夢を見た。


幸せで暖かくて、何てことない日々──


「あれ?」


パッと目覚めた視界には冬物のコートを着た自分の袖口が見えて、なぜだか荷造りをしていた途中のようだった。
なんでだろう。
そういえばここ、実家だ。
私は東京の大学に通うため一人暮らししてるはずなのに、なんで…


「名前ー?準備できたのー?」
「ッ!は、はーい!」


母の声が階下から響いてきて、その内容に反射的に返事をしてしまう。
様子を察するに、おそらく帰省していたがまた東京に戻る直前なのだろう。

なんでだろう…
帰ってきた覚えもなければ帰省していた間の記憶もないのに、何故か東京に戻るための新幹線の時間は把握していて、次の日のバイトの時間もはっきりと覚えていたからその通りに行動した。


「終わったよ」
「もう、ギリギリじゃない。お父さんが送ってく予定だったけど黄瀬くんが迎えに来てくれから、黄瀬くんのお家の車で一緒に乗せてもらいなさい」
「え?」
「名前っち!一緒に帰ろ!」


私、黄瀬くんと知り合いじゃない。
確かに憧れてたけれど、あれ?
わからない、わからない。
でもなんでだろう、楽しいし嬉しい。
誌面じゃない黄瀬くんはくるくると表情が変わるけど、常に気を遣って話を振ってくれて、穏やかな雰囲気だ。
和むなぁ…嬉しい。
そうだ、そうだよ。私は黄瀬くんに憧れて恋心を抱いていたんだった。
だから嬉しいのは当たり前じゃない。


何を悩んでいたんだろう?


「……?」


不思議に思う気持ちとそれを上塗りするように描かれていく日常風景。
ああそうだ、私は疲れてたから実家に帰りたかったんだった。
だからここにいて、黄瀬くんと一緒に彼のご両親の運転する車に乗って、地元の最寄り駅に──


「きゃっ!?」


突然、すいすい走っていた車が私を残して潰れた。
なに…?なんなの…?
私だけ切り取られ、上手に孤立されていた。
斜め前を見れば建物にぶつかりひしゃげて煙をあげる車。

あの中には、まだ…


「ひっ!」
「ねえ、死んでくれる?」


黄瀬くんの家族が乗っていたはずなのに、と思っていれば、顎下から強く拳銃を突きつけられた。


「か、和成?」
「名前。大丈夫だから死んでよ、な?」


見慣れたはずの幼なじみの橙色の瞳が危うげに光る。
これは、本気の、とき。


「っい、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!嫌だよ!なんで!?」
「なんでって、大丈夫だからさ。俺の言うこときいてよ」
「やだよ!死にたくないよ!なんでこんなことっ…!」


途端に喉から一気に焼けたような熱い痛みが走り、乾いた音が響いた。
痛みのあまり気を失いかける時に見えたのは、笑む幼なじみの口角






「起きた?」


なんだか変な感じがした。
確かに死んだのに何故か生きているのに何故か生きた心地がしない。
なんだろうこれは


「 死蝋化したんだ、名前を。これならずっと一緒にいれるでしょ」


しろうか?
よくわからないけど聞いたことはある。
死体が蝋燭みたいになって腐朽しない現象だ。
でも、硬くなってなんかいないし自由に動かせる。
ただ、血の巡りや、心臓の動きを感じない。

潰れた車の中からはみ出た、私の大学のための荷物。


「───いいの?」


いいのだろうか。
このまま嫌な人間関係も難しくて大変な勉強も自分を抑えるだけの就活も投げ出して彼に身を委ねていいのかな。
もう戻れない。
そう戻れない。


「いいよ。名前のことは俺がみーんな、おせわしてやるから。なにもいらない」


そっか
なら投げ出してしまおう。
このまま彼と朽ちぬ日々を淡々と過ごして、この暗い森の中のような道をただ歩むだけでも幸せで仕方がない。


「ねえ、本当にいいのかな──」


もど、れない





「──嗚呼、全部、夢か…」


また黄ばんだ天井が私を迎えた。





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