「……というわけで、モストロラウンジのバイトを手伝って頂けませんか。もちろん、バイト代は弾みますので」
「ジェイドくんのお願いなら聞きますとも! 任せといて!」
「ルネくんならそう言ってくれると思っていました」

 そんなやりとりをしたのが今朝の話だ。
 新メニューの実装日だったが、人手が足りなかったらしい。次の女装用の衣装代がちょーっと足りないので助かった。まあジェイドくんはそれを見越した上で言ったんだろうけど。
 モストロラウンジでのバイトを終え、更衣室に戻って着替えているとノックの後「お疲れ様です」とジェイドくんが入ってきた。

「これ、今日のお給料です」
「わーい!」
「次はどんな服を着るんですか?」
「えーとねえ、内緒!」
「おや、意地悪ですか?」
「ううん、お楽しみにしたくて」
「ふふ、では更新を楽しみにしていますね」

 お給料をしっかりバッグにしまって、身支度を整える。さあ、帰ろうと思ったところでジェイドくんに呼び止められた。

「ルネくん、まつ毛が」
「うん?」
「ちょっと目を瞑ってじっとしててください」

 言われた通りに目を瞑る。ジェイドくんの指がまぶたに触れる。ちょっとくすぐったい。

「はい、取れました」
「ありがと。そのままキスしてくれるかと思ったのに」
「して欲しかったんですか?」
「もちろん」

 いつものやり取りだ。ジェイドくんはこの後「ではまた機会があったら」と煙に撒くのだ。
 さーて、着替えたしルーティンのごときやりとりもしたしジェイドくんに投げキッスでもして帰るか!

「んじゃジェイドくんまた明日ね、……ジェイドくん?」

 顎に手を当てたままジェイドくんは考え込んでいるようだ。おーい、と顔の前に手を伸ばして振る。ジェイドくんがはっとしたような顔をした。

「ルネくん」
「はい」
「失礼します」
「うん?」

 何を失礼するのか、と思って首を傾げていたらジェイドくんの指が俺の顎を掴んだ。そのまま顎を持ち上げられ、顎クイだ、なんてのんきに考えているうちにジェイドくんの綺麗な顔が近付いてきた。近くで見ても肌が綺麗で羨ましいなあ。

「ん……!?」

 なぜだろう、キスされている。
 そっと触れるだけのキスをしてすぐに顔を離したジェイドくんは特に照れた風でもなく「ふむ」といった。
 ふむ!?

「えーと? 何か釈明があるなら聞きますが」
「いえ、ルネくんがキスしたいと言ったので」
「は!?」
「あ、もしかして僕のこと弄んだんですか? ひどい人ですねぇ」

 どっちが〜!? 間違いなく冗談だと分かっててやったくせに! 弄ばれてるのは俺の方だよ!

「俺のファーストキス……」
「僕も初めてでした」
「えっ!?」
「そういえばしたことないな、と思ったらしてみたくなりました」

 今理由を聞いてとても納得した。ジェイドくんらしいっていうかなんというか。

「じゃあこんなロッカールームじゃなくてもっと雰囲気作ったところでやってよ〜」
「すみません、咄嗟のことで」

 咄嗟すぎるでしょ。何だよ失礼します、チュッて。インスタントキスだよ。

「すみません、嫌でしたか?」
「……俺がジェイドくんに嫌って言うと思う?」
「どうでしょう、怒っているみたいなので」
「それはあまりにも情緒が無かったからだよ」

 ファーストキスがジェイドくんなことに不満は無いがキスの仕方には不満がある。もっとドキドキさせて欲しかった。そう思っていたらジェイドくんが真剣な顔で僕を見ていた。

「ルネくん」
「何?」
「もう一回してみません?」

 一度じゃよく分からなくてリベンジさせてください、とジェイドくんが言った。俺のファーストキスを奪っておきながらよく分からないだと〜!? いや俺もよく分からんうちに終わったけども!

「しません!」

200524


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