくりと大きく心臓が跳ねて、身体中の血液がすごい速さで循環を始める。体温が上がる。呼吸が早くなる。

 ……生きてる。おれも、お前も。
 そんな当たり前の言葉が、口からこぼれそうになった。

「エー、ス」

 言葉が途切れる。なんだか喉が引きつって、うまく声が出ない。
 今の、お前も見たのか、なんて。そんな野暮なことを聞く必要はなかった。目を見ればわかる。その目を見れば。

「…デュー」

 今にも溢れ落ちそうなほど大きく目を見開きながら、か細い声でおれの名を呼ぶ。徐々にその目は細められ、眉尻は下がり、対照的に口角がふにゃりと上がる。

「こんなことって、あるんだな」
「ああ、……夢みてェだ」

 おれたちはどちらともなく笑い合う。
 目尻にうっすらと浮かんだ涙を、無理やり笑いのせいにした。