王子様と初めまして
いつもはれいちゃんと一緒だけど、今日は珍しく一人でボイトレの日。
一人だからと送れないように早く家を出たら思いのほか早く着いてしまった。
ここの先生はLDH所属のボーカルのほとんどを担当してくださっている方でデビュー時からずっとお世話になっている。
だから良くいろんな方に会ったりする。
今日も先客がいるようで、外でその声を聴きながら自分も発声をする。
ああ、この人の声綺麗だなあ…。
なんとなく聞き覚えがある気もするけど思い出せない。誰だろう…。
ガチャッ
前の人が終わったのか、先生が部屋を出てきた。
「あれ、山田さん珍しく早いね」
『先生、お疲れ様です』
「今終わったのよ、ちょっと休んでからでもいい?」
『大丈夫です』
「じゃあ中入って準備しといて」
先客がいたことも忘れて先生の言った通り部屋の中に入る。
『あ…』
「…ん?」
さっきの綺麗な声の人…。そうか、この人が、あの声が
『カタヨセさん』
CDのジャケットに映っていたよりも幼い顔立ちで一瞬わからなかったけど、そうだ。と思う。
背が高いし、なんとなくみんなから聞いていた雰囲気的に。
「俺のこと覚えててくれたんやな、」
『… …は?』
「ん?なんや」
待って待って、なんでタメ口。しかもなんだこの知ったような言い方は。
てか多分話すの初めて。馴れ馴れしくない?そりゃ年も近そうだけどさ、っとこんなこと言ったら性格キツイって思われそうだな。
どうしよう、何か会話しておくべきか…。
『あの…えっと、声綺麗ですね。なんか好きです』
「え…?」
褒めたつもりなのに眉を下げて悲しそうな顔をするカタヨセさん。声を褒められるの嫌いなタイプなの…?
れいちゃんならニヤニヤして喜ぶのに。
「まさか忘れてるん…?」
『忘れてる?何を…ですか?』
「嘘やろ…?約束したやん」
『約束…』
私がカタヨセさんと約束?あっ、龍友が言ってた新曲の感想をってやつか。まだ聞いてないけど。
なんて誤魔化そう、そうだれいちゃんが感動したって言ってたな。
『感動しました』
「は…?本気なん?」
『約束って、新曲の感想…』
「ちゃうわ、」
「ハア…だからか」と言って私の目の前に立って肩に手を置かれる。うわ、背高いな…。頭一個分くらい上にいる。
「約束したやん、お互い夢が叶った時にまた一緒に歌おうって」
『え…なんでそれ知って、』
「約束は覚えてて俺のことは忘れるとか、酷いな」
『待って…え?じゃあ、』
昔約束した、一緒に歌っていたあの人は…カタヨセさん?
「久しぶり、また会えたな。花子ちゃん」
ギュッと抱きしめられて耳元で名前を呼ばれて、一気に思い出がよみがえる。
ああ、この声だ。この人だ…。
『… …涼太?』
「ふふっ、思い出した?」
『本当に涼太…?』
「そうだよ、」
『な、なんで言ってくれなかったの!!』
「いや、気づかないフリしとるんかと…」
『バカじゃん…』
「バカなのは花子ちゃんの方やろ…」
抱きしめられる力がグッと強くなって、急に恋しくなってそっと腕を涼太の背中に回す。
「2人とも歌手になれたな、」
『…うん、』
「花子ちゃんかわいなっててビックリした、髪切ったんやな」
『涼太も…大人っぽくなってて気づかなかった』
「ほんまやで、気づけや」
『ごめん…』
「言えてよかった、」
『私も、』
そっと体を離されて、抱きしめられていたことを思い出して顔が赤くなる。
『…っ///』
「何照れてるん」
『だって抱きしめられて…』
「花子ちゃんだって抱き返してきたやん」
『はあ?そんなことしてない』
「ああ、ほんま素直やないな」
『…うるさい』
「ふふっ、うん。でもやっぱり、」
『…ん?』
顔をあげて涼太の顔を見れば、あの頃と変わらない優しい笑顔で胸の奥がキュンとした。
「花子ちゃんの声はお姫様みたいやね」
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