※学パロ※

 何気ない平日の朝。いつものように登校してきたおれは自分の教室に入りその光景を目にした途端、思い切り眉を寄せてしまった。

「…エース?」

 おれの目に飛び込んできたのは、真剣そうな顔をしながら自分の席で何かを読んでるエースだった。前のめりになりながら、それこそ夢中になって読んでいる。珍しいな、こいつが本を読むなんて……。そう思いながらおれはエースの前の席に鞄を置き、ついでにちらりとタイトルを見る。そしておれは一気に気が抜けたように目を細めた。

「『食べられる野草図鑑』……」
「おぅ、おはようデュース」

 おれの声でようやく気がついたらしいエースがこちらを見る。はよ、と適当に挨拶をしてエースの方を向いたまま椅子に腰掛ける。

「お前、ついに草まで食い始めるのかよ……どんだけ食い意地はってんだ」
「ばっ…ちげえよ! ただちょっと気になってたから漫画の新刊買うついでに買っただけだ」

 エースは心外だとばかりに少々声を荒げながら言った。
 エースは現在、進学校に通っている同い年のサボや弟のルフィとともに共同生活をしている。バイトの給料やルフィの爺さんからの仕送りなんかでなんとかやっていけているらしいが、食べ盛りの男が3人もいるのだ。食費がえげつないことになるのは目に見えている。それの打開策としてタダで手に入る野草を考えたんだろうが……。

「発想が独特っつーかなんつーか」
「おいデュース、お前ちょっと馬鹿にしてんだろ!?」

 野草はすげえんだぞたくさん食べてもタダなんだぞとよくわからないことを熱弁し始めるエース。だがおれははいはいと聞き流すばかりだ。だんだんとヒートアップしてきたところで後ろの扉から担任のマルコ先生が入ってくる。だがこいつはお構いなしだ。周りが見えていないのかもしれない。

「おいエースそろそろやめとけ」
「だから野草には無限の可能性がーー」
「うるせえよい」

 マルコ先生が振りかざした出席簿がエースの頭にクリーンヒットする。んぎゃっ、と声を上げて机に突っ伏したエースに、おれは静かに手を合わせた。南無。


***


 放課後。
 恒例のように一緒に帰宅するおれたち。だが今日はいつもと違っていた。エースの手には例の『食べられる野草図鑑』と戦利品の入ったビニール袋がある。

「お、これは……ノビルか?」

 少し歩いては野草に目が止まり、図鑑で種類を確認して、食べられそうなら収穫する。それを何度も繰り返すもんだから、時間がかかるったらありゃしない。なかなか進まない帰り道にだんだんと苛立ちが募ってきたおれは飽き飽きしたように苦言を呈する。

「エース、さすがにもういいんじゃねえか? 取りすぎても逆によくねェだろ」

 事実、もうすでにエースの持っているレジ袋は8割がた草で埋まってしまっている。エースはおれの指摘でやっと気づきましたとばかりに手元のレジ袋を見た。

「ん、それもそうだな」

 今日はこのくらいにしとくか、と言いながらレジ袋の口を結ぶ。もしや明日もやるつもりなのか…とやや引き気味におれは遠い目をした。どんだけ食うんだよお前たち兄弟は。
 それにしても、とおれはエースの持っている袋に視線をやりながら言う。

「通学路だけで結構採れるもんなんだな」
「だな。おれもこの本読むまで全然気づかなかったぜ」

 こんなに道端が食えるもので溢れてたとは…とエースが目をギラつかせる。その様子に呆れておれは小さく笑った。いつもよりも傾いた日差しを感じながらおれはポケットに手を突っ込み、歩みを進める。普段は目を向けない野草に視線を落とし、図鑑を覗き込んで、ああだこうだと喋る。なんてことないひと時だが、まあ。

「……たまにはいいもんだな、こういうのも」

 ぽつりとこぼす。だがそれをエースはしっかりと聞き取っていたらしい。にまーっと口を横に引くようにして嬉しそうに笑う。

「ついにデュースも野草の良さに気付いたかァ?」

 そうだよな?そうなんだろ!とはやし立てるエース。テンションが上がったのか、ノリノリで肩なんか組んでくる。そんな顔がキラキラと眩しくて、おれはちょっと目を細める。

 別にそういうことじゃねえんだけど……ま、いっか。
 おれは呆れたように小さく笑って、くっついてくるエースをなんとか引き剥がしていた。