冬の篠突く雨
雨夜
百目木明とわたしとの関係を言葉にするには、あまりにも主観が入りすぎていて、うまく第三者には伝わらないのではないか、と思う。
しかし一人対一人で互いがその環境に向き合った時、その人達の間で強い相互理解というものが初めて生まれ、その関係性に意味を持つのではないかとも思うのだ。
初めて見た百目木明の印象は人と話すのが苦手なのだなというものだった。顔の割に雰囲気がパッとしない。
気遣うように笑い、不快にさせないよう言葉を選ぶ。そんなに遠慮しなくてもいいのに。チラリとあまり近くはない席でクラスメイトと関わる百目木明を見る。
ある種の美徳ともいうのかしら?
彼女の兄は有名人である。
何でも細胞研究に若くして腕を発揮し、その才を買われ京大の研究室へわざわざ東京の郊外から招かれたそうだ。
メディアで彼の論文の素晴らしさと功績を讃えて京大での実りを期待する誂えにも似たそれを聞き流しつつ、主に褒められているのは頭脳よりその美貌じゃないか、と対して興味のない自分にもわかるほどだった。
そんな兄を持ちつつも鼻に掛ける様子もなければ自分が有名人ぶる仕草もない。
卑屈さのない謙虚な姿勢は静かな好感とともに周囲に興味を失わせた。
そうして出来上がった、一人ぼっちの美しい転校生。
彼女が転校してきた冬を通り越し、高二の春になったときに気まぐれに彼女に声をかけた。
「また同じクラスね」
百目木明の前の席に腰掛け、にこりと笑う。大きくまばたきをした彼女の表情は幼い。
「名前教えてくれる?」
「…私、の?」
「他に誰かいる?」
知っているが、わざと尋ねる。
やんわり口元をゆるめて、彼女はさらに笑った。
「百目木明です」
「実渕玲央よ。名前で呼んでくれると嬉しいわ、明」
「玲央君」
「──よろしく」
部外者として見ているよりこの子はよっぽど話しやすく面白い子なのではないか。
程なくしてわたしと明の線は繋がったのだ。
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