「最近ジェイドくんキスしないね、飽きた?」
「いえ、ちょっと落ち着いたというか」
「やっとか〜」

 頻繁にされていた時は早く飽きないかな〜とおもっていたが、いざされなくなるとちょっと寂しいものだ。普通の友達はキスしないがジェイドくんのせいで大分毒されている。

「寂しいとは言ってくれないんですか?」
「言って欲しいの?」
「はい」
「ジェイドくんがちゅーしてくれないから寂しいなあ〜」
「我慢してる僕にそんなことを言うなんて、ルネくんは悪い子ですねぇ」

 我慢してるの? と思ったけど多分いつものリップサービスだな。無視しよう。

「悪い子だから今日のクリームパンは一人で食べま〜す」
「ひどい、さっき僕と半分こしてくれると言ったじゃありませんか」
「嘘だよ」
「良かった。ルネくんがくれるクリームパン、結構あてにしているんですよ」
「えっ、嬉しい。俺のクリームパンがジェイドくんのエネルギーになっている」

 ジェイドくんは細いが長いので割とよく食べる。俺も食べ盛りの男なのでお昼までにお腹が空いてクリームパンを食べる。ちなみにクリームパンを食べているときにフロイドくんが遊びに来ると「オレにもちょーだい♡」と言われ、ジェイドくんの分と俺の分が半分ずつ奪い去られて取り分が減る。

「久しぶりにしてもいいですか?」
「ん?」
「話題に出されるとしたくなります」

 ああ、キスのことか。この辺だと空き教室かな。ジェイドくんに付き合わされたおかげで人気の無い場所に随分詳しくなってしまった。ジェイドくんの袖を引いて空き教室に行くと「どうぞ」と言って目を閉じた。なんだか俺の方がして欲しいみたいだ。
 ジェイドくんは少しだけ唇をくっつけて、すぐに離れてしまった。
 ちょっと拍子抜けだな、と思ってしまったので大分毒されている。

「行きましょうか」
「うん」

 そうしてジェイドくんと向かった魔法史の授業を聞いている最中に、ふと気付いた。
 俺たちの面倒なカップルごっこの茶番は特に何もない男達がやっているのが面白いのであって、キスとかしてる男達がやってるとただ鬱陶しいだけなのでは?
 ジェイドくんとのキスは隠れてやっているが、隠れてやっていることでガチ感が出てしまうし、俺の経験から行くとそういうのって多分雰囲気に出る。前より距離が近いとかそういうので。
 基本的に二人で完結しているやり取りだが、第三者が入らないこともないわけで、万が一その第三者に前と関係変わった? なんて気付かれるのは嫌だ。

「というわけでジェイドくん、いい機会だからキスしない関係に戻ろう。やっぱり爛れてるのは良くない」

 授業後、早速ジェイドくんに切り出すと特に驚くこともなく「ひどい、僕とは遊びだったんですか?」と泣かれた。一番俺で遊んでた男が言うセリフじゃない。

「本気だったけどお互いの為に終わりにしよう?」
「分かりました、ルネくんが嫌がることはしたくありませんので」

 嫌では無いんだけど。
 でもそれを今言うとじゃあ問題ないでしょって流れになってしまうので黙っておいた。

「ありがとうジェイドくん、これからは清い関係でいようね」
「ええ、寂しいですが」
「……またやっているのか」
「あ、ごめんねリドルくん」

 通りかかったリドルくんの為にスペースを開けると「キミ達は二人でいる時、いつもそうなのか?」と呆れたように言われる。

「そうだよ〜、今は最近この茶番が変な方向に行ってるから軌道修正しましょ♡って話してた」
「最近どころかいつも変だと思うけど?」
「リドルくんも混ざる? 楽しいよ」
「遠慮しておくよ」

 すげなく断られてしまった。リドルくんにはちょっと仲良くなってきた時に冗談で「俺のこと好きになった?」と言った時も「は?」と言われたのである。
 仲良くなってきた時にそんな感じで話を振った時の反応は、引かれるか、マジで返されるか、流されるかで大体三パターンに分かれる。ジェイドくんみたいに流れるようにノッてくれるタイプは少ないのだ。
 俺とジェイドくんは二年間同じクラスなこともあり、二年生の間であの二人はそういうノリが好きだからとコント的に見られている。しかし、やりすぎは良くない。周りに本気で引かれない程度の塩梅が大事なのだ。

「僕をフッたその口で今度はリドルさんに言い寄るなんてひどい人ですねぇ」
「誤解しないで、いつでもジェイドくんが一番だよ♡」
「そのノリにボクを巻き込まないでくれ……」

 キスの件はジェイドくんもあっさり頷いてくれたので、今日から前のジェイドくんとルネくんの関係に戻ると決めた俺は意識してジェイドくんとの物理的距離を空けることにした。なんか最近距離近い気がしたし。出来ることからこつこつとだ。
 思えば、ロッカールーム事件から随分長いことキスに振り回されたなあ。前は「手繋ぎます?」と言われた時に「いいの〜?」と喜んでいたが、キスするようになってからは照れるので断っていた。今思うと付き合っているのを隠しているカップルみたいで恥ずかしいな!
 この時の俺は、簡単に元の関係に戻れると思っていて、見通しが甘かったと知るのはそれから数日も経たないうちだった。

200528


back
Lilca