静かに佇む彼女と、どうやって距離を縮めたのかはよく覚えていない。
しかしそれは自然に、徐々に、お互いの体温が近づいていったのだと思う。
不思議なことに彼女は俺がモデルをしているスタジオにもふらりと現れたし、どっか気まぐれに女の子とデートしててもひょっこり出てきた。
「涼太」
穏やかに俺を呼んで、変わってくみんなをしゃがんで見ているだけの俺にその白魚のような手を風になびかせて伸ばす。
爪はいつも短く切り揃えているから、ふっくらとした指の腹が頬を撫ぜる。
やわらかい。やさしい。
目を閉じて名前からの愛情を享受する。
嬉しくて嬉しくて、ニコニコ笑ってしまって。さらにそれで名前がほわ、と笑ってくれるから。
周りの女の子たちはこぞって嫌な顔をし、名前のことをストーカーじゃないの?と言ってきたが、なぜか俺はいつでもどこでも現れる名前に対しての嫌悪感はなかった。こういう時、俺は名前を嫌がる女の子たちを嫌がってしまって、俺が呼んでるんだよと言えばうそだぁと女の子たちは驚いていた。
だから俺はわざと、
「俺は名前が大好きだからGPSでいつでも居場所を探せるようにしてるんスよ。名前の隣は落ち着くからさ」
って言ってやった。
みんなドン引きしたような目で見て去っていく。
そんなモンだ。
黄瀬涼太という生物なんて、人間性の魅力はないに等しいんだ。
それでも中身を見てくれていたバスケ部のみんなを信じたかった。でもそんな気持ちとは逆に、俺の方が強いんだっていう自己顕示欲が芽吹き出して、それからはあっという間だった。
青峰っちは俺のつまんないギャグに笑ってくんない。
赤司っちはいつものように叱ってくんない。
紫原っちはお菓子の話題を俺にふってくんない。
緑間っちは俺に日本語が間違ってるのだよだなんて注意もしてくんない。
黒子っちは、黒子っちは……
かなしいめで、おれをみるようになった
世界が前よりもっと真っ暗になったと思った。
その中でもプライドだけが先走りして暴走する中で、名前だけが、俺を止めてくれたんだ。
「カナリアみたいな髪の色だね」
そうやって体育館裏でふさぎ込む俺に声をかけてくれたのが始まりだった。
「、は…?」
「カナリアって知ってる?綺麗な真っ黄色の鳥なの」
「え、あ、いや…知ってはいる、けど」
「カナリアみたいだね、黄瀬涼太」
あまりにも純粋に笑って美しい鳥に喩える名前に、警戒心も不信感もぶっ飛んで、ただ涙が出た。
かっこ悪くて笑える。
カナリアだなんて、そんないいものではない、俺は。
けれど、それでもダミ声で訴える本音は、いつも嘘くさく笑って冗談を吐き出している時よりよっぽどマシに思えた。
「私は好きだよ、君のコト」
頭を撫でて、聞き飽きたはずの言葉を聞かされても疑う余地も無かった。
「じゃあ、じゃあ…そばにいてよ、ずっと」
「うん。私がいるから、もう下手くそな歌なんてうたわなくていいよ。もっともっと広い、涼太の見たことのないとこに連れてってあげる」
だから俺は名前について海常にきた。
彼女の言う、まだ見ぬ世界を見るために。
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