家々にかぼちゃのランタンが並べられ、魔女や悪魔の仮装をした子どもたちが楽しそうに街を練り歩く。モビーディック号が立ち寄った島ではちょうど秋の収穫を祝う祭が行われており、なわばりとして島を治める白ひげ海賊団の面々もそれに招待されていた。
船員やナースたちも各々が仮装を楽しみ、火の粉をあげる
夜の海で優雅に佇むモビーディック号には船番の者達が残っているが、恐らく彼女はそこにはいないだろう。港にたどり着き、キョロキョロと当たりを見回せば、すぐ近くに海を見渡せる小高い丘を見つける。直感的にそちらに歩を進めれば、案の定そこには海を眺める一人の女の姿があった。
「やっと見つけた」
「・・・エース」
「一人でふらつくなよ。なわばりの島と言えども、夜に女一人は危ねェだろうが」
弾かれるように振り返った女は、驚いた表情でこちらを見上げてくる。長いまつ毛は震えていて、擦ったのか目の下が真っ赤になっていた。きっと一人で泣いていたのだろう。「ごめんね」と小さく零す彼女の横に、そのままエースがどかりと腰を下ろせば、女はきゅっとその身を縮こませた。
きっとマルコやイゾウならば、彼女の心を軽くするような優しい言葉をかけてやれるのだろう。生憎、自分はそんな力量を持ち合わせてはいない。どうしたものかと手元の草を弄りながら地面と睨めっこをしていれば、先に口を開いたのは彼女の方だった。
「・・・海の近くに、」
「・・・あ?」
「海の近くに居たら・・・あの人がすぐに気がついて、会いに来てくれるんじゃないかって・・・思って」
ああ、やはり。彼女の瞳には未だ、あの男の残像がこびり付いて離れないのだ。ぽつりと呟かれたその言葉に、エースはただ強く拳を握りしめる。
祭が始まるまで楽しげな表情だった彼女の顔色が一気に曇ったのは、島民から祭の概要を聞かされた時だった。
秋の収穫祭が行われる今日十月三十一日は、現世と
彼女が姿を消したのは、その話を聞いてすぐの時だった。いつもならば、イゾウやマルコたち兄貴分に紛れて酒を嗜んでいる彼女の姿が今日はどこにも見当たらない。それに気がついた時、エースの身体は凍りついてしまうかと思った。
頼むから、化けて出てくれるな。ようやく落ち着きを取り戻し始めた彼女を、これ以上かき乱さないでやってくれ。そんな願いを心の中で唱えながら、やっと見つけ出した女から飛び出した言葉は、エースが想像していた通りのものであった。
「死んだ人の魂が帰ってくるなんて、ただの迷信なのに・・・。ほんと、馬鹿みたいだよね」
自重して笑う彼女の目からは、ぽろぽろと透明な雫が流れ落ちる。彼女のこんな姿を見るのは、彼女の恋人である白ひげ海賊団の船員が戦いの中で亡くなってしまった日以来であろう。海軍と大規模なぶつかり合いになった一年前のあの日──突然大荒れの天候に見舞われてしまい、負傷した彼女の恋人は荒波にのまれ帰らぬ人となってしまったのだ。
周りに心配かけまいと気丈に振る舞う彼女を、歳の近かったエースは放っておくことが出来なかった。何かと声をかけ、外に連れ出し、気がつけば共に過ごす時間が多くなっていた。そしていつしか、自分に特別な笑顔を向けて欲しい、彼女を支えてやりたいと願うようになってしまっていたのだ。当然、彼女の心の中にはかつて恋人だった男が、未だに根強く巣食っていることを知っていながら──。
「・・・泣きたいだけ泣けよ。おれがずっと傍にいてやる」
今この一瞬だけではなく、これからもずっと──。
そんな思いを込めた言葉だが、真意はきっと彼女には伝わっていないだろう。震える小さな肩をそっと抱き寄せながら、エースは目の前の海を真っ直ぐと見据えた。
月明かりの下、黒々とした波の間に蠢くのは死者の魂かはたまた悪霊の魂か。もういっそのことどちらでも構わない。彼女を苦しめようとするものは、この炎で全てを焼き切ってやる。
愛しい女を胸に抱きながら、エースは篝火のように揺らめく炎をその背中に宿した。
#OP夢覆面企画提出作品