天才と聞いて思い出すのは、個々の才能を持て余して雲散した愛しかった背中だ。
止めたかった、でも天才じゃない私には彼らの気持ちもわからなければそれをバカにする疎ましいまでの才能なんて嫌いだとすら思った。
だから、虹村がいたときに赴いた全中で実渕玲央を見つけたのは私の中で大きな確変だったのだ。
私たち帝光中に負けても、まだ尚残る試合のために全力で臨む姿。彼らの才能を前にして絶望したカオも、それでも食らいつこうと軋む歯も、すべてが輝かしかった。

彼は宝石だと。私には、思えた

覚醒すればどんなものにも負けない武器を身につけられる。
そう、あの子達の知らないチームワークと努力という武器。


「こんにちは」
「…帝光中のマネージャーさんが何の用?」


こうして手にした宝石は今も私の手の中であたためられている。
来るべき時に満足を彼に与えるために。
あの子達はそのうち散り散りになるだろう。
虹村が抜けて統率するものが絶対的な支配力を持つ限り、彼らはお互いの才能を凌駕してやろうと鼓舞する。そしてそれがぶつかり合って弾けたときに、玲央がそこにいたら。その時にやっと実渕玲央は私のものになるのだ。


高校二年のウインターカップ
開闢の帝王と呼ばれていた赤司を有する洛山高校は、キセキの世代を持たない、無冠の五将の鉄心のいる誠凛高校に負けた。
準優勝だ。
赤司は泣いているし、会場は歓声に湧き上がり白熱したまま。
けれど、冷め渡っているのは私の無冠の五将たち。
愛おしい。
かわいそうに、同じ『無冠』であるはずの鉄心のいる相手に負けた。
しかも、彼らはキセキに負けるなら納得するのだろうが、そのキセキすら有しない新生のチーム。

ああ、歓喜にもう、鳥肌が止まらないし上がる口角が、引き止められない。
これで私の手元に堕ちてくるのだ。

スッキリしてこれからはチームで戦っていこうと、新たに洛山のチームの結束が固まったミーティングのあと、玲央は消えるように部員の間をすり抜けて何処かへ行った。
それに気付いた葉山と根武谷には、少なからず玲央と同じ思いがあるのだろう。
しかし二人はそこまで繊細でもなければ『無冠の五将』に無意識にこだわっていたわけでもない。
大丈夫、と目配せをして長めの黒髪を追いかける。



「体冷やすとさすがに風邪ひくよ」
「……」


東京体育館の裏で冬の木枯らしを気にもせず座り込む彼の隣に、自分のコートを羽織らせてから座る。


「…名前こそ、私にコート貸したら風邪ひくわよ」
「甘いなぁ玲央は。女の子は制服の下にヒートテックを着たりね、それなりの対策はしてるんですよ」
「ふふ、なにそれ」


力のない笑顔に心が痛むが、それよりも今は。
付け入って私という岩石を飲み込ませなければいけない。


「負けちゃったね」


玲央は何も言わない。
言えないのだろう、無冠の五将という立場にここまで執着していたことに、赤司率いるチームでキセキのいないチームに負けて、初めて気付いたのだ。


「黒子は昔から一生懸命だったから」
「っ!そんなの、私だって…っ!」
「うん。知ってる」


ニコリと笑ってみせると、玲央は綺麗な顔を歪めて泣く寸前のような表情をした。


「黒子は一生懸命だったよ、キセキを元に戻すために。周りを犠牲にしてだって元に戻りたかった」
「それなら!それなら、どんな代償を払っても、私だってキセキになりたかったっ…!」
「そんなものならなくてもいいじゃない。どこがいいの?私はそのままの玲央が好きだよ」


葛藤とプライドと幸福感が一気に渦巻いて一瞬で支配される。
視界には体育館の床ではなく過去にもがいてきた己と、合間に見える名前。


「玲央。玲央が一歩踏み出しなさいよ
さあ、あなたから私に私を寄越せって踏み込んでくる番だよ」


飲み込んだ宝石が、彼の下っ腹のよりもっと下で熱すぎる温度で羽化する







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