※玉狛支部のねつ造いっぱい

 名前ちゃんは玉狛支部に遊びに来る宇佐美の友人である。オペレーターで、まだどこの隊にも所属していないが宇佐美の技術に惚れ込んで勉強させてもらっているのだとかなんとか。それ以外でも一緒に宿題をしたり小南も交えておしゃべりしたりと何かと入り浸っている。宇佐美か小南が食事当番の日には一緒に作って一緒に食べて行く。暗くなってから帰るときには送っていったことだってある。明るくて元気な、最近の女子高生って感じの子だ。

 その日のおれはちょっとだけ持っている荷物が多くて、横着をして肘でチャイムを押した。荷物全部おろすの面倒だし、誰か開けてくれたらうれしいな〜と思って。インターホンに出たのは宇佐美だった。

「ごめん、ちょっと荷物多くてさ。開けてくれない?」

 カメラで姿を確認しているであろう宇佐美にそう伝えると「あ、もう名前が向かってるから多分すぐ開けてくれるよ」と言われた。
 名前ちゃん、今日も来てるのか。それは視えなかったな、と思っていると待つ間もなくドアが開いた。

「ご苦労様です! あれっ!? 迅さんだ」
「迅さんですよ。何〜、誰と勘違いしたの」

 とりあえず、玄関に荷物を下ろそうとすると「手伝いますよ!」と上から取られてしまった。上に置いているのはそんなに重くはないけど、かといって軽くもない。えっ、悪いからいいよ、と言おうとしたのに「どこまでですか?」と既に名前ちゃんは歩き出そうとしている。

「大丈夫? 重くない?」
「全然大丈夫ですよ。迅さんの部屋までですか?」
「うん。じゃあ部屋の前まで」

 名前ちゃんは軽やかな足取りでおれの部屋に向かう。全然重くなさそう。
 部屋の前で段ボールをそっとおろした名前ちゃんに「扉開けますか?」と聞かれたのでお願いしておいた。名前ちゃんに開けてもらった部屋で自分の持っている荷物を下ろして、名前ちゃんが持ってきてくれた荷物も運びこんだ。

「いや〜、ごめんな。助かった」
「いいえ〜」
「お礼何がいい? ぼんち揚げならすぐ用意できるよ」

 律儀に扉の外で待っていた名前ちゃんに部屋から取ってきたぼんち揚げ一袋を手渡すと「やった!」と喜んでいた。ぼんち揚げが喜ばれるとおれも嬉しい。

「チャイム鳴らしたときも開けてくれてありがとね」
「いえいえ。実は私、玉狛支部宛に荷物を送ってて。てっきりそれが来たかと思ったからチャイムが鳴った瞬間走っちゃったんですよね」
「ああ、それでびっくりしてたんだ。ごめんな〜、迅さんで」

 なんでも宇佐美と小南とおそろいのパジャマを通販したとか。通販したのは名前ちゃんだが、名前ちゃんの家は両親共働きで夜が遅い。受け取れるかわからないから宇佐美の助言で誰かしらいるであろう玉狛に送ったのだと言った。

「今日はちょうど栞との約束があったから私が受け取る気満々でシャチハタまで持ってきたんですよ」
「わ、ほんとだ」

 名前ちゃんは制服のポケットからシャチハタを取り出した。サインで良いんじゃない? ハンコ持ち歩くの危ないし、と思っていたけど丁度別件でハンコを使う用事があったらしい。

「まあ迅さんの荷物が受け取れて良かったです」
「本当に助かったよ。もう名前ちゃんが女神に見えたね」
「あはは、大げさ!」
「せっかくだし受取確認の判押しとく?」
「いいんですか? じゃあ押しちゃお〜」

 どこに押してほしいですか? と名前ちゃんがシャチハタのキャップを開けた。やっぱおでこですかね〜、と不穏なことを言っている。おでこめがけて押そうとするので両手でおでこをガードした。

「おでこはちょっと恥ずかしいな〜。手とかにしてよ」

 はい、と手の甲を出すと名前ちゃんは下からおれの手を抑えた。えっ、ふつうにポンって押してくれるのかと思ったのに。ちょっとどきどきしちゃうなー、なんて思っていたらおれの手が動かないように固定した上で名前ちゃんはおれの手の甲にシャチハタを押した。平らじゃないところに押すのって難しいのに、きれいに押されている。

「おっ、綺麗についた。腕がいいね〜、名前ちゃん」
「でしょ〜。じゃあこれで受取完了ってことで」

 ご苦労様です、と名前ちゃんが敬礼のポーズを取ったのでおれも倣っておいた。
 手の甲に苗字という判が押されているのをまじまじとみてしまう。いつも名前ちゃんと呼ぶけど、そういえば名前ちゃんて苗字って苗字なんだよな。それを見ていたら玉狛のルールを思い出した。人が多いから持ち物にちゃんと名前を書くってやつ。

「そういえばうち、どれが誰のものか分かるように持ち物に名前書くんだよね」
「え、パンツとかもですか?」
「うん、タグのところに」
「えー、絶対見たら笑っちゃう」
「見る?」
「見たい見たい」
「えっ、見たいの? エッチだなー、名前ちゃん」
「自分から見せようとした癖に〜!」

 エッチなのは迅さんじゃん、と名前ちゃんは笑っている。そういう方面の話にも耐性があるのか積極的に乗っかってくるのでたまにおれの方が身を引いてしまう。

「で、なんでしたっけ。持ち物に名前書く話?」
「そうそう。今おれの手に名前ちゃんの判押されたの見てたらさ、なんか名前ちゃんの持ち物になったみたいだなって思ったんだよね」

 あっ、なんか恥ずかしいこと言っちゃったかな、と思ったけど名前ちゃんの反応があっさりしたものだったのでちょっと安心した。

「えー、なんか恐れ多い」
「ははは、そんな大層なもんじゃないって」
「今迅さんが私のものだったとして、って考えてみたんですけど一緒にゲームしてほしいぐらいしか思いつかなかったな」
「ゲームは暇なときなら全然付き合うよ」
「やった」

 宇佐美達ともする約束をしたらしく、今度来るとき持ってきますね、と名前ちゃんは言った。いやでも私のものって響きはちょっと良いよね。言ったら引かれるだろうから言わないでおくけど。
 部屋の前で喋りすぎてしまったな、と思っていると案の定宇佐美が「二人ともおそーい」と呼びに来た。

「だめだよ〜、迅さん。名前のこと独り占めしちゃ」
「ごめんごめん。名前ちゃん、今日は遊びに来たの?」
「今日は栞に宿題教えて貰いに来たんですよ」
「そう! なのに全然帰ってこないんだもん、逃げたかと思った」
「ごめんってば」

 名前ちゃんは勉強があまり好きでは無いらしい。オペレーター業は熱心に学んでるように見えるし、進学校なのだから頭は悪くないと思うけど。
 宿題しに来たなら邪魔しちゃいけないな。二人は宇佐美の部屋で宿題をするらしく、連れだって消えて行った。おれもさっきの段ボールを開封して片づけるか、と部屋に戻った。




***



 しばらく没頭しているとチャイムが鳴った。今度こそ宅配便かもな、と思っていると扉に向かう足音が聞こえた。部屋を出て様子を覗きに行くとちょうど宅配便のお兄さんに名前ちゃんが受取確認の判を押すところだった。お兄さんを見送って振り向いた名前ちゃんと目が合う。

「どんなパジャマ買ったの?」
「ふふ、かわいいやつですよ」
「かわいいやつか〜。お泊り会とかするの?」
「うちの親が出張の日とかで都合がついたらうちでどうかなって話してますよ」
「なんだ、うちでするならかわいいパジャマ姿見れるかと思ったのに」
「えっ、見たいんですか?」
「見たい見たい」
「パジャマ着るときってすっぴんだからなー」

 まあ玉狛に泊まる機会があったらってことで、と名前ちゃんは言った。いつでも泊まっていいのに、と思ったけどまあその辺は宇佐美達が言うだろう。あんまり話してるとまた宇佐美に怒られるかな、と思っていると買い物袋を携えたレイジさんが帰ってきた。

「なんだ、来てたのか。飯食べてくか?」
「えっ、いいんですか?」
「今日は卵が安かったから天津飯だ」
「やった〜!」

 レイジさんのごはんおいしいから大好き、と名前ちゃんが言った。あくまで係っているのはレイジさんのごはんに対してだけど、大好き、とか言われるとちょっとどきっとしてしまう。ごはんとかじゃなくても今の子はふつうに大好きって言うからなあ。ちょっと複雑なきもちが顔に出てたのかレイジさんに「何だ」と言われた。

「いや、今の子ってすぐ大好きとか言うよね」
「飯の話だろう」
「今の子って迅さんと歳そんな変わらないし」
「そうだけどさ」
「迅さんのお鍋も好きですよ。具がいっぱいだし」
「そこは迅さんのお鍋も大好きって言って欲しかったな〜」
「迅さんのお鍋も大好き!」
「ちょっとレイジさん、おれ今女子高生に弄ばれてる」
「飯の話だろう」
「迅さんかわいい〜」

 レイジさんに何をやってるんだお前はって顔で見られた。本当に何をやってるんだろうおれ。最近の子、男に向かってかわいいとかもふつうに言うよね。たまにレイジさんとかボス相手にもかわいいって言ってるからそのフランクさにちょっとびっくりする。

「あ、ご飯。なんか手伝いますか?」
「いや、大丈夫だ」

 レイジさんが首を振った。名前ちゃんを見ていたら宇佐美が突撃してくる未来が視えた。そろそろ宇佐美の元に帰らせた方が良い気がする。

「名前ちゃん宿題終わった? そろそろ戻らないと宇佐美に怒られるんじゃない?」
「そうだった! 戻ります……」
「うん、頑張って。あ、荷物運ぼうか」
「軽いから大丈夫ですよ」

 届いた箱を抱えて名前ちゃんは宇佐美の部屋に戻って行った。扉の奥から楽しそうな話声が聞こえてくる。

「宇佐美と小南とおそろいのかわいいパジャマ買ったんだって」
「そうか」
「うちでお泊り会すればいいのにな」
「……自分で言え」
「いや、レイジさんに言って欲しいとかじゃなくて願望の話だってば」
「だから自分で言えばいいだろう」

 レイジさんが溜息を吐いた。別に、そういうのじゃないんだけど。レイジさんにはおれが年下の女の子を意識してるように見えるのか。急に恥ずかしくなってきた。

190410


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