ナイトレイヴンカレッジに入学して一年が過ぎた頃。俺は二年連続で同じクラスなのに未だに他人行儀に呼ぶ級友に物申していた。

「ジェイドくんていつまで俺のことさん付けて呼ぶの!?」
「気に入りませんでした?」

 だん、と後ろの机に手を突くとジェイドくんは小首を傾げながらにっこりと笑った。

「だって後輩の子はくん付けで呼ぶんだもん。嫉妬しました」
「ふふ、ルネさんは素直ですねぇ」

 今朝、オクタヴィネルの後輩をくん付けで呼んでいるのを見てしまった俺は居ても経ってもいられず、教室に戻った途端に面倒な彼女のような絡み方をしてしまった。この一年で慣れたのかジェイドくんは特に動じた風もなくニコニコしている。

「俺のこと好きならルネくん♡て呼んで?」
「おや、後輩達と同じでいいんですか?」
「…………特別な感じでお願いします」
「そうですねぇ」

 ‪ジェイドくんは考えるような素振りをする。ジェイドくんの特別と言うと双子のフロイドくんとか、オクタヴィネル寮長のアズールくんとかだ。二人ほどの絆は得られなくても俺もなんかこう、もうちょっと仲良い感じを出していきたい。

「僕だけ呼び捨てにするのも憚られますし、やっぱりルネくんですかね?」
「俺も呼び捨てにしたら呼び捨てにしてくれるの!?」
「ふふ、そろそろ先生が来てしまいますよ、ルネくん」
「あっ、くん付けも嬉しい…………」
「……何の茶番なんだ」

 逆隣で聞いていたらしいリドルくんが呆れたような顔でこっちを見ていた。

「だって結構仲良くなったと思ったのに未だにさん付けだからさあ」
「切り替えるタイミングもありませんでしたしねぇ」
「いつでも俺のこと特別にしてくれていいんだからね」
「考えておきます」
「そういうところも好き♡」
「ふふ、光栄ですね」
「…………前から思っていたんだが、ユイトゥールはそういう茶番が好きなのか?」
「うん。面倒くさい女ごっこが好き」

 ジェイドくんはそれに付き合ってくれるから大好き。時々雑な時もあるが、それはそれで楽しい。

「ジェイドもよく付き合っていられるな」
「こういうやり取りは新鮮ですので。結構楽しんでいるんです」
「ジェイドくんは思ってもないこと言うの得意だもんね」
「ルネくん、僕のことそんな風に思っているんですか。悲しくて泣いてしまいそうです」

 ジェイドくんが目を伏せた。言ったそばから実行するこのハートの強さ、見習いたい。

「ごめんねジェイドくん、泣かないで?」
「しくしく。お詫びに僕が栽培した新種のキノコ料理の試食をしてください」
「ゲエー!」

 ノったフリをして慰めていたら足元を見られた。
 別にこの試食が今日だけならいい。でも俺は昨日もたっぷり試食したし今までの経験から行くとジェイドくんは明日も何かしらの理由を付けて試食を迫ってくる。キノコのことは嫌いじゃないが、連日食べるのはちょっと嫌だ。でもしくしく泣き真似するジェイドくんの押しは強いし、今日はジェイドくんが初めてルネくんと呼んでくれた記念日なのだ。
 俺の気持ちが徐々に傾くのが分かったのかリドルくんの目が呆れたようなものになっている。ジェイドくんに甘い自覚はあるからそんな目で見ないでリドルくん!

「……ちょっとだけだよ」
「ルネくんならそう言ってくれると思っていました」

 パッと表情を変えて笑うジェイドくん。もう清々しい。

「今日は記念日だから特別だよ。明日は食べないからね」
「記念日?」
「友情記念日」
「友情記念日、ですか」

 ジェイドくんはちょっとだけ目を開いて、すぐに表情を戻した。

「では毎年その日はキノコを食べてお祝いしましょうか」
「えっ、やだあ」
「そんなこと言わずに。ルネくんが来年も一緒にキノコを食べてくれたらもっと仲が深まると思いません?」
「……具体的には?」
「来年は呼び捨てになっているかもしれませんね」
「あー! ずるい!」
「ふふ」

 ふふじゃない。そうやって笑っとけばなんとかなると思って。そういうところも好きなので悔しい。

「ユイトゥールの方が振り回されてるんじゃないか」
「ねえリドルくんやっぱりそう思う!?」
「わ、急に腕を掴むな!」

200520



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