「そういや前から思ってたんやけど」
「うん」
「俺のおっぱいめっちゃ見てくんのなんで?」
 フリーター生活3ヶ月目。リストラされた私を見兼ねた同級生が自身の店でバイトとして雇い始め、2ヶ月が経った頃だった。時間だけは有り余っている私がせめて雇ってもらった恩を返すためにと教わっていた閉店業務が済み、一息ついたところで話かけられたので。これは雑談かな、と半分くらい気を抜いていた私は、治の一言に頭が真っ白になったし、上手い言い訳も浮かばず、ちゃうねん、と弁解するにしてはあまり良くない一歩目を踏み出してしまった。
「うん?」
 治は特に怒った風もなく、こちらの言い分を聞いてくれる姿勢でいる。何と言おうか、と考えたものの、やっぱり頭は全く働かなかった。正直に言うと身長の関係で一番に目に入るのがおっぱいで、更に治のおっぱいはバン! という感じなので、でっかくてええな〜と思ってつい見てしまっていたのだが、口に出すとセクハラにしかならない。
「あんな……ええと……いやごめんどう言うてもセクハラやわ」
「おっぱいめっちゃ見とることに関しては否定せんのや?」
「それは本人が視線を感じとる以上、否定できん……!」
 なぜなら大変申し訳ないことにこちらもおっぱいを見ていた自覚があるので。そうか、バレとったか、と思ったものの自分もおっぱいを見られた時は明確に見られたな、と気付くのでそりゃそうやんな、と納得もする。
「まあそれに関してはあんま気にしてへんから、苗字も気にせんでええよ。でも理由は知りたいやんか。な?」
 気にしてへんのは良かったけど、な? の圧よ。
「セクハラで訴えんと約束してくれるなら……」
「訴えんて」
 治は本当に気にしていないのか、観念して捻り出した言葉にも軽い調子で返すので、私も腹をくくることにした。
「まず大前提として私が普通に前を向いた時に見えるのは治の乳なんよ」
「おお」
 とりあえず、まずこれだけは言っておかなければならない。
「そんで、これが治のおっぱいを気にし出したきっかけなんやけど、ある日の治はTシャツに乳首が浮いてたんよ」
 そう、あれはここでバイトを始めて二週間ほど経った頃だった。朝の挨拶をしようと振り向いたところで、ピンポイントで目に入ってしまったのだ。
 治がえっ、という顔をして胸を隠した。今日は浮いてへんから大丈夫やで。
「そん時言うてやぁ」
「や〜、気まずいやん?」
「そうやけども」
 高校時代に交流があったとは言え、久しぶりに会った同級生に「あんた乳首浮いてんで!」と言えるほどの度胸はその時の私には無かった。
 最近は高校の時以上に打ち解けてきたので、今日治に聞かれなかったら、そのうち私から「ずっと思っとったけど乳首浮いてんで」と言っていたかもしれない。
「そんで、乳首って浮いとると目で追ってしまうやん?」
「まあ……?」
「その日を境に私は治の乳首浮きチェックをするようになり」
「えっ恥ず」
「そうしているうちに治っておっぱいでっかいんや……ということに気付き」
「おお……」
「密かに自分の胸囲と比べていた」
「なんで?」
 性別もちゃうし比べるものとちゃうやん、と治は呆れたような顔をしている。
 分かっとる。それは分かっとんねんけど。
「ずっと思っとったけど、治、高校の時よりおっぱい育っとるよな」
「ん〜、バレー辞めて一回ちょっと太ったからかもなあ」
「私も高校の頃よりまあまあおっぱいも腹も育った自覚があんねんけど、成長率負けてへん? て思って密かにライバル視しとった」
「おもろ、なんでそこで張り合ってくんねん」
「胸だけにな」
「やかましいわ」
「あと単純におっぱいデカいのが好きやからおっぱいデカくてええなとも思っとった」
「急に流れ変わったな」
 もうここまでまだ来たらええか、と口を滑らすと治も真剣な顔をし出した。
「Tシャツのおっぱいのとこムチムチしとんの好きやねん」
「あ〜それはちょっと分かるわ」
 うんうん、と頷く治。なんでそこノッてくれるんや。
「店長、散々セクハラを働いた私はクビになるんやろうか……?」
「なんで急に弱気やねん、気にせん言うとるて」
 怖くなって確認すると、マジで気にしていない顔をしていたのでちょっとだけ安心した。いや、私がセクハラをしたという事実は消えないので気をつけよとは思う。
「そんな気にするんやったら、今日は遠慮せんでエッチな話する会ってことにしよ。無礼講や」
 私がひっそり反省をしていることに気付いたのか、治がグッと親指を立てて提案してきた。ええやつすぎるやろ。
「なにその誘い文句、最高すぎん?」
「ノリノリやん」
 高校の時はちょっと照れていた話題も大人になるとウキウキで出来るようになってしまう。
「なんかある? エッチな話」
 さっきは私が話したので、今度は治の話を聞こう、とパスを出してみる。
「ん〜、これはエッチな話か分からんけど」
「うん」
「俺乳首めっちゃ感じんねん」
「それは今日1番のエッチな話やな」
 何のカミングアウト? と思ったものの、治なりに気を遣ってくれたのかもしれない。さっきから気遣い屋さんがすぎる。いや、どういう気の遣い方やねんとはちょっと思っとるけど。
「歴代彼女に開発された的な話なん?」
「まあそれもある」
「はえ〜、治の彼女みんなイケイケやったもんな。ちなみに私も歴代彼氏の乳首をこれでもかってぐらい触っとった」
 歴代彼氏全員に何故こんなところを触るのかと問われたが、そこに乳首があるからや、と答えると何故か全員納得していた。
「おお、俺ら相性ええかもな」
「またまた〜」
「とか言ってめっちゃおっぱい見るやん?」
 セクハラやあ、と言いながら両手で自分のおっぱいを寄せ始めたので多分治もノリノリだ。
「触ってみる?」
「えっ」
「俺にもおっぱい触らせてくれるんやったらええよ」
 おっぱいを寄せながら、こて、と首を傾げる治。ずるい仕草しとんなあ、と思いつつ、ここで引くのも癪やしな、とノってみことにした。
「服の上からならええよ」
「マジ?」
「さすがに生乳はあかんけど服の上ならええよ」
「太っ腹やな〜」
「誰の腹が太いねん」
「お約束すぎるやろ。で、触るん?」
「えっ、マジで触ってええの?」
「ええよ」
「え〜!」
 ほい、と治が胸を張る。さすがにな、と遠慮しようとしたのだが「その遠慮今更すぎんで」と言われたので遠慮なく触ることにした。今日の乳首は浮いていないので乳首を探すところからだ。
「乳首探検隊、いきます」
「ふざけ方オッサンやん」
「うっさい、黙って探検されとき」
 両手をおっぱいに沿わせて、指先で当たりをつける。おっぱいがめっちゃ柔らかいことに感動しつつ、この辺かな、というところをスリスリしていると「触り方エロいな」と野次られた。
「乳首なら遠慮なく勃たせてええで」
「ちんちんはあかんの?」
「え? 逆に乳首でちんちん勃たせられんの?」
「めっちゃ余裕」
「エッチや!」
「そこで喜んでくれるんや」
 なんでや、乳首触られてちんちん勃つのめっちゃエロいやろ!
「ちんちんに関しては何のお構いも出来んけど、それで良ければ全然勃たせてもらって構わんよ」
「扱いの差ありすぎやろ、あ、待って、あんまぐりぐりせんで」
「痛い?」
「や、普通に良くてマジでちんちん勃つ」
「めっちゃ弱いやん」
 爆笑なんやけど、と辿り着いた乳首の周りをなぞっていると意図がバレたようで「ふ、乳首浮かせようとるんやめろや」とクレームが入った。
「……てかめっちゃ上手ない?」
「ほんまに? 照れるわあ」
 歴代彼氏が良さそうだった触り方をしていると治がそわそわし出したので気持ちいいのかもしれない。乳首も勃ってきたし。友達に乳首を触るのが上手いと褒められることが本当に喜ばしいのかは一旦置いておく。
「てか向かい合わせ気まずない?」
「ん? そうか?」
 なんだか向かい合っているのがちょっと恥ずかしくなって聞いてみたが、治はそんなことないらしい。
「そうやろ、触りづらいしちょっと後ろ向いてや」
「ん〜、このままでええやろ」
「ええ……」
 逆になんで気まずないねん、と思ったけど、宮兄弟って昔からちょっと変わっとる時あったな、と思い出した。治を見上げると「ん?」と小首を傾げている。なんかずるいわあ。
「治は自分で触る時どうしてんの?」
「それは恥ずいから内緒や」
 そこ内緒なんや。
 なんだかかわいく思えてきたので、もうちょっとだけエッチな触り方をしてみることにする。
「内緒か〜。私はこういうのが好きなんやけど、どう?」
 周囲を優しく撫でたあと、ピンピンになってきた乳首を弾くと頭上から「ンッ」と声が聞こえた。
「声出たな」
「言わんでええって。それより、今の苗字がこうされるのが好きって話やんな? そんなん言ってええの?」
「ふ、内緒〜」
「は? いつのまにそんな駆け引き覚えてん」
「ええやろ、さっきの治クンの真似や」
 もう一度ピン、と弾くとさっきまでにこにこしていた治の口が歪んだ。
「あかん、マジでムラムラしてきた。ちょお終わりにしよ」
 このままだとちんちん大変になる、と治が言うので、私の方が楽しくなってきてしまった。
「自分でちんちん触ってええで」
「ここでちんちん出すのはあかんやん……」
「せやなあ」
「俺んちきて続きする?」
「ありがとう、楽しかったわ」
「変わり身早すぎやろ」
 名残惜しいがパッとおっぱいから手を離した。さよなら治のおっぱい、多分もう触る機会はないだろう。
 ん? そういや、私のおっぱいも触らした方がええのか?
「苗字のおっぱいはまた今度触らしてや」
 まあ自分から言わんでもええか、と思っていたが、治から切り出してきた。いや、改めて触られる方が気まずいやん!?
「別に今ペッて触ってええよ」
「今触ったらちんちんも構ってもらわんとあかんくなるもん」
「ごめんな、ちんちんにはあんま興味ないねん……」
「正直すぎやろ」
 興味ないっていうか、友達のちんちんは大分気まずいやん。どうしても対価が必要だと言うのなら、元気なしちんちんの時に頼みたい。
「私のおっぱいは虚無ちんちんの時に頼むわ」
「なんやねん虚無ちんちんて」
「賢者タイムとかで性欲湧かん時あるやん、そういう時や」
「それで言うと自家発電直後に苗字のおっぱい触ることになるんやけど、それはそれでなんやねんて感じやん」
「えっ、オナニーまで見してくれんの?」
「えっ、見たいん?」
 なんやその押したらいけそうな感じは。正直なところ、興味ないとは言い切れない。
「ん〜、興味的にはアリよりのアリやな」
「めっちゃ見たいやん、おもろ」
 まあ考えとくわ、と言うので、一考の余地あるんや、とびっくりしたのだが、目に入った時計を見てまたびっくりした。23時!?
「ちょ、時間ヤバ! 23時て!」
「うお、ほんまや」
 治も時計を見て驚いたようだった。ちょっとおっぱいで時間を潰しすぎた。
「治はいつもやけど明日私も朝からシフト入っとるやんな」
「すまん、長いこと引き留めたし送ってくわ」
 店の消灯をしながら、チャリやったよな? と聞かれたが、チャリで5分の距離でわざわざ着いてきてもらうのは申し訳ないので、丁重に断ることにする。
「いや、近いからそんなんせんでええよ! 気持ちだけど貰っとくわ、ありがとうね」
「近い言うても危ないやろ」
「いやいや、治は今からオナニーするやろ? さっさと2階のトイレ篭っとき」
「いや従業員の安全より自分の性欲優先する店長ヤバいやろ」
 それはそうだが、今は全然優先して欲しい。
「ほんまにええって。私チャリ漕ぐのめっちゃ速いねん。治も不審者も私のスピードには追いつけんからほんま心配せんで」
 じゃ、と自転車の鍵を見せて、治が何か言う前にダッシュで店を出た。
 ヒュウ、と吹く風に肌寒さを感じる。それと同時に急速にに頭も冷えてくる。
 なんか一般的ではないことをしたな? いくら無礼講でもよくないノリやったよな?
 家までの道を自転車で爆走しながらも脳内は先ほどのことを思い出して悶々とすること5分。不審者に出会うこともなく無事にアパートに着いたわけだが、ちょうどそのタイミングでスマホが震えた。
W無事着いたか?W
 メッセージアプリに治からのメッセージが届いていた。律儀だ。
 無事に着いたで、と返信するとすぐに返事が来る。
W明後日のシフト、ラストまでやろ? そん時今日の続きしよW
 続きってなんやねん!
 なんて返そうか悩んだものの、結局私も関西人らしくノリで生きているわけで。
Wちんちん萎れさせといてなW
 送ってから、こういう時にウケを狙ってしまうのは本当に良くないな、と思った。


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Lilca