我慢は良くない、と気付いたあの日以降、ジェイドくんは時々俺の部屋に遊びに来るようになった。部屋でやることは俺の女装写真を撮る手伝いだったり、ジェイドくんの山の収穫物を一緒に見たり、ジェイドくんがやったことがないと言うゲームをやったり、お互い全然別のことをしたり、色々だ。キスはジェイドくんからされることが多いがジェイドくんに焦らされて我慢が出来なくなった時は俺からしたりもする。ジェイドくんが油断している時にすると、悪い顔で仕返ししてくれるのでちょっと楽しい。
 さっきも完全に意識が逸れているだろうな、という時に振り向かせてキスをしたら「もう我慢が出来なくなったんですか?」とやらしい顔で笑っていた。

「どこをどうされるのが気持ち良いですか? 教えてください」

 キスの合間、好みの男に至近距離で言われるとどんな恥ずかしいことも喋ってしまいそうになる。でもだめだ。最近気付いたが、俺ばかりが暴かれている。

「……ジェイドくんって自分は言わない癖に俺にはそういうの言わせたがるよね」
「ルネくんの口から聞きたいんですよ」
「俺ばっかりはやだって」
「そんなこと言わずに」
「も〜、アズールくんに相談しようかな」

 ジェイドくんだって俺の本心を無理やり暴いたわけだし、アズールくんに本音を聞き出す薬みたいなのを依頼したら作ってくれないだろうか。どうやってジェイドくんに飲ませるという問題はあるけど。
 何の気なしに言った言葉が引っ掛かったようで、ジェイドくんが首を傾げる。

「どうしてそこでアズールの名前が出てくるんです?」
「え? だってジェイドくんがいつも言ってるでしょ。お困りごとならアズールに相談すればいいって」
「ルネくんに言ったことは無い筈ですが」
「そうだっけ」

 確かに他の人に言っているのはよく聞くけど、俺自身が言われたことはないかもしれない。

「いつもルネくんの相談に乗り困った時に手を差し伸べているのは誰か、胸に手を当てて考えてみては?」

 まあそれはジェイドくんなんだけど。ジェイドくんもジェイドくんて答えて欲しくて言ってるんだろうし。何かお困りごとでも? とかで返ってくるかと思っていたので、この返しはちょっと意外だった。
 でも、そのままジェイドくんと答えるのは面白くないので、日頃の仕返しも兼ねて少しだけ意地悪することにした。

「う〜ん、カイルくんかなあ」
「いつも昼食を一緒に召し上がっているご友人ですね」
「そうそう、カイルくん、俺が悩んでるとすぐ気付いてくれるんだよね。優しくて好き」

 ちょっとわざとらしかっただろうか。どんな反応するかなあと思っていたらジェイドくんはにっこりと笑った。完璧な笑顔の仮面である。

「なるほど、では今後は衣装の相談などもカイルさんにされてみてはいかがでしょう。ルネくんはカイルさんのことがとてもお好きなようですし」
「えーっと、怒ってる?」
「いいえ、怒っているわけではありませんよ。僕もこれからの時期はモストロ・ラウンジの新メニュー開発などで忙しくなりますし、こうして週末お部屋を訪ねることも難しくなりそうなので」
「そうなんだ、寂しいね」
「カイルさんなら同じ寮ですし、相談もしやすいのではないでしょうか」
「え〜、カイルくんに相談するなら女装してることから話さないといけないから」
「いい機会なのではありませんか?」
「そ、そうかな?」

 どうしよう、謝らせてもくれない。てっきり、僕はこんなにルネくんに尽くしているのに、だとかで謝るチャンスを貰って終わりだと思っていた。

「僕、この後アズールと約束があるんです。今日はこの辺りで失礼させて頂きますね」
「あ、うん。また来週ね」
「はい、また来週」

 笑顔の仮面のままジェイドくんは部屋から出て行った。いつもならキスの一つや二つしていくのにそれも無く。
 やっぱり怒ってるんじゃん!

「……という相談を僕にしたら火に油を注ぐことになるんじゃないか?」
「やっぱそう思う?」

 次の週、いつものごとくカイルくんとお昼ご飯を食べていると「元気が無いね、風邪でも引いたのか?」と心配されたのでジェイドくんを怒らせたかもしれない、と事情を掻い摘んで説明した。

「うん、ジェイドがそんなことで怒るのは意外ではあるけれどね」
「俺もそう思うよ」
「ルネはわざと言ったんだろう?」
「まあ、そう。よく分かったね」

 俺がわざと言ったことは言わなかったのに。

「そうやって好奇心だけで動くのは君の悪いところだよ」

 カイルくんは呆れたような顔をしている。

「ごめんなさ〜い」
「僕に謝るんじゃなくて、ジェイドとちゃんと話し合うこと」
「分かってるよ。カイルくんって真面目で融通きかないのになんでそういうことには聡いんだろう」
「僕とも喧嘩したいのか?」
「ごめんって」

 カイルくんは俺のそうした言動には慣れているので「僕の分のデザートを取ってきて」で許してくれた。優しい友人だ。


***


 昼食後。改めて、ジェイドくんと話そうと話かけてはいるのだが何だかとても壁を感じる。遠回しな嫌味にキレがないというか、一年の時に戻ったかのようだ。それはそれで悪くはないけど、仲良くなった後のちょっと意地悪なジェイドくんに慣れてしまうとなんだか物足りない。盛り上がってしまうので校舎にいる時は一日一回と決めたキスも今日はまだしていない。
 寂しいな、とジェイドくんを見るとまたあの完璧な笑顔を返された。違う、それじゃない。
 ジェイドくんを無理やり空き教室に連れ込む。

「ジェイドくん、今日のキスは?」
「そういえば、まだでしたね」

 ちゅ、と簡単に唇をくっつけて離れようとするので頬を掴んで引き寄せた。まだ離していなかったから一回のカウントに入るということで。まあ我慢はしないと決めたので二回と言われたところで気にしないのだが。
 ジェイドくんはユニーク魔法を使ったが、俺にはそんな魔法は無いので普通に尋ねるしかない。前と同じように、ジェイドくんの唇を掴んでムニムニと揉む。これでぺろっと話してくれないだろうか。

「前もそれをしていましたね」
「口が滑りやすくなるマッサージだよ」
「なるほど」

 小さい頃、母親がよくやっていたのだ。俺と姉には割と効く。

「……今日は何をお話ししていたんですか?」
「ん?」
「ほら、カイルさんと。盛り上がっていたでしょう?」

 盛り上がってたかな、と昼の様子を思い出す。盛り上がったと言えばカイルくんが持ってきたのが変な形のプチトマトばかりだったことだな、と思い至ったがそれを正直に言っている場合では無いことは俺にも分かる。

「今日はジェイドくんが冷たくて寂しいな〜て話してたんだよ」
「おや、いつもより優しくしたつもりでしたが」
「嘘だよ、壁があるもん」

 ジェイドくんがおや、と言う顔をした。一年一緒にいたらそのくらい分かるよ。

「それより、ルネくんは何でもカイルさんに相談するのですね」
「ジェイドくんだって大事な話はアズールくんかフロイドくんにするでしょ?」
「それは否定出来ませんね」
「そういうのも前は気にならなかったんだけど、今はちょっとだけ二人のこと羨ましくなるよ」

 側から見ていてもオクタヴィネルの三人の絆は特別に見える。友達として、俺が二人よりジェイドくんと深い関係になることはないのだろうな、とも思うし、俺はそういう部分が良くてジェイドくんと友達付き合いをしていたところもある。何故だかキスをする友達という謎のポジションになっているが。
 こういうことを言うのもキスしたぐらいで彼女面? 彼氏面? をしているみたいなのが嫌で躊躇っていたのだけど、俺の方がぺろっと喋ってしまった。ジェイドくん、自分は本心を隠そうとする癖に俺だけ暴こうとするから。

「……それは、嫉妬ですか?」
「……嫉妬ですかね?」

 嫉妬なのかな、これ。嫉妬か。
 それにしても、俺は「嫉妬?」なんて聞かなかったのにジェイドくんは簡単に聞くんだから。

「ちょっと、また俺にだけ言わせる気?」
「ふふ、すみません。思っていたより嬉しかったものですから」
「……ジェイドくんはずるいよね〜」
「おや、こんな僕はお嫌いですか?」
「分かってて言ってるんでしょ?」
「そんなことありませんよ。ルネくんにいつか愛想を尽かされるのではないかと僕は気が気じゃありません」

 わ、わざとらしい。この一年で気付いたが、ジェイドくんは根本の部分で頑固だし、我が強い。愛想を尽かされたところでやりたいようにやる癖に。

「しょうがないから好きだよって言ってあげる」
「僕も、ルネくんのことは好ましく思っています」

 なんだそのちょっと遠回しな言い方は、と思ったけどいつものごっこ遊びの好きですよ、よりは信じられる気がする。

「あ」
「どうしました?」
「そういえば、結局ジェイドくんが何で機嫌悪かったか聞いてない」

 本題だ。ジェイドくんが元のジェイドくんに戻ったので良かった、と思っていたが肝心なことを聞いていなかった。
 俺に嫉妬なんて単語を出させたのだから、1%ぐらいの確率でジェイドくんも嫉妬していたのかもしれないが、本人の口から聞くまでは何とも言えない。

「いやですねぇ、ルネくんはとっくに分かっている癖に。そんなに僕の口から聞きたいんですか?」
「もちろん。いつも無理やり口を割らせるジェイドくんならこの気持ち分かってくれるでしょ?」
「ええ、それは。でも、僕の口からはとても言えません。ほら、僕はシャイなので」

 全然分かんないって返せば良かったかな、と思ったけど、それでもジェイドくんの返答は変わらないのだろう。
 俺のとときは無理やり暴いたくせに! 分かっている癖にってねえ、言ってくれないと確信は持てないんだから! いや、言ってくれてもジェイドくんからだと本音か? と考えてしまうのだけど!

「ジェイドくんはずるい……」
「褒め言葉ですか?」

 ジェイドくんがわざとらしくにっこり笑った。ジェイドくんのそういうところがさ〜!

「……うん、そう、そういうところも好きだから褒め言葉です」

 追いかけたくなる人が好きなんだよ俺は。まあ、今回は俺もわざと煽るような回答をしたんだってまだ言ってないからおあいこだな。これは黙っておこう、と思いながらジェイドくんを見たら、なんだか顔が赤くなっている気がする……?
 えっ、何? 何が刺さったの?

「えっ、どのセリフが良かったの?」
「いえ、そういうわけでは……。ルネくん、キスしても?」
「スイッチが分かんないな〜!?」

 またキスでうやむやにされる気がする。まあ珍しく赤くなってるのが見れたからいいけど。

「ルネくんからしてください」
「一日一回じゃなかった?」
「それを言うならさっきのだって大分怪しかったですよ」
「二回目って言われてもいいやと思ってしたからね」
「ふふ、悪い人ですねぇ」

 ジェイドくんには言われたくないな。
 どうしてやろうかと睨んでいると、ジェイドくんが楽しそうに笑った。

「またキスでうやむやになるかもしれないと思っています?」
「思ってます」
「ふふ、では告白しますが、僕は本当に怒っていたわけではないんですよ。ただ、ルネくんが僕に意地悪するので思わず仕返しを……」
「さ、最悪……」

 自分は散々俺に意地悪しておいて、俺がすると即座に仕返ししてくるとか。

「おや、これでも少しは傷ついているんですよ? 僕はこんなにルネくんのことを想い、親切にしてきたのにこんな形で返されたので」
「根に持ってるし……」

 ごっこ遊びをする元気も無くなってきて思わず素で返してしまった。ごめんね、って形だけでも謝るチャンスだったのに。
 いや、でも俺の意地悪なんてジェイドくんの意地悪に比べたらかわいいもんじゃないか?

「……回りくどいのは良くありませんね」
「そうだね」

 ジェイドくんはいつも回りくどいよね、と口に出すのはやめておいた。

「ルネくん」
「はい」
「正直、面白くありませんでした」
「はい?」
「だから、他の人の名前を出すことがです」

 そ、それはいつものリップサービスとかではなくて?
 笑っていたらはいはいいつものね、と流せたのだがジェイドくんは真顔だ。

「……嫉妬?」
「ええ、そういうことになるのでしょう」

 そういうことになるのでしょう!? 待って、てっきり今回もなんだかんだ逃げられると思っていたので、そんな、心の準備が出来てない!

「ほ、ほんとに?」
「はい。ルネくんがアズールを頼るのも、カイルさんに何でも相談するのも、面白くありません」
「…………ドキドキしてきた」

 心臓がものすごい速さで動いている。ジェイドくん、真顔でそんなこと言われたらそれが本心なんだって、俺、勘違いしちゃうよ。

「だからルネくん、頼るのは僕だけにしておいて下さいね」
「な、なーんちゃっては?」

 またからかわれているのでは、と疑って思わず出てしまった。ジェイドくんの目が一瞬、細められた。

「ルネくんがそうしたいのなら、それでも構いませんよ?」

 ニコ、といつもの笑顔でジェイドくんが笑った。
 他の人に助けを求めてどうなるか試してみてはいかがでしょう、ってそんな度胸試しする訳ないでしょ!

「も〜、ジェイドくん一筋だっていつも言ってるでしょ?」
「ふふ、いつものごっこ遊びですか?」
「えへへ」
「ふふふ」

 二人で首を傾げて笑い合う。これが本心なら、思っていたより俺はジェイドくんに大事にされているのかもしれない。

「さて、ルネくんからキスしてくれる約束でしたよね?」
「今!?」
「ええ、もちろん。早くしないとチャイムが鳴ってしまいますよ?」

 ジェイドくんはにこにこ笑っている。どう考えてもし辛いタイミングでしょう。

「ジェイドくんってほんっとに意地悪だよね……」
「そんな僕が好きなんでしょう?」
「……大好きだよ」

 悔しいけどね!


200602


この話のルネくん
・いつの間にか変な関係になったなあと思っている
・ジェイドが好みなので表向きだけでも仲良くなれたらな〜と思っていたらキスされたので混乱した
・ジェイドにキスをされて以来、自分だけどんどんジェイドのことを好きになっていて悔しい
・なのでジェイドくんも少しは照れろという思いからごっこ遊びに乗じて好き好き大好きだよ〜!と頻繁に言っている


この話のジェイドくん
・ルネくんがわざと言っているのには気付いたが面白くはないので壁を作った
・好奇心でキスをした人
・すぐに飽きるだろうと思っていたらルネくんが動揺するので意外とハマった
・最近はルネくんが慣れてきたのでどうやって表情を崩そうか考えている
・ごっこ遊びでもルネくんに好きだよ!と言われると嬉しい
・本心で言っていることもあるが、ルネくんにいつもリップサービスと言われるので「どうして伝わらないんでしょう」とアズールに相談するが「そういうところだろう」と返される


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Lilca