05 羨ましいと思ってた




「はーあ、疲れた。」

眼鏡を取り、大きな伸びをして参考文献から目を外した。少し気が早いかもしれないが、オーストラリアの発電所を開設するプロジェクトに携わった場合、その土地の特性をしっかりと把握する必要がある。必要な文献を弄るように読み、把握しておきたい情報を全てデータとして残す作業に没頭していた。久しぶりの平日休暇である。思いきり遊ぶのも良いが、たまに勉強するのも楽しい。

ふと携帯を見ていたら、この間おそ松さんと見に行った競馬の写真で手を止めてしまった。おそ松さんと京都まで新幹線で行った。友達になってすぐに、ここまで遠出するとは思わなかった。

記念で撮った写真のおそ松さんは、にっこり笑ってピースサイン。女子の私よりも可愛らしいのは、何でだろう。

ぼんやり携帯を眺めていると、タイミングよく電話が鳴った。おそ松さんからだ。急に何だろう?と私が電話に出ると、おそ松さんの元気な声が響いてくる。

「もしもし、名前ちゃん?」
「うん、どうしたの?」
「名前ちゃん、今ヒマ?」
「ヒマって言うか、本読んでる。」
「一緒に本読んで良い?」
「えー一人で読めば良いじゃないですか。」
「名前ちゃんと本読みたい。」
「今勉強してるんで、また今度お願いします。」
「あー…そっかぁ。勉強いつ終わる?」
「今日はずっと本読んで勉強なんで。」
「へ、へー…頑張って…」


ぷつりと電話を切り、また文献に向き合う。おそ松さんは連絡を良く取り合う中だけど、私はおそ松さんのこと何も知らない。何の仕事してるのか、年はいくつか、どの辺りに住んでるのか、何が好きか。

私、そう言えばおそ松さんに対して何か質問したりもしてなかったな…。結局いつも自分のペースでやりたいことやったり、自分の愚痴や仕事観、好きなことばかり話したり。

ー家族いるのかな?結婚してるのかな?恋人いるのかな?

おそ松さんはよく私に質問してくるけど、私は何もしてない。相手のこと、そこまで知りたいって思わなかった。人間に対して感心が薄いということもあるけど。

こうしてよく連絡をくれるおそ松さんは、私のことどう思ってるんだろう?気の合う友達?あわよくばの下心?うーん、わからん。でもおそ松さんと一緒にいると、比較的素の自分を見せれるなぁ。

再び携帯を取り出し、おそ松さんの写真を見た。のんびり自分のペースで生きる彼の姿は羨ましくもあった。




***




名前ちゃんのこと、大好きだなと思ったのはつい最近。出会った時は美人さんだなーくらいだったのが、今ではずっと話をして側にいたいくらい。名前ちゃんは頑張り屋で、可愛くて、冷静に仕事をしているかと思えば人一倍負けず嫌いで熱い性格。彼女の全てが尊敬に値した。

と、同時に異性として意識した途端全身に熱を帯びる。今だってちょっと電話で話して、下半身はライジング。シコマツのこと馬鹿にできないな、これは。俺はトイレで名前ちゃんのことを考えながら抜いた。

俺には何もない。名前ちゃんのように仕事で実現したい夢も、将来なりたい自分の像も。だから、正直名前ちゃんが羨ましい。真っ直ぐ迷いのない名前ちゃんは、自分の考えで動いて、どんどん夢を実現していく力があった。

「なさけねー…俺…。」

少女漫画は読んだことないけど、言うなれば爽やかなヒーローに憧れるヒロインってやつだ。今の俺のポジション。

誰かに合わせて自分を殺し、やりたいことやれないで生きるやつが嫌いって名前ちゃんは言ってたけど、寂しいとか思ったことないんだろうな。名前ちゃんの周りに群れて行動することなく、自分の意思と判断で行動する姿が俺はとても羨ましかった。


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