09 きっともっと好き



ー期待した。

だって、あんなに可愛い名前ちゃんを見たら、もしかして俺に気があるのかもしれないって思うじゃん?俺以外の男もきっとそう思うよ。いつもと雰囲気が違うし、可愛いのがさらに可愛くなってるし。俺はもう名前ちゃんに会った瞬間から、名前ちゃんは俺の女神様だと思ってる。名前ちゃんになら、踏まれても傷付けられても良い。変態っぽいけど、俺は毎日名前ちゃんのことを思いながら自分自身を慰めている…って、結局変態だわ。俺。

「あーあ、あとちょっとだったのに。」

水族館から出た俺は、名前ちゃんの隣で盛大に溜め息をつく。名前ちゃんは、水族館でいろんな海の生き物を見て、至極満足していた様子である。因みに俺は、全然満足していない。もっと名前ちゃんが欲しい。名前ちゃんが足りない。あーこんなことなら、クラゲの水槽の前で一発キスすれば良かった!わざとふらついて!

「何があとちょっと?」
「いえ、何でもないデス。」
「ーで、この後はどうするの?」
「あー…ノープラン。」
「へっ?」
「特に計画はしていません。」
「何それ。」

名前ちゃんが、声をあげて笑った。うわーすっげえすっげえかわいい。何この子、俺の女神様だわ。俺はカラ松じゃないけど、今なら名前ちゃんの前で痛い一言も勢いに任せて言えてしまいそうだ。……お前は、俺の、女神。なんて。

「あのね、そこにあるラーメン屋、美味しいって評判なんだよ。」
「あぁ、ラーメンね…パンケーキじゃなくていいの?」
「パンケーキそんなに好きじゃないから。それに、そういう所に並ぶ人って、大体SNS用の写真撮りたい人達しかいないし。」

……女の子ってパンケーキ好きじゃないの!?まぁ、俺はラーメン好きだから、助かった。名前ちゃんとラーメン屋に入り、俺はラーメンと餃子、半ライスを頼んだ。名前ちゃんも同じものを頼み、美味しそうにラーメンを啜る。食べっぷりもかわいい…。そう言えばラーメンってデートでNGな食べ物屋じゃなかったっけ?ま、いっか。

「この後、行きたい場所があるんだ。」
「どこ?」
「せっかくだから海を見て、展望台に行こう!夕焼け綺麗だよ。」

名前ちゃんと店を出て、海に向って歩いた。少し冷たい、秋の潮風。名前ちゃんは海に向って走り出し、波打ち際でいろんな物を拾い出した。ガラスにボタン、貝殻、流木ーでっかい海藻。

「ムードがない…」
「はい?」
「何で拾っちゃうんだよ、陶器の破片とか…」
「これ、江戸時代の古伊万里の破片だよ。お宝鑑定団でやってた…」
「いや、要らないよ。捨てておいで。」
「この海藻は種類がよくわからないけど、きっと食べられるんじゃないかな。」
「あぁ…うん…」

俺が遠い目をして眺めるのも御構い無しに、名前ちゃんは海でいろんな物を探しながらどんどん歩いていってしまう。途中で散歩中の犬に出会して、愛でたり、知らない子どもと世間話して笑ったり。お爺さんから冷たいお茶も貰ったりしていた。あー、やっぱり女神なんだな。名前ちゃん、いろんな人から何をしても良い印象を無意識に植え付けてしまう。

「…おそ松さん、何をしてるの?」
「暇だから名前ちゃんの海でお散歩動画撮ってる。」
「えっ、やっ、やだ!止めて下さい!」

名前ちゃんの散歩動画を撮り始めて20分計画したところで、ようやく名前ちゃんは俺の姿に気づいてくれた。遅いよ名前ちゃん。恥ずかしいのか俺と距離をとろうと走ってしまう。あーかわいい。家に帰ったらこの動画でひたすら抜こう。そんなゲスいことを考えていると、名前ちゃんはチャラいサーファーに捕まっていた。俺は録画ボタンを一旦停止し、急いで名前ちゃんの元へ走る。

「ーあ、おそ松さん。」
「名前ちゃん、どうしたの?」
「何してるのー?って。もしヒマだったらボディボード一緒にやらないって言われた。」
「お断りします。」

俺が名前ちゃんの手を引いて、早足で歩くと、名前ちゃんは歩くの早いと文句を言った。当たり前だろ、あんなチャラいサーファーに名前ちゃんは絶対にやらない。

「もうそろそろ日没の時間だから、展望台に行く?」

名前ちゃんが首を傾げながら俺に聞く。風でゆるく巻かれた髪が靡いて、思わず見惚れた。まぁ、こんな女の子が一人で浜辺をうろうろしてたら、声も掛けるよな。俺が名前ちゃんの言葉に頷くと、名前ちゃんは俺の手を握って展望台に向って歩き出した。

……無意識にやってるんだろーな。ホント、勘違いするから、止めて欲しい。でも、やっぱり止めないで。

期待と、不安。恋焦がれる気持ち、絶望。様々な感情が渦巻いて、一歩ずつ展望台の階段を踏み締める。ぐらりと足元がふらついてしまった。大丈夫?と、名前ちゃんが声をかけるけど、全然大丈夫じゃない。甘い匂いと、ふわふわの髪が俺の鼻先を掠め、心臓が沸騰しそうだ。

ー好きだよ、名前ちゃん。抱き締めて、キスして、叶うことなら一つになりたい。

夕焼けを二人で見ながら、俺はそう願った。名前ちゃんが「綺麗…」と溜め息を漏らしていたけど、俺は名前ちゃんが綺麗だと思う。ぶっちゃけ、初めて出会った時よりも、もっと名前ちゃんのことが好きだし、側にいたい。

「ねぇ、おそ松さん」

優しい声で俺の名前を呼ぶところ、やっぱり、かわいい。






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