「綺麗だ」とか「可愛い」とか、女の子が望む言葉はなんでもくれた。
 けれど、カブルーの周りにはいつも美しい女の人や可愛い女の子がわんさかいて、彼はいつでも彼女たちに優しい言葉をかけ、まばゆい笑顔を向けていた。きっと、自分もそんなたくさんの女の子のうちの一人。特別な存在になどなれないのだと、今日もカブルーが帰った後の残り香をシーツの上で噛み締めていれば、不意にベッドサイドに置かれた何かに気がついた。
 彼の目の色を彷彿とさせるターコイズ色の紐がついた小さな小袋。持ち上げてみると、かしゃりと金属が重なり合う音がする。中を見れば、思っていた通り、コインが数枚と何やら鍵のようなものが入っていた。
 カブルーが帰ったのは確か夕方の五時頃。時計を見れば今は六時半を回っており、窓の外では濃紺とオレンジ色のグラデーションが空を染め上げている。彼が取りに来るまで預かっていようかとも思ったが、二日後に再び迷宮に潜ると言っていたから早めに渡した方が良さそうだ。晩御飯を調達するついでに彼の住処に届けに行こうと、さっと身なりを整え、刺繍レースのポシェットの中に小袋をしまうと、ナマエはそのまま家を飛び出した。



愛を孕む





 カブルーとナマエが出会ったのは、一年ほど前。ナマエが小料理屋を営む叔父の店で手伝いをしていた時であった。
 えらく爽やかで人当たりも良く饒舌な彼はあっという間に叔父と叔母に気に入られ、店の常連客となっていた。ウェイターとして店で働いていたナマエとカブルーは歳が近いこともあってすぐに仲良くなり、彼から迷宮の話を色々と聞かせてもらうのがナマエはいつも楽しみだった。
 事が動いたのは、半年ほどたったある日のこと。市場で色々と買い込みすぎた品物をナマエが一人でよたよたと運んでいれば、たまたま通りかかったカブルーが助けてくれたのだ。そしてそのまま一人暮らしの家まで運んでくれたため、助けてくれたお礼にとナマエはカブルーに晩御飯を振る舞うことにした。
 作ったものは叔父仕込みの魚介トマトパスタに栗かぼちゃの冷製スープ、そして付け合せのサラダ。彼は全て「美味しい」と褒めてくれ、おかわりまでしてくれた。
 気になっていた男性からそのように言われ、ナマエもついつい舞い上がってしまったのだろう。 西方産の少しお高いワインとチーズもあけ、夜更けまでソファで話に花を咲かせていれば、朝方ベットの上でカブルーに抱きしめられた状態でナマエは目を覚ましたというわけだ。
 そんなよくある男女の話。事件後も何となく都合が合えば二人で会い、ずるずると関係を結ぶことが増えていった。
 会う頻度は前より多くなったと言えども、特にカブルーからはっきりとした言葉を貰えていないことから、恐らく彼は後腐れの無い関係を望んでいるのだろう。正式な恋人になりたいと言ったら、彼は自分の元から去ってしまうかもしれない。そんなことから、複雑な思いを胸に抱えたナマエは、カブルーと会える日を楽しみにしながらも悶々とした日々を送っていたのだ。


 そんな今までの出来事を思い返しながら、家から歩いて二十分。目の前には、飲み屋が所狭しと並ぶ大通りが出てくる。
 ナマエ自身、カブルーの住まいにはまだ招かれた事は無いが、中心部にあるドワーフの店主が経営している酒屋の地下を間借りしているという話は本人から聞いていた。カブルーがいなくとも、事情を話して店主に渡しておけば大丈夫だろう。
 ようやく目当ての店にたどり着き、開け放たれたドアをくぐって酒屋の中に入れば、中にはドワーフやトールマン、はたまたハーフフットなど様々な人種の者達で溢れかえっていた。ちょうど今から忙しくなる頃合いのためか、店員たちも店の中を忙しなく動き回っている。
 一人入口付近でキョロキョロと辺りを見回すナマエの姿が目に入ったのか、バーカウンターにいた店主らしきドワーフの男が声をかけてくれた。


「お客さん一人かい?」
「えっと・・・。あの、カブルーって居ますか?ここに住んでるって聞いたんですけど・・・」
「カブルーならちょっと外に出てるよ」


 ジョッキに並々とエールを注ぎながらも、店主は肩をすくめる。その話を聞いていたのか、少し酔った雰囲気でカウンターに座っていたトールマンの青年が、酒を煽りながらはぁっと深いため息をついた。


「かぁ〜っ!ついに住処まで突き止めちまう女が出てきたか!?」
「・・・え?」
「あの色男め。あんたもあいつに転がされてる女の一人なんだろ?」


 「可哀想になぁ」と憐れむように言う青年の声に、ナマエの心臓の奥の方が思わずぎゅっとなる。いくら自身で自覚していても、いざ他人から言われるとかなり胸にくるらしい。
 必死に愛想笑いを浮かべて言葉を濁していれば、栗色の柔らかな髪を揺らした男はそのまま自分の横にある椅子を勢いよく後ろに引いた。


「まぁ座りな。可哀想なあんたに酒くらい奢ってやるよ」
「いや、その・・・」
「遠慮すんなって!カブルーの奴、さっき店から出てったけど、『すぐ戻る』って言ってたからな。このままここで待っといた方がいいよなぁ、おやっさんよ」
「ん?あぁ、多分な。三十分くらい前に『忘れ物を取りに行ってくる』って言ってたっけな。晩飯は店で食うって言ってたから、ぼちぼち戻ってくると思うよ」
「な?だから、ほら。座りな!」


 ふいに立ち上がった青年にそのまま腕を掴まれ、ナマエは問答無用でカウンター席に座らされる。悪い人ではなさそうだが、少しばかり悪酔いしているため、無理に断ってしまえば逆に面倒事が起こりそうな気がした。
 それに、恐らくカブルーはナマエの家に忘れ物を取りに向かってしまったのだろう。二度のすれ違いを防ぐためにも、そして確実にカブルーの忘れ物を本人に届けるにも、確かにここで待っていた方が得策だ。
 そう思い「じゃあ一杯だけ」と腹を括ったナマエは、おずおずと男の隣に腰を下ろした。
 飲みやすそうな酒はどれかと、店主の後ろにあるドリンクメニューの書かれた黒板を見上げていれば、男がずいっとこちらに身を寄せてくる。


「酒は呑める口かい?」
「いえ、たしなむ程度です。果実酒かワインくらいしか呑まなくて・・・」
「そうか!なら、チェリーかプラムあたりがおすすめだ。そんなに度数も高くないから飲みやすいぞ」
「そうなんですね。じゃあチェリー酒の炭酸割りでお願いします」


 二人の会話が聞こえていたのか、すぐさま店主は「あいよ」と応答して、棚の後ろにあった瓶をひとつ掴む。そして手際よくグラスにこっくりとしたとろみのあるボルドーの液体をいれ、そのあと炭酸水をゆっくりと注いだ。
 あっという間にできあがった酒がナマエの前に出されるや否や、それを合図に、青年がエールの入ったジョッキを突き出してきたため、ナマエはグラスの縁を傾け乾杯の挨拶に応じる。チンッと小気味よい音が響き、そのままグラスに口づけた。なるほど、彼の言った通り度数はあまり高くないようで、甘くて飲みやすく、口当たりも良い。
 一気にグラスの半分までをぐっと喉に流し込んだナマエがほぅっとため息をつけば、青年はとても嬉しそうに微笑んでいた。


「おっ、いけるじゃねぇか」
「おっしゃる通り飲みやすいです」
「だろ〜?よし!今日は俺が全部奢ってやる!じゃんじゃん飲みな!カブルーが戻ってくるまで俺がヤケ酒に付き合ってやるよ」


 カカッと豪快に笑うと男は後ろを通った店員に食事の注文をし出した。チーズにナッツにドライフルーツと、どれも酒に合いそうなものばかりである。
 少しだけ、カブルーが戻ってくるまでの間くらいはいいだろうと、ナマエはほんのりと頬を染めながらグラスを煽った。


 ***


 気がつけば飲み始めてから一時間ほど。ナマエの前には空になった三つのグラスが並ぶも、八時を過ぎてもカブルーは戻ってくる気配は無かった。
 もしかしたらナマエの家から戻ってくる道中、腹が減って晩御飯を食べようと何処かの店に立ち寄ってるのかもしれない。塩のかかったピスタチオの殻を剥く自分の手元をぼんやりと眺めがら、ナマエは少し酔いを冷ますように深いため息をついた。
 その音に反応するかのように、隣に座っていた男がずいっとこちらに距離を詰めてくる。ふいに肌同士が触れ合った腕からは、じとりとした熱を感じた。


「カブルーの奴、戻ってこねぇなぁ」
「そうですね・・・」
「どっか女の家でも行ってんのかね」


 零れ出た男の声に、ナマエの目頭はじんわりとぼやけだす。
 せっかく考えないようにしていたのに。酒の力も相まってか、どうやら涙腺がかなり緩んでしまっているようだ。さっと指先で目元をぬぐって俯けば、青年は慌てたようにナマエを背中に手を添えてきた。


「悪りぃ、泣くなって」
「っ・・・いえ、ごめんなさい。気にしないでください」
「いやいや、気にしねぇなんて無理な話だろ。なぁ、今日くらいカブルーのことなんて忘れちまえよ」


 慰めるようにゆるゆると背中を上下していた骨ばった青年の手が、そのままナマエの肩の方に回る。思わずびくりと肩を揺らしながら顔を上げれば、気がつけば男の顔はすぐ目の前にあった。
 生憎店主はテーブル席の方に行って、常連客らしきドワーフの男たちと豪快に笑い声をあげており、喧騒も相まって誰もこちらの様子には気づいていない。迂闊だった。弱っていたとはいえ、こんなにも単純な罠に自らかかりにいってしまうだなんて自業自得すぎる。


「っあの、ごめんなさい!私、そういうつもりじゃ・・・!」
「おいおい!今更そんな話はないだろうよ?なぁ?」


 必死に逃げようにも、非力なナマエの力では男の太い腕には太刀打ちなどできるはずもない。問答無用で近づいてきた唇に、せめてもの抵抗で何とか身をよじりながらも顔を後ろに背けた次の瞬間だった。
 ふいに青年の手の力がナマエの肩から突然消えたかと思えば、「いででででで!!」と野太い悲鳴が酒場に響き渡った。
 はっと弾かれるように前を向けば、目の前には青年の腕を背後から捻りあげるカブルーの姿。いつものように愛想の良いにこやかな笑顔ではなく、スっと色を無くしたような冷ややかな瞳をした彼は、男をそのまま床へと押さえつける。
 いつもとは異なる彼の様子にナマエがただ呆然とその姿を眺めていれば、騒ぎを聞きつけた店主が慌ててこちらに駆け寄ってきた。


「おい、カブルーどうしたんだ!」
「・・・こいつがナマエに手を出してたんです」
「いでぇー!!ち、違う!まだ何もしてねぇよー!!」


 店主に制止されても尚、カブルーの力が弱まることはない。何とか騒ぎを収めなければと、ナマエは思わず声をうわずらせながら、必死に彼の服の裾を掴んだ。


「カ、カブルーっ・・・私なら大丈夫!そのっ、何もされてないから・・!!」
「ほら、カブルー。二人もこういってることだし、今回は収めてやってくれ。こいつも悪酔いしちまったんだろ。ほら、お前も金払ってさっさと帰るんだ」


 ナマエと店主の仲裁によって少しばかり落ち着きを取り戻したのか、カブルーは男の腕からようやく手を離した。そして店主によって入口へと連れていかれる青年の姿を見送っていれば、ふいに服の裾を握っていたナマエの手をカブルーが勢いよく掴み取る。あっと思う間に、彼はそのままナマエを店の奥にある階段へと誘っていった。
 店の地下に続く階段を最後まで降りれば部屋らしきものが現れ、彼は躊躇することなく木製の扉を開ける。中に入ると同時にカブルーの手が離れていったため、薄暗い部屋の中を必死に目を凝らしていれば、背後でガサゴソと何かを取り出す音がした。しばらくして小さな火花が散ると、年季の入ったランプに火が灯される。ぼんやりと照らされた部屋の中には、たくさんの酒樽に、粗末なベッド、そして本や地図などが広げられた古びたテーブルが置かれていた。
 恐らくここが間借りしていると言っていたカブルーの部屋なのだろう。こんなタイミングでもなければ、初めて彼の部屋に招かれたと舞い上がって喜んでいたが、今は状況がよろしくない。ランプの蓋を閉めた彼はカツカツとこちらに近づいてくると、再びナマエの手首を掴み取る。
 気がつけばあっと思う間にベッドの上に押し倒されたナマエは、こちらをじっと見下ろすターコイズブルーに身動きが取れなくなっていた。


「なんで俺がこんなにも怒ってるか分かってる?」


 ナマエの手首をベットに縫い付けるカブルーの指先に、ぐっと力が入る。
 見たこともない迫力を目の前にして、やはりここに来るべきではなかったとナマエは小さく息を飲んだ。


「っ・・・私が勝手に店に来ちゃったから・・・」


 ぽろりと涙がこぼれ落ちそうになるのを耐えながら、ナマエは唇を震わせて懺悔した。すると冷ややかだったカブルーの瞳が一瞬にしてくるりと丸まったかと思えば、いつもの冷静な色を取り戻す。そのまま彼ははぁぁっと重く深いため息を吐くと、ナマエの手首を掴んでいた力をやんわりと緩めた。


「・・・やっぱり全然分かってない」
「え?」
「見事に入れ違っちゃったみたいだけど、わざわざ忘れ物を届けに来てくれたんだろ?だからここに来た理由は、俺が怒る理由も筋合いもないよ」
「・・・うん」
「それに、呼んだことはなかったけど前から住んでる場所は教えてただろ。俺は来られたら困る相手に、安易に自分の住む場所を教えることなんてしない。実際ナマエ以外にここを知ってる異性はリンとダイアだけだ」


 じゃあパーティーメンバーでもない自分はなぜ教えてもらっていたのだろう。口にするまでもなく、カブルーにはこちらの疑問が伝わっていたらしい。目をパチパチと瞬かせるナマエを見て、彼は訝しげに眉をひそめた。


「あのさ・・・一応聞くけど、俺とナマエの関係ってなんだと思ってる?」
「・・・・・・体だけのかn」


 そこまで言って、ナマエは最後まで言葉を続けることをやめた。目の前にいたはずのカブルーが、頭を抱えながらずるずるとベッドの上にひれ伏してしまったからだ。
 怒りを沈めるように細く長い何ともいえない声をあげた彼は、再び身を起こすとナマエの手を引いてベッドの縁に座らせる。そして向かい合うような形で、カブルー自身もナマエの隣に腰を下ろした。


「・・・はっきりと言葉にしてなかった俺も悪いんだけどさ」
「・・・うん」
「俺は、ナマエとは付き合ってるつもりでいたんだけど」
「え?・・・え!?」
「・・・その反応ってことは、俺が付き合ってもない女と頻繁に会って、体だけの関係を結ぶような男だと思ってたんだ?」
「いや、えっと・・・その、だってカブルーってすごくモテるから・・・」


 恨みがましく向けられた視線にしどろもどろに言い訳を並べていれば、ふいに伸びてきたカブルーの指がナマエの指先に絡まる。すりっとまるで猫が擦り寄ってくるように触れられた手は、焦れったいほどに熱を帯びていて、びりびりと全身を何かが駆け巡るような感覚を覚えた。


「ナマエを好きになってからは、時間があれば君のところに行っていたし、他の子と関係を疑われるようなことはしてないつもりだけど」
「っ・・・、でも・・・会うのはいつも私の家で、二人きりで外で会うことも、この部屋に呼んでもらったこともなかったし・・・」


 突然告げられた事実に理解が追いつかず、ナマエは頬を染めながらもごもごと口篭る。
 いつからか、迷宮探索の合間をぬって叔父の店に食事をしに来たカブルーを、そのまま家に迎え入れるというのがお決まりのデートパターンとなっていた。外に出かけることもなく、隠されたような関係性であったのに、どうやって恋人関係だと確信が持てるのだろう。
 今度はナマエが負けじとカブルーを見上げたと同時、気がつけば目の前にあった彼の唇がゆっくりとナマエのものに重なった。
 柔らかな感触が、壊れ物を扱うようにゆっくりとナマエの唇を食む。リップ音を鳴らしながら、丁寧に端から順番に口付けていくカブルーの行為にナマエは息をつく暇もなかった。
 降り注ぐキスの合間に小さく吐息を漏らしながら必死に彼の手を握れば、愛おしそうに絡まる指先に力がこもる。大人しく受け入れながらもこちらに縋り付くような反応に満足したのか、カブルーは最後までキスを堪能すると、艶やかに濡れそぼった己の唇をぺろりと舐めあげた。


「ナマエと一緒にいたら、こんな風に君を食べたくなっちゃうから」
「・・・なっ」
「でも薄い扉でムードもへったくれもないここだと、色々と不都合だろ?だからいつも丈夫なレンガ造りの君の家に行ってた」
「じゃ、じゃあ・・・二人で外でデートしなかったのは?」
「それは、ナマエが俺の事を気にしてる他の女の子に睨まれて、何かされでもしたら困るなと思って。女性は本気になると、手段を選ばないことが多いから」


 モテているということを否定をしないところが実にカブルーらしい。確かに、今思い返せば叔父の店に彼が頻繁に来るようになってから妙に若い女の客が増えたし、客足が落ち着いてる時にテーブルでカブルーと話していれば、するどい視線を向けられることもあった。彼のパーティーメンバーの女性陣も何度か外部から嫌がらせを受けたといっていたため、カブルーの配慮は当然といえるだろう。
 ふいにカブルーの本音を聞いたことで、胸に渦巻いていた不安が少しばかり軽くなったような気がする。それと同時に、自分は彼の恋人なのだという事実を知ってじわじわと喜びを噛み締めていれば、カブルーの手が背中に周り、再びナマエはベッドの上へと押し倒された。
 ギシギシと古びた木枠が軋み、真っ白な綿のシーツに染み付いた彼のエキゾチックな香りが鼻先をかする。己の部屋のシーツに移っていた香りよりも濃いそれは、ナマエの胸の鼓動をいとも簡単に早くさせた。


「でも、もう潮時かな」


 頭上でにっこりと微笑んだかと思えば、カブルーはそのままナマエの首筋に唇を寄せる。滑るように柔肌をなぞった後、ちょうど首の付け根あたりで動きを止めると、カブルーはそのまま肉にがりっと白い歯をたてた。
 ビリビリとした痛みが走り、ナマエが思わず小さな悲鳴をあげてカブルーの肩に手をやるも、彼の体はびくともしない。何かを刻むようにしばらくナマエの首筋に噛み付いていた彼は、「カブルー」とナマエのか細い声を聞くと、ようやく身を起こした。


「俺のものっていうマーク。さっきみたいに他の男がナマエに触れるなんて我慢できないから、もう隠すのはやめる。だから、ナマエも覚悟して?」


 それは、他者からのやっかみのことか、はたまた彼の愛の重さのことか。
 ギラギラと瞳の奥に見える色は、さながら宝を見つけた冒険者のようだった。


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