「あれ、お前たしかB級の……」
マイチケを読み込んでいた時であった。聞き覚えのある声が聞こえた気がして、声がした方をちらりと見るとそこには聞き覚えも何も私が所属する組織のナンバーワンの姿があった。
さあっと顔から血の気が引くのが自分でも分かったが筺体からは読み込み完了の音が響く。
操作しながら状況を処理できる程器用でない私は声を発することが出来ないまま太刀川さんと筺体で顔を行ったり来たりさせることしか出来ない。
「えーと確か苗字」
私の名前を思い出したらしい太刀川さんにどうして思い出してしまうんだ、そもそもどうして気付いてしまったんだと思いながらも「そうです……」と蚊の鳴くような声で返事をするとあろうことか太刀川さんは隣の椅子に座った。
「それ何やってんの?」
「えっ、ええと、プ●パラっていう、女の子を着せ替えして遊ぶゲームです……」
「へー、見てていい?」
「えっ」
正直さっさと立ち去って欲しい。しかしほとんど話したことのない人にそんなことを言える程神経が太い訳じゃない私は仕方なく了承した。
太刀川さんと話しているうちに時間切れで勝手に遊ぶモードが選ばれていた。今日は誰で遊ぶ?の声に自分のマイキャラを選択する。
「それはアニメ? のキャラなのか?」
「あ、いや、これは私の作ったキャラです、一応……」
「ん? 苗字の作ったキャラが出てんのか?」
「ええと、そもそもキャラを作って育てていくゲームなんです……」
あらかじめ着せるコーデを決めておいて良かった。隣で見られている状況ですることなんてないから緊張してしょうがない。曲を選択してコーデを読み込んでいくと太刀川さんから「おお」という声が漏れる。本来ならこの後トモチケを読み込むのだが基本ぼっちプレイの私がトモチケを持っている訳もなく、そのまま先に進む。
「あ、今両隣に来たのはアニメのキャラですよ」
「へえ〜」
曲が開始して、リズムに合わせて叩いている間も隣から視線をビシバシ感じて落ち着かない。緊張して少し姿勢がよくなったが何故か踵を上げたまま固定してしまったせいで足が震える。
途中で飽きるかなと思ったのに結局太刀川さんは最後まで見ていて、出てきたプリチケを見て「へ〜、すげえ」と感心したような声を出していた。
太刀川さんが立ち去る様子もないし、今日のことは口止めしてもう帰ろうかと思ったのに、太刀川さんが「なあなあ」と隣で座ったまま声をかけるので上げかけた腰を下ろす。
「俺の前にあるのも同じ機械なのか?」
「そうですね」
「おかねをいれてねって書いてある。百円で出来んのか」
チャリン。財布から銀色に光る小銭を取り出してそのまま投入した太刀川さんに唖然とするほかない。
「俺もキャラ作れんの?」
「えっ、あっ、作れます」
どうやって作んの、と言った太刀川さんの為にマイキャラをつくる、のところまで操作してやる。名前を入れる画面で当然のように「けい」と入れたことにびっくりしていたら年齢を選ぶ画面で普通に「3さい」を選んでいて更に驚いた。マイキャラパーツを選ぶ段階になってようやく、「あ、これ女のキャラしか作れねーのか」と気付いているのを見て説明が足りなかったと思ったがまさかプレイするなんて誰が思うのか。女の子しか作れないと知っても特に気にした風もなくパーツを選んでいる光景が受け入れがたくてつい凝視してしまう。
「できた」
おっとり顔で髪はサニーオレンジ色のサイドポニー。かわいいだろ、と言うのに素直に頷けば「で、これからどうすんの?」と言うのでそういえば初めてだからコーデとか全然持っていないんだったと思い出す。適当に曲を選んで、さっき使っていた私のコーデを読み込ませると太刀川さんからまた感嘆の声が上がった。
トモチケを読み込ませる画面で、どうしようか迷ったもののせっかくなのでさっき作ったトモチケを読み込ませると太刀川さんの「けい」と同じ衣装を着た私のマイキャラが現れる。
「あれっ、これさっきの子だろ」
「私のマイキャラです」
プリチケにはマイチケとトモチケの部分があって、他人のトモチケの部分を読み込ませるとこうやって一緒にライブ出来るのだと説明するとそうなのか、と太刀川さんが頷いた。
それから、枠にハートが重なった時に赤いボタンを叩くんですよ、と説明して私は隣でライブを見守る。普段自分がやっている時はあまりしっかりライブを見れないから、自分のキャラが踊っている姿をじっくり見るのは新鮮だ。かわいいなあ、と親バカを発揮しつつサイリウムチェンジの時は連打を少し手伝って、排出コーデ選択の画面で好きなのを選んでもらった後出てきたプリチケを見て太刀川さんは「すげえ」と目をきらきらさせていた。
「楽しいな、これ」
「えっ、本当ですか」
「おう。また一緒にやろうぜ」
まさかの一言だ。太刀川さんがプ●パラに興味を持つことですら驚いたのに、プレイし始めて、更にその次があるなんて。
「良いですけど……ボーダーとか他のみんなには私がプ●パラやってたこと内緒にしてくださいよ」
驚いて一瞬脳が停止したが、再び動き始めた時に私は大事なことを言わなければと思い出した。今太刀川さんが奇跡的にプ●パラに興味を持ってくれたおかげで嫌な雰囲気になっていないがもしこれが他の、こういったことに理解のない隊員だったならと考えるとぞっとする。
「何で?」
「ええと、本来のターゲットは小さい女の子なのにそれをもうすぐ二十歳になる女がやってるっていうのはちょっと、周りの目が痛いというか……」
「じゃあ俺はもっと周りの目が痛い訳だな」
二十歳の男だもんな、とヒゲを撫でて頷いている太刀川さん。確かに私がプ●パラをしている時より違和感を感じる気がする。
「……そうなりますね」
「まあ二人でやれば怖くねーだろ。また行くとき声かけろよ」
「わ、わかりました」
でも一応私達以外にもプ●パラしてるお兄さんお姉さんとたまに遭遇するんですよ、と言おうとしたら先に言われてしまったので頷く。ずっと一人でプ●パラをしてきたので人に誘われるのが初めてで、それが太刀川さんだということを除いても嬉しい。太刀川さんと一緒にすることで今以上に噛みあわない絵面になってしまうとかそういうのは考えずとりあえず今は素直に喜ぶことにする。
「ところでこれってそのまま折れば千切れるもんなのか?」
出てきたプリチケを指さしてそう言った太刀川さん。まさか、と思っていると私の返事を待つ前にパキっていた。それからほい、と差し出してくるのに私は唖然とする。
「えっ、これがあれば俺の子ともライブ出来るんじゃないのか?」
私の様子に太刀川さんは何か間違えたのかという顔をするが太刀川さんは何も間違っていない。私がトモチケをパキるのが初めてで、戸惑っただけなのだ。
「それで合ってますよ。あと、これは私の子のトモチケなので良かったら次のライブも呼んでください」
先程読み込んだトモチケをパキると太刀川さんに渡す。代わりに太刀川さんのトモチケを受け取ると、なんだか胸が熱くなった。まさか初めてのトモチケ交換が太刀川さんとだとは思わなかった。人に会わない時間帯を選んでいるし、人の気配を感じるとすぐに撤退するので今まで一度もトモチケを交換したことが無かったが、トモチケを交換するってこんなに嬉しいことなんだ。何も言えないでいる私に太刀川さんが苗字はまだやんの? と声をかける。
「あ、じゃあ、せっかくトモチケも貰ったしもう一回だけ……」
「おー、俺も見てよ」
筺体に再び百円を投入した。曲を選んでコーデを読み込んで、いつも飛ばしていたトモチケを読み込む画面。さっき貰ったトモチケを差し込むとさっきまでライブしていたけいちゃんが現れた。どうしよう、思った以上にテンションが上がる。顔がにやける。
口元を抑えながら選択を続けて、ふと隣を見ると太刀川さんが「なんか自分のキャラが隣にいるの、嬉しいな」と言った。すごく分かります。
ライブが始まってからも太刀川さんは隣で「おー、かわいい」と称賛を続けている。そのすべてにそうなんですよ、自分が作ったキャラが踊っているのはかわいいんですよ、と頷き続ける私。最後にポーズをキメて、排出コーデを選んで、出てきたトモチケをもう一度パキって渡す。太刀川さんはまたも嬉しそうな顔をしていた。
私の家には今まで溜めに溜め続けたトモチケが大量に眠っているのだが、それを渡すのは引かれるだろうか。今の容姿のものを厳選してなら大丈夫だろうか。自分が思っている以上にプ●パラの話が出来る人がいるというのが嬉しくてついつい思考が先走ってしまうのを止められない。
「そうだ、連絡先」
「え?」
「いちいちボーダー内で探して連絡取るのも面倒くさいし番号教えて」
「あ、はい」
俺こいつの使い方あんま分かってないから入力して、とホーム画面そのままの端末を渡された。ええ、と思いながらも連絡帳を探して、苗字名前の文字と番号を入力して返却する。
「今かけるから登録しといて」
「あ、はい」
宣言通りに私のスマホが震えて、かかってきた番号をアドレス帳に登録した。まさか太刀川さんの番号まで知ってしまうとは。
また行くときは絶対連絡しろよ、と強調して太刀川さんは去って行った。
今まで行きたい時に行っていたがトモチケを手に入れてしまった今、出来ることなら明日もやりに行きたい。
でも明日とか、そんなすぐに誘ったら引かれるんじゃないかという私の心配などまるで無かったかのように、次の日ボーダーで会った太刀川さんは「探したぞ苗字! 今日この後行くぞ!」と私を連行した。番号を交換したんだから電話してくれればいいのにだとか、もうちょっと目立たないようにお願いしますとか言いたいことはたくさんあったが嬉しいか嬉しくないかで言われると嬉しい訳で。ボーダー内では必死に無表情を装っていたが敷地を出るともう駄目だった。
早くプ●パラがしたい。今の私の思考を占めるのはそれのみだ。心なしか早歩きになりつつある私に太刀川さんが言った。
「早くプ●パラしてえなあ」
私の心の声が漏れたのかと思う一言に思わず噴き出した。